僕ら、あの坂の上で
@ishikawa0330
第1話
「なぁ、トモヤ、知ってるか?2丁目のとこにいるおばさんのこと。」
いつものように、タイキが私に話しかけてきた。授業中、先生の話が理解できなくなるといつもそうだった。特に算数の時間にタイキの口はよく回る。授業に参加してる訳じゃないのに。
「そこ。また、喋ってるのか。タイキ、教科書の例題を解いてみろ。18を5で割った時のあまりはいくつだ?」
答えは3に決まってるけど、タイキは多分わからない。だけど、タイキは。
ガタッ。横を見ると、タイキは勢いよく立ち上がっていた。
「3です。」
「そうだ。3だ。授業中はもう喋るなよ。」
さっきは勢いよく立ち上がったと思ったら、今度は静かに椅子に腰を掛けた。自分が正解した余韻を楽しんでるのかな。かわいいやつだ。
そして、僕はいつものように小声で話しかける。
「いい加減、おねぇちゃんのお下がりの教科書は辞めなよ。全部答え書き込んであるんでしょ。」
ズルすることがカッコいいと思っているのか、タイキは僕の言葉を軽く受け流して、校庭に目を向けた。この授業が終われば昼休憩。ネットで包んだサッカーボールが机の横のフックにかけてある。それをつま先で軽くつついているタイキ。
僕は知ってる。彼の夢はサッカー選手だ。
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