第7話 ︎︎妻問い
「俺は、要らないかな……」
その態度があまりに
「え、何。私、変な事言った? ︎︎
物珍しげに見上げてくる好奇心を隠しもしない瞳が、カミルを追い立てる。その顔は更に赤くなっていった。
「お、俺は、その。一人を大事にしたくて……だからお前が、いてくれれば、それでいいって言うか……」
ある種、告白めいた台詞に、
「だって……私はただの政略結婚よ? ︎︎それも死ぬ事前提の。会ったのも昨日が初めてで、十も下の子供で、立場も悪いわ。それでも、いいの……?」
その返答に、照れながらカミルは頷く。
「これも何かの縁だし、お前とは気が合う。一晩だけだが、一緒にいてとても心地よかったんだ。お前が良ければ、本当の夫婦になりたい」
思いがけないカミルの求婚に、
まさかそこで求婚されるとは、思ってもいなかった。まだ恋もした事が無いというのに、いきなりの求婚だ。
形式上は既にカミルの妻だが、それとは全く意味が異なる。
でも、不思議と嫌では無い。
カミルとなら、この先どんな困難があろうと立ち向かえる気がした。
だから、こくりと頷く。
「……そう、ね。貴方とならいい関係が築けそうだわ。妻としても貴方を支えていきたい。今後ともよろしく、カミル」
しっかりと視線を合わせ応えると、カミルは嬉しそうに
「よかった……断られたらどうしようかと思ったよ。ありがとう、ユンファ。幸せになるために、絶対生きよう」
大きな手に包まれた自身の手に、
「ええ、絶対生きてやるわ。貴方と一緒に。そして、お母様を救ってみせる」
お互いの手を握り合い、共に生きると誓う。仮初だった婚姻は、ここにひとつの愛の欠片を芽吹かせた。
周りには侍女や衛兵がいたが、それすらも今の二人には気にならない。これから苦難の日が続くのだ。一時の安らぎくらい、いいではないか。
すれ違う数人の侍女達がチラチラとこちらを伺い、黄色い声を上げながら走り去っていった。仲睦まじく写っているなら、それも計画には優位に働く。部屋に篭っても疑われないからだ。
これに関しては、昨夜二人で話をしていた。一週間、寝室に篭ってこの国の言葉を学ぶ。短い時間だが、
「罵倒に使われそうな言葉を一通り教えて」
そんな事さえ言っていた。
だから先程のシャハルの暴言も理解しているはずだ。しかし、
「しかし……」
王宮と離宮を結ぶ回廊に差し掛かった時、カミルが不意に声を漏らした。
「もしかしたら、噂が流れるかもな」
頬を掻きながらぽつりと呟くカミルに、
「噂?」
上目遣いで聞き返す顔は、とても愛らしい。カミルはその耳に唇を寄せ、囁く。
「第三王子は幼い妻の肌に夢中だとか、そんな噂だよ」
耳朶を
「あら、あながち間違いではないじゃない。私はそんな噂、気にしないわ」
強気な発言に、カミルも笑う。そのままの姿勢で、とんでもない事を口走る。
「今すぐ手を出せないのが辛いよ」
その言葉に、
ぎょっとした
「お前、ほんと可愛い」
蕩けるような微笑みに、してやられたと口を尖らせた。
「むー……余裕そうなのが腹立つ。いつか仕返ししてやるんだから」
拗ねる様にも、カミルは嬉しそうに頬を緩ませている。
そして、ふと疑問を口にした。
「ところで、十も下ってなんだ? ︎︎俺は十八だぞ」
今度はぽかんとする
「え、十八!? ︎︎私、てっきり二十前半くらいだと思ってた……。なによ、そんなに離れてないじゃない! ︎︎子供扱いしないでくれる?」
カミルはむくれる
「本当に? ︎︎子供扱い、しないでいいのか?」
覗き込んでくる瞳は優しい。
しかし、その奥には肉食獣の如き獰猛さが隠れていた。
「あの、ちょっと待って、今の無し……」
そう言いかけた時、ちょうど離宮に辿り着いた。カミルに促され視線を向けると、艶のあるタイルで繊細な模様が描かれた建物が
カミルは小さいと言っていが、
驚きを隠せず、カミルを見上げると意地の悪い顔でニヤリと笑う。
「ここが俺達の宮だ。今後ともよろしく。ユンファ」
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