第3話ゴリラ並
「人生ってナニ?」
幼い頃に保育所の先生を捕まえて問うたことを、数十年たった今でも鮮明に覚えている。
俺の名前は星(ほし)海(うみ)銀河(コスモ)闘士(ファイター)。苗字が星海で、名が銀河闘士だ。
なんだよその名前(笑)という反応だな。
いいや大丈夫、謝る必要はない。そういう反応には慣れている。
なんせ、今まで会ってきた人、学校の奴ら、教師、保護者、役所の犬ども、全員例外なくこの名を見ると人目もはばからず噴き出して笑うのだ。
俺の家庭は、世間一般的には異端とされるようなモノなのだと思う。
齢16で俺を産んだ母親と50代の父親。両親ともに倫理観の欠如した異端者だ。
父と母から、交互に罵倒と物理の雨を受ける苦痛の日々。
さらに母は、根っからの束縛女だった。俺は生まれてから8歳になるまで、一度も家の外に出してもらうことがなかった。
ある日、母がいつになく不機嫌な様子で帰宅した。
俺は母親に服の襟首を掴んで風呂場まで引きずられた。そして何か月ぶりかのお湯を浴びた。
その後、タンスから若干臭う黄ばんだシャツを着せられ、生まれてはじめて外へと連れ出された。
初めて浴びる太陽の恵み。怯える暇もなく、母親に腕を引っ張られる。
初めて乗る車。テレビの画面越しでしか見ることのなかった景色が視界いっぱいに広がっていく。あの時の感動は今でも忘れられない。
車に乗せられた俺は、その後に近くの店へと連れられる。当時は読み書きどころか、日常会話すらおぼつかなかった俺には、その店がなんの店なのかを知るすべはなかった。しかし、今にして思えばアレは制服屋さんというやつなのだろう。
そんなこんなで、俺は小学校と進学塾に通うことになる。
小学校はともかくとして、通塾はいきなりじゃないかと思った人は、とても勘の鋭い優秀な読者だ。
後に判明するのだが、どうやらパート先のママさん組から育児マウントを取られ腹が立ち、一連の行動に移したのだと。野生のゴリラがドラミングをして同族に対して自分の優位性を示すように、人間の雌というのは己の子の出来不出来、子供への投資額で優位性を量るらしい。
同族へのマウンティングというものは基本的に不快なモノであるが、ゴリラと違い己ではなく、他者を使って比較する分、人間の方が見苦しく思えて仕方がない。
まぁともかくとしてそんな不毛なマウンティングによって俺は最低限の一般知識を得ることが出来たのだから、ゴリラ未満のマウンター雌たちに感謝しなければならない。
ムライ・ミライ ~未来に頼ることができないアナタへ~ トサカザムライ @TK1115
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