第7話 5年後。けんじゃ……orz



■ 5年1月23日 12:00 ■


この仮想世界に来て、5年が経過した。


今のステータスだ。



種族:人(魂)

名前:湊

LV:-

HP(体力):-

MP(魔力):1833

魔法力:D

攻撃力:-

精神力:F

防御力:F

素早さ:-

運:G


生活スキル:言語理解(LV10)、清掃(LV11)、クリーン(LV11)、料理(LV1)、灯り(LV11)、飢餓耐性(LV11)、けんじゃ(LV11)


普通スキル:鑑定(LV18:遠目)、察知(LV16:パッシブ、気配)、耐性(LV16:パッシブ、毒大)、治療(LV12:全体)、転移(LV22:移動)、剣術(LV23:強化、双剣)、疾走(LV11)、弓術(LV16)


特殊スキル:-


パッシブ:察知、耐性




毎日の行動は、基本的に前と変わらない。


走ってダッシュして、を続けたら半年ぐらいで「疾走」のスキルを手に入れることができた。やったー。


また、新たに分かったこと。


スキルはレベルが上がれば強化されていくけれど、同時に一定のレベルに到達すると、そのスキルに特化した力「技能」が獲得できるみたい。生活スキルには、今のところ技能は現われていないけれど……


鑑定も、最初は、せいぜい10メートルぐらいの距離までしか鑑定できなかったけれど、LV11になったとき「遠目」の技能を手に入れたことで、100メートルぐらい先まで鑑定できる距離が伸びた。


耐性と察知は、LV11でパッシブ化が有効になった。


パッシブ化を有効にすると、MPを一時間で6消費していた。錬度は10分で1回のようだったので、パッシブ化による錬度は、消費MP1で錬度1回みたいだ。今はMPも増えたので起きている間は、常時発動させている。


MPは、元の量に関わらず3時間の睡眠があれば全回復することが分かった。気絶でも普通の睡眠でも同じだ。


睡眠時間が3時間と言えば、中世のフランスの英雄を思い出す。でも確か、人は、生命維持に必要な最低の睡眠時間が3時間でも、健康に必要な睡眠時間は成人で7時間、と記憶している。


一応、女神様が規則正しい生活が必要、と言っていたから、11時就寝、6時起床はずっと守っている。前世では、毎日7時間の睡眠をとり続けたことなど、何年もなかったから、いまだに新鮮に感じる。寝るって大事。


それに、魂が摩耗するのは嫌だしね。



技能を獲得できるレベルは、スキルによって異なるみたい。でも、傾向はある。


転移の「移動」の技能は、自分以外を転移させられる技能だけれど、現われたのはLV21だった。


剣術の「強化」は剣の威力が高まる技能でLV21、「双剣」は両手で剣を持っても片手と同じように操れる技能だけれど、現われたのはLV23だった。


おそらく転移のスキルも、LV23で次の技能が現われるんじゃないかと思っている。


察知と耐性のスキルはLV16で、それぞれ「気配(気配を察知できるようになる)」、「毒大(毒への耐性が強化される)」の技能を得られた。パッシブ化されるスキルは、LV11でパッシブ、LV16で技能が得られるんだと思う。


■□■□


心底思うのは、前の世界でゲーム好きで良かった、ということかな。中学生のころは、かなりはまっていたゲームもいくつかあったし。


特に、前世ではRPGのゲームでレベル上げをすることが大好きだった。


最初の街の外のフィールドで地道に経験値を稼いで、最終奥義の魔法を覚えるまでレベルを上げたこともあった。そのときは、通常は表のエンディングを迎えるまで20時間もあれば十分だったところを、レベル上げだけで300時間ほど費やした。


なので、今の生活は全く苦にはならない。逆に、レベルが上がっていくのが楽しくて仕方がない。


MPが多くなってからは、転移のスキルに費やす時間が増えたので、新しいスキルにチャレンジはしていない。もうすぐ次のレベルアップまで、数年かかるようになる――事実上のレベルアップの頭打ち状態を迎えるから。


そうなったら、少しずつ錬度を稼ぎながら、新しいスキルの獲得に挑戦しようと思っている。


残念なのは、生活スキルの「飢餓耐性」と「けんじゃ」。


【飢餓耐性】

飢餓状態による身体機能の反応を防げるスキル。ただし、飢餓状態を解消しているわけではないので注意が必要。生活スキル。


【けんじゃ】

性欲による身体反応を抑えることができる。パッシブ化も可能。生活スキル。



「飢餓耐性」は「食べる」という行為を全くしていないから得られたのだろう。これはまだいい。


だが。「けんじゃ」は、いくらなんでもひどすぎる。というか、あれをしないと耐性がつくんだ……orz


もちろん生活スキルだから、魔法が全て操れる「賢者」のことではない。まさか、このまま30年たてば最強の魔法使い、になれるのか???


……はぁ……


確かに性欲ゼロなので、”自家発電”も全くしてないけど……もうちょっと他の言い方がなかったのだろうか……


特にひらがなで表示されているのが、バカにされているような感じがして悲しい……


■□■□


年に2回ほど、女神様が訪れてくれる。


仮想空間に送ってくれるとき、次会うのはハム助が転生する時、と言っていたけれど……いろいろと気にかけてくれているみたい。感謝。


最初に白い世界で会ったときは、じっくりその姿を見ている心の余裕がなかったけれど、その姿は僕のイメージ通りの女神様。たぶん、僕の潜在意識を読みとっているのだろう。思い描く「女神様」だ。


きらめくシルバーの長い髪、額には深い藍色の宝石が嵌められたフェロニエール、そして、髪と合った銀色のドレスは、まるでギリシャ神話のアテナ女神を彷彿とさせる。もちろんアテナ女神ならば、腕にはアームレットが必需品だ。光を柔らかく反射させている。


顔は、もちろん美人顔。キレイよりも可愛い印象が強いのは、優しさが感じられる目元のせいだと思う。


本人は、「正しく言えば女神じゃなく管理者だから、スーツ姿にメガネのキャリアウーマン風の方が良いのに……」と言っていた。でも、僕は絶対こっちの姿の方が良い。


最初は、様子伺いの感じで来てくれたのだけれど、その時、定期的に新しい本の差し入れをお願いしたら、年に2回ほど持って来てくれるようになった。


「うふふ。前の世界の薄い本とか持ってきてあげてもいいわよ」


止めてください。性欲が無いこの体では、「けんじゃ」のレベルがすごく上がりそうですから……


本気で止めて欲しいとお願いしたら、「じゃあ、性欲を感じられるようにしてあげましょうか?」と言われたが、それも丁寧にお断りした。それよりも、同じ本を繰り返してみているのも飽きるので、こちらの世界の新しい本をお願いした。


知識は、どれだけあっても困らないからね。



そして今日も、女神様が久しぶりに本を持って訪れてくれた。半年振りだ。たわいもない挨拶を交わしてから、気になっていたことを尋ねてみた。


「ハム助は、元気でしょうか?」


「ええ、元気よ。今の飼い主は女の子だけど、丁寧にお世話されていて幸せそうよ」


少し安心した。と同時に、今の飼い主の女の子に情が移ったら、僕と一緒に転生してくれなくなるんじゃ……という不安が心をよぎる。一緒に暮らしていた時は、少なくとも心を通わせていたという自負はあるのだけど……


まあ、そうなったらハム助の意思を尊重して、一人で転生しよう。待っていた時間は、決して無駄ではないし。


「でも、あなたには少し残念かもしれないわね」


「え?」


「ハム助は、定期的に獣医さんに健康診断してもらって、ものすごく大事にされているから長生きしそうなの。こちらの世界に来るのは、少し遅くなるかもよ」


チンチラは、長いと15年ほど生きる個体もいるようだ。でも、もちろん遅くなることに不満はない。


仮想空間で暮らし始めて5年が経ったけれど、レベル上げも楽しいし。それに何より、ハム助が幸せなら、それが一番だ。人生……いや「チンチラ生」を楽しんで欲しいと思う。


それを女神様に伝えると、うんうんと嬉しげに頷いてくれた。


「もし、そうなったら、私が慰めてあげても良いのよ?」


そして、流し目でドレスの裾をチラチラと持ち上げる。


何してんだ……この女神様は。


久しぶりに、評価が「駄女神様」に落ちた。


じと目で見ると、少し慌てて「冗談よ、冗談。ほら、和ませようと思っただけよ」とあたふたしている。


その仕草をかなり可愛く思えたことがしゃくに感じてしまった……



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