猫はこたつを譲らない

 カレンダーを見ると三十一という字が踊り、テレビの中は賑やかになっている。この家の子供たちも、今日は何故か大人しくこたつの中にいる。脩も明那も、テレビを見るかゲームをしているかのどちらかしかない。





 お母さんは台所で何かを準備しているようだった。お父さんはソファーで寛いでいる。僕は、そのまま丸くなっているが、こればかりは仕方ない。外は余りにも寒すぎて、離れようとも思わないからだ。居間だけならまだしも、廊下も寒い。だから僕はここにいるしかない。






「トビー、おこたどいてよー」

「お前がいいとこ独り占めにしてるから、テレビがのんびり見られないの」

「ニャ?フシャー‼︎」





 どうも二人は僕に足を向けながら、出ていくように指示をしているらしい。温かいところから出られないのは当たり前だ。外は凍え死ぬ程寒いのだから、ここに居られるだけ有り難く思えばいいのだ。





「トビー、こっち来るか?父さんの膝でテレビ見よう。それともおやつにするか?」

「フミュー……」





 お父さんは僕を抱きかかえ、膝に乗せようとした。だが、その手には乗らないつもりだ。僕はぴょんと絨毯の上に着地した後、元の位置に戻った。何としてもこの場所を譲るつもりはない。





 テレビ番組の一つが終わった後は、ニュースが始まった。最近はずっと寒いから分からなかったが、外の世界は変わらない。暑くても寒くても、殺人事件だの、事故だのといったニュースばかりが流れてくる。稀にサンマの水揚げがどうのこうのといったニュースもあるが、僕は興味がない。






「トビー、お前の好きなおもちゃだぞ?」

「ニャ‼︎」

「ほら、こっちだこっちだ‼︎」

「ニャーン!」






 お気に入りのおもちゃで、お父さんはこたつの外までおびき寄せてきた。その隙に二人の子供が仲良く並んで次の番組が始まるのを待っている。僕はその時に悟った。上手く嵌められたのだと。






 考えてみれば、何故この家のこたつだけが不思議と温かいのか、僕は知らない。ストーブも暖房もあるのに、離れようと思えないのだ。人をダメにするソファならぬ猫をダメにするこたつとしか思えない。






 お父さんは、さっきのお詫びも兼ねているのか、それとも今日は特別な日だからか、おやつをくれた。お母さんには内緒のようだが、居間と台所は距離が近いから、いつバレてもおかしくない。だが、今日ばかりは見逃してくれるだろうとのことだった。





『続いてのニュースです。昨夜、帯広市で殺人事件が発生しました。警察の捜査によりますと……』

「隣町か……。ここも物騒になったな……」

「やあね……」

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