マギウス×マギカレイド (Magus×Magikaraide)
4^2/月乃宮 夜
第1話 崩壊する夕暮れの日
とある夕刻の頃だった。
夕景特有の空に暗く沈んだ街並み。
太陽は遠く地平線の下にあった。街灯が白くぼんやりと周囲を照らし、かろうじて道が見える。
そこを一人の人間が歩いていた。
くたびれたスーツに鞄と眼鏡と、ごく普通のサラリーマンだ。
今日は月にたった1日のノー残業デーで、定時で仕事を切り上げたところだった。これで早く娘や妻に会える、とか、お土産にケーキでも買って帰ろうか、とか考え、最寄り駅内部のケーキ屋で軽く人数分のケーキを買った帰り道だ。
帰りと土産の連絡はすでに済ませ、あとは家に帰り着くだけだ。妻は夕飯を作って待っていると言っていたし、娘も自身が帰ってくるのを待ち侘びている様子だった。本当にそうだったら良い。
もうじき家に着く。何度も往復し見覚えしかない景色を無視して歩いた。土産のケーキを崩さないように。せっかくここまで無事に持って帰ってきたのだ。そのまま家まで送り届けたかった。
だが。その目論見は崩されることになった。
「どうもこんばんは。良い夜ですね」
目の前に男が立っていた。
その男は、どこか異様だった。
例えばその服。
どこかの物語の登場人物かのような、派手な色合いのスーツだ。ハロウィンの夜ならともかく、こんな平日の夕暮れにするような格好ではない。
例えばその髪。
妙に色素が薄い髪はやけに長い。そこはまあ個人の自由だから良いのだが、その毛先が妙だった。ひどく捻じ曲がってくるくると渦を巻く形状をしていた。
異物、だ。
それだけが本能的に分かった。
反射的に逃げ出そうとするが
「逃す訳が無かろう」
一言呟き、男は軽く手を横に振る。
途端に体が動かなくなった。何か、見えない力に拘束されたらしい。
「『さぁその正体を表せ! お前の闇を引き
口上と共に、男は何かを引きずり出すような手振りをした。途端に胸が苦しくなる。だが、体はどうやっても動きそうにない。これから自分はどうなるのだろうと、悲しくなった。そして家族と過ごせなかった日々を思い出し、そんなブラックな会社に怒りが湧いた。
……家族は、こんな自分をちゃんと見てくれていただろうか。『金を稼いで家に帰ってくるだけの人』だと、認識されていないだろうか。
「ああ、良い闇を持っているではないか」
恍惚とした表情で男は笑う。ずるり、と引きずり出された黒い何かを、男が片手に掲げた。
「『
パサリ、とケーキの箱の落ちる音がした。
そこで意識は途絶える。
×
人間が意識を失ったと同時に、巨大な怪物が現れる。
それは『
家をも凌駕する純黒の体躯を持ち、目に映るもの全てを破壊し周囲に不幸をばら撒く。その様は『
周囲がよく見えるよう、男は電柱の上に腰掛けた。
「これはこれは……随分と溜まっていたようで」
めちゃくちゃに周囲を破壊して行く怪物『
怪物を召喚した男は普通の人間ではなかった。
派手なスーツの男は、暗黒の国『メディア・ノクス』の者だ。『
そして、こちらの世界の住民が使えない摩訶不思議な力を使い、この世界を侵略しようとしていた。
「行け、『
男の言葉を合図に、現れた怪物は歩き出す。アスファルトで舗装された道路を
あたりは騒然となった。
夕方のこの時間は児童生徒の登下校時刻とほとんど被っているし、『
すぐに通報され、警察などの自警組織が住民の避難を指示した。
「これで、この世界に
サイレンと規制線の貼られる音を聞き、男は呟いた。
言葉と同時に
男がこんな場所で『
自国の統治者『インフィーニ』の命令だからだ。
『
自世界の住民ではもう
「ゆくゆくはこの世界を支配地とし、たっぷりと
ふと視線を下すと貼られた規制線のあたりに泣き出しそうな小さな子供の女と不安気な表情の大人の女の姿が見えた。一際強く
すると、依代になった者に近い遺伝子だと結果が出た。おそらく、
「(……ああ、そうか。『家族』とかいう集団が、あるのか)」
ふと、資料の内容を思い出した。
『
ふと、『家族』とはどのような物だろうかと興味が向いた。視線の先の子供と女は多量の
だがそれを試すのはまた今度にしよう。時間はたっぷりとあるのだから。
原住民どもが騒いでも、哀れや同情の感情は湧かない。
だが、慌てる原住民どもが愉快でたまらない。己の中で燻っていた感情が満たされるような気がした。
「クク、フハハハ! もっと壊せ! 破壊し不幸を振り撒くが良い!」
ただそんな気がするだけで、実際に満たされることはないが、分かりきっていた。
だからか、段々とつまらなくなってくる。
この世界には『
このまま放っておいても問題はなさそうだ、と視線をずらした時。
強い煌めきを持つ女子に気付いた。
静かに、真っ直ぐにこちらを見据えた、橙色の目に釘付けになる。
あんなに強い視線を向けられるなど、よくあることのはずだった。こうして統治者の命令で『
灯火のような煌めきに、己の中の何かが動いた気がした。
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