第254話 宇宙の果て?
side ミナト
一瞬で、ドミニクの前に移動したケンシンさんたちが、剣を振るった。
シュッ、カキン
ケンシンさんの剣を躱し、ヨシノさんの短剣を弾くドミニク。
今、ケンシンさんは、ドミニクに向かって「シンジ」と叫んでいたけれど…………まさか?
ステータスが上がって耳が良くなった僕に聞こえてきた、ケンシンさんたちとドミニクとの会話の内容は…………
自分はシンジだけれどシンジではないという、訳の分からないことを言っていたけれど、昔、ケンシンさんに呪いをかけたときのことを話していた。やはりドミニク=シンジのようだ。
あ!
今、ドミニクの周りでは、黒装束たちへの攻撃の手を緩めない長老さんたちの「魔力矢」が、雨のように降り注いでいる。
「ケンシンさんたちに『魔力矢』を当てないようにしてください!」
「分かっておるぞ!」
「そんなヘマはせん!」
「心配しないで大丈夫じゃ!」
生き生きとしながら、次々と「魔力矢」放つ長老さんたち。
その時、ヨシノさんがドミニクに肉薄した。
――――速い!
カキン!
でも、ヨシノさんの剣はさっきと同じくドミニクの剣で弾かれる。
今度は、ケンシンさんが地面を擦切るように剣を振り上げた。これも剣で流しながら躱すドミニク。
周囲の黒装束たちは、長老さんたちの「魔力矢」によってかなりのペースで数を減らしている。もう立っているのは5人ぐらい。
なぜか、急にドミニクが黒装束たちの援護をしなくなったから、黒装束たちへの対処はエルフの人たちに任せておいてよさそうだ。
!!!!
一瞬、ドミニクから目を離したのが良くなかったのか、ドミニクが振るう剣がヨシノさんを捉えたのが視界に入った。
飛び下がるヨシノさん。右肩を浅く斬られたのだろう。でも、ダメージは少ないようだ。
カキン
カキン
カキン
ケンシンさんとヨシノさん、二人を同時に相手をして斬り結ぶドミニクの剣筋は確かだ。いや…………どちらかというと、二人を上回っている。
ヨシノさんが振り下ろした短剣をドミニクが躱すと、そのまま今度は振り上げようとしたヨシノさんが、雨にぬかるんだ地面に足を取られて、わずかにバランスを崩した。
――――まずい!
僕はヨシノさんを援護するため、みんなを守っている「ばりあ」の中から、ヨシノさんの側へ「縮地」のスキルで向かった。僕が「ばりあ」の外に出ても、その「ばりあ」が消えることはないから大丈夫。
本当ならヨシノさんたちを個別の「ばりあ」を使って守りたいけれど、さすがに二人の動きを完全にフォローはできない。「ばりあ」は僕の意思で動かさないとダメだからね。
「「ミナト!」」
「ばりあ」から抜け出した僕の後を、アンジェとエルが追ってきた。
▼▽▼▽
side ドミニク
カキン!
バランスを崩したヨシノに再び傷を負わそうと、ドミニクが横薙ぎに振るった剣が、突然現れたミナトによって防がれた。
後ろに跳び下がるドミニク。
「ミナト殿!」
「ミナト様!」
「助太刀します!」
「ん」
「わたしも!」
「かたじけないでござる。だが…………シンジは拙者たちが倒すでござる!」
「分かっています!ドミニクへの手出しはしませんから」
――――ふむ
目の前の5人の会話を聞きながら、ドミニクは小さく首を傾げた。
雨が一段と強くなり始めた。土砂降りとまではいかないが、数十メートル先の視界は雨に煙っていてはっきりとしない。
今、ドミニクの前に並ぶのは、左からヨシノ、ミナト、アンジェ、エル、そして右端がケンシンだ。
――――なんとまあ、こうも見事に揃うものなのですね……
ドミニクは、全てが
この場に不要なルーヴァと星霊は、ミナトが「ひらがなスキル」で作った防御膜の中にいる。
これ以上は求めようがない程の展開だ。
これからの「台本」を演じるために必要な5人だけが目の前にいる。「舞台」は整った。
「
ドミニクは、一人も逃すことがないよう素早く「
そして――――唐突に、雨が止む。
▼▽▼▽
side ミナト
ドミニクが「エリア!」と叫ぶと、雨が降り止んだ。
――――なんだ?
今まで降っていたのが、まるで
上空を見上げると、目に見えない屋根が現れたように雨が弾かれている光景が見える。
おそらく、ドミニクが使った「超能力」は、僕の「ばりあ」と同じように外部と遮断するための力なのだろう。力を放った言葉も「エリア」だったからね。領域、という意味のはず。
辺りを見渡すと、どうやら50メートル四方の空間だけ雨が降っていない。これが「エリア」の範囲なのだろう。
『ミナト様!』
眷属間通信で伝わってきた叫び声に振り返ると、「ばりあ」の中にいるルナを抱えたルーが心配そうに僕たちを見ていた。
『ルー、「ばりあ」の外には出ないで! こっちはアンジェとエルもいるから、なんとかする!』
『分かりました! お気を付けください! アンジェさんとエルちゃんも気を付けて!』
『ん!』
『大丈夫!』
僕は、安心させるようにしっかりとルーに頷いてから、視線をドミニクに戻した。
よし。まずはドミニクが作ったこの「エリア」を確認しよう。
「魔力弾!」
空に向かって「魔力弾」を放つ。
ドン!
目に見えない境目に激突した「魔力弾」は、小さな衝撃音と共に消滅した。
「何をしたいのかは分かりますが…………そんな無駄なことをしなくても教えますよ」
ドミニクの半ば呆れたような声。
「じゃあ何をした! 『エリア』ってなんだ!」
「だから、教えると言っているでしょう。凄む必要はありませんよ」
隙を伺うケンシンさんを目で牽制しながら、ドミニクが肩を竦めた。
「私が作った『エリア』とは、あなたの作った防御膜、確か『ばりあ』でしたか、それと似たようなものですよ」
やっぱり、この「エリア」は外部と遮断する力ということか…………
「『エリア』は、地下を含めて正立方体の空間を隔離します。解除しない限り、出入りは私でもできません。もちろん「転移」もね。物理的な影響、魔法的な影響も完全に遮断します。私以外ができる解除条件は――――私の死です」
空間の隔離、か…………「ばりあ」よりもどちらかというと、僕が使う「ルーム」の方と似ているんじゃないかな? 「ルーム」は亜空間に作られるけれど、ドミニクが使った「エリア」とは、現実空間のまま「隔離する」という力なのだと思う。
まてよ…………
「物理的な影響も、というと…………まさか、空気も?」
「もちろんです。もっとも、この広さに6人なら、酸欠になるまで何百日とかかるでしょうが……」
確か3メートル四方の密閉された部屋で、酸欠になるまでの時間は約1日というのを前の世界の小説か何かで読んだことがある。50メートル四方の空間なら、確かに酸欠の心配はしなくてもよいか…………
「とにかく、お前を倒せばよい、ということでござるな――――シンジ」
ドミニクを睨みながら、ケンシンさんが低い声で呟いた。
「そう、その通りです。他に質問は?…………」
僕は、疑問に思っていたことを口にする。
「なぜ、ユグドラシルを破壊するんだ? 目的はなんだ? もしかして、世界の破滅が望みなのか?」
「もちろん目的はあります。そうですね…………あなたに一つ聞きましょう」
面白い、といった感じの視線を僕に向けるドミニク。
「あなたは科学を知っているでしょう?」
「…………ああ」
「宇宙の果て、とはあると思いますか?」
「は?」
突然、ドミニクが訳の分からないことを尋ねてきた。
――――宇宙の果て? それが何の意味があるというんだ?
「無限、とは、無限と思った人だけが認識するものです」
今度は無限。何が言いたいのか全く分からない。
「例えば、ここに丸い球があるとします。この球の表面が『宇宙の果て』です。そしてこの球の表面はどこまでも伸びるとします」
そして、ドミニクは丸い球を目の前に作り出した。
「球の中にいる誰かが、宇宙の果てを目指したとしましょう。球の表面—―――その内側ですね――――そこまで来てさらに進むと、球の表面がどこまでも伸びます。中の誰かは、どこまでも進むことができます。つまり、宇宙の果てにはいつまでも辿り着きません。いわば無限です」
球の表面の一部が、まるで棘のようにグィっと伸びて飛び出す。
「ですが…………この球を外から見ている我々には、宇宙の果てが見えています。有限、ということです」
これは、あれだ。低次元生命体は、高次元を認識できない、というのと同じやつだ。
僕はドミニクに答えた。
「次元の違いを言っているのか?」
「ああ、二次元と三次元の違いのようなことをあなたは言っているのですね。まあ、認識としてはそれでも良いでしょう。もっと近い言葉で言うなら、『人の視点』と『神の視点』の違いといった方が分かりやすいでしょうか…………」
…………視点の違い?
「まあ深く考える必要はありません。私の目的は――――外からこの球を見ることにあります」
「…………神になりたい、ということなのか?」
「ちょっと違いますね。私にとって『この球』は大切な球なのです。そして、その全てを手に入れる――――いや…………正しく言えば、手に入れるのではなく、取り戻すために必要なことを行っているだけなのですよ」
「ユグドラシルの破壊が、お前の望みを叶えてくれるというのか?」
ドミニクは首を横に振った。
「違います。ユグドラシルの破壊の意味は、最初のきっかけを作るためです。でも、もうきっかけは作られました。ですので、私の目的は――――まあ、戦えば分かります」
ドミニクの言っていることが、さっぱり分からない。
「ミナト、迷わなくて良い」
アンジェが僕の袖をそっと掴んだ。
「アンジェ…………」
「ミナトは、ミナトが信じる道を真っ直ぐに進めばそれでいい」
そうか…………
煙に巻かれたような答えに苛立ちを覚えたけれど、僕たちを焦らすことこそがドミニクの目的かもしれない。
「分かった。ありがとう、アンジェ」
「ん」
僕たちのやり取りに何を思ったのか、ドミニクが笑った。作り出した球体を消す。
「まあいいでしょう。他に質問は…………なければそろそろ始めましょうか?」
そう。今、ここにいる目的はケンシンさんがドミニクを倒すこと、そしてそれを僕たちがサポートすること。
ドミニクの言葉に、僕たちも戦闘態勢に入る。
「アンジェ、エル。ケンシンさんたちのサポートをするよ」
「ん」
「分かったわ」
「ケンシンさん、ヨシノさん、十分に気を付けてください! ドミニクの力は魔力やスキルとは違う『超能力』という力です。意思の力で発動するので、気配を探ってください。集中すれば、ケンシンさん、ヨシノさんなら発動のタイミングが分かるはずです!」
「気配でござるか! 分かったでござる」
「はい。ミナト様もお気をつけて」
そして――――戦闘が開始された。
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