第14話 ︎︎逢えない時間
一人、お茶を飲みながらカミルの帰りを待つ
「カミルはまだかしら。無事よね。何か連絡は無い?」
そんな幼妻にユニは笑い、数分置きの可愛い問に、毎回丁寧に返していた。
「奥方様、大丈夫ですございますよ。まだ茶会からお帰りになって
何度そう言われても、
毛足の長い絨毯を撫でながら、小さく溜息を漏らす。
――早く、会いたい。
とくとくと鳴る心臓は、こそばゆいが心地良い。
ただ故郷の
必ずこの
例え茨の道であろうと、カミルと二人なら怖くは無い。陽の光を浴びて、キラキラと輝く天窓を見上げる。もう陽は傾きかけていた。
もうすぐ会える。
そうしたら、茶会での出来事を報告をして、カミルの話を聞こう。カミルは蔵書の管理という仕事を逆手にとって、毒物や暗殺の方法を収集している。それを効果的に活かすために、どう動くべきか。
慎重に、だが積極的に攻めていく。それがカミルの考えだった。それに
しかし、カミルは困ったように笑うだけだった。それが
失敗しても、自分だけが責任を背負い、死ぬつもりだ。
だからこそ、少しでもカミルと過ごしたいと思うし、邪魔な奴らの命など知った事では無い。まだ見ぬ王太子など、その辺りの虫と変わらなかった。
ただでさえ、己の欲のためだけに、人の心など考えもしないクズだ。そんな奴らをのさばらせるのは、国のためにならないだろう。そして、その後は民達の道徳観も取り戻さねばならない。
奴隷が許される国はそう多くない。例え建前だとしても、倫理観から禁止している国の方が一般的だ。今、時代は大きく動いている。世界規模で科学が発達し、遠い国では鉄道という移動手段が発明されたと聞いた。
戦も忌避するべき物として認識が広まり、世は太平に向かっている。それなのに、この大陸のなんと稚拙な事か。時代遅れも甚だしい。
それも高官達の私服を肥すためだけにだ。
頬を膨らませ、苛立ちをクッションにぶつける。その時、
「え、カミル!? ︎︎いつ帰ってきたの!?」
パタパタと髪を整えるが、百面相はしっかりと見られている。カミルは優しく微笑みながら、そっと頭を撫でた。
「お前が何度も俺の帰りを聞いていた辺りから隠れて見てたよ。ユニには黙っててもらった。そんなに俺の帰りを待っててくれたなんて。嬉しいよ」
その言葉に、
「な、何やってるのよ……悪趣味だわ」
そんな仕草も、カミルの心をざわつかせる。今すぐにでも寝所に連れ込みたい衝動を必死に推し留め、背後の人物を呼んだ。
「ごめん。あまりに可愛かったから、ついね。でも、その提案者は俺じゃないぞ。こちらのお客様だ」
その声に、ツェオンが進み出る。柔らかな笑顔で
「お初にお目にかかる。私はツェオン。名ばかりの第一王子だよ。是非、恵の姫君にお会いしたくて、カミルに無理を言って連れてきてもらったんだ。いじわるをしてごめんね。でも、君もカミルを好いてくれているようで、嬉しいよ」
ツェオンはまるで試すように
「まぁ、第一王子殿下でいらっしゃいましたのね。これはご無礼を致しました。カミルの妻、
そう言いながら、失礼にならない程度に手を引っ込めた。ツェオンはそれに驚きを隠せない。今までならどんな女も、ツェオンの美貌に酔いしれていた。誘惑する気など微塵もないが、そのせいで王太子イアスの反感もよく買っているのだ。
イアスは既に百人を超える女を囲っているというのに、欲は留まる所を知らない。何より、人のものを欲しがる
時には家臣の妻さえも欲しがり、無実の罪で家臣を死に追いやっていた。そうして、その妻をハレムに入れる。例え子があろうと節操無しにだ。酷い時には、子を殺し、出生すらも消していた。最も法を守るべき者が、それを無視している実情。
もし、イアスが
悍ましい結果が待っているかもしれない。これは早々に手を打たねばならないだろう。
ツェオンとカミルは視線で会話し、計画に乗り出した。
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