第11話 マナーはコッチの界隈じゃハッタリと同義です

「しっかし、可愛かいらしい見た目になって……見慣れんの」

「今日なったばっかだ!

俺も慣れてねえ!」


フンスと無駄に胸を張るシヅキ。

何を威張っとるんぢゃかと苦笑して、アギはそれならと自身の影を見下ろした。


「ユメや、しばらくコレの世話を頼む」

《ー…はい……》


返事が聞こえ、トプんとアギの影が揺れる。

そうしてヌ…ぅと影が盛り上がり、まるで生えてくるように影から黒いヒトガタが現れた。

柔らかなラインのそれがほぼ全身影から出ると、纏う影がドロリと落ちる。


結珻ユメと…申します。

以降、お見知り置き下さい…》


黒い髪に翡翠の瞳。

ストライプの着物に、袖口や裾にチラリと見える黒のフリル。

どことなく大正浪漫を感じる衣装の彼女は、美しい朱の唇をほんの少し上げて、目を細めて見せた。

妖艶…そんな言葉がピッタリな美女。


「美しい!」


そんな彼女にすぐさま反応したのはシヅキだ。


「その翡翠のような瞳には、ぜひダリア…黒蝶を贈りたい」


自然とユメの手を取り、花屋がないのが残念だとユメを見上げるシヅキ。


「好みぢゃろ?」

「超!」


白く透けるような肌に切れ長の目。

女性らしい体のラインではあるが、主張し過ぎないその凹凸おうとつ

醸す色気は本人のその内側から漏れ出すもので、芯を感じる強さと柔らかさは真似しようと思って出来るものでは無い。


「ユメや、まずはそれを風呂で丸洗いしとくれ」

《畏まりました》

「丸洗いされちゃう〜♫」


失礼しますとシヅキを抱き上げ、ユメはゆったりとした足取りで女湯へと消えていった。


「ありゃあ式鬼しきか」

「この世界の認識で行くとそれが一番近いかの」


ワシらの世界ぢゃ影鬼えいきと呼ぶがのとクロウの疑問にアギは答え、飯の頃に呼んどくれとお茶を手に自室へと戻って行く。


「知り合い、ねェ…?」


そんなアギを視線で追ったクロウは意味有り気に鼻を鳴らした。



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「まじでうまそっ!」


お風呂上がり。

食卓に並ぶ和風ステーキ丼と肉豆腐、三葉と豆腐のお吸い物。

それぞれの丼には分厚いステーキが乗っていて、バター醤油ソースの染みたご飯が食欲を誘う。


「つか、本気で料理上手いんだなぁ」

「そうなんだよ!

先生、本当に料理上手でね?

動画投稿すると凄い視聴回数回るんだよー」


さっきのも撮ったから後でサブチャンネルに編集して上げるんだ〜☆とニッコニコの笑顔で言うソラ。

ちなみにサブチャンネルでの料理動画は投げ銭が導入されていて、コレは5割がソラのお小遣い、3割がシロウの材料代。

2割がサブチャンネル運営費に当てられていた。


「儂はシロ坊の作る出汁巻きが好きぢゃな」

「俺ァ、ケルピーの白身のムニエルをたっぷりのタルタルソースで出してくれたヤツが過去イチだな」

「ボクはハンバーグと唐揚げ!

ホント美味し〜のッ」

「またその内作るから今はとにかく食べるぞハラヘッタ」

「句読点無かったぞ、今。

そんな………」


アギやクロウ、ソラが好きな物宣言して行く中、シロウはとにかくハラヘッタと主張する。

シヅキはそんなシロウに、そんな腹って減る?と聞きかけて、グゥオオオオオオウ!と鳴いた彼の腹に黙った。


「よし、食うか」

「「「「いただきます」」」」

「い、イタダキマス」


4人がパン!と音がする寸前くらいの勢いで同時に手を合わせ、シヅキはちょっとびっくりしながらもオズオズと皆に合わせて手を合わせた。


「んぐ、ん…」


他の誰よりも大きな丼でたっぷりのステーキ丼を食べるシロウ。

食べ方は綺麗なのに、大きな口が吸い込むようにステーキ丼を飲み込んでいく。


「すげぇ」

「昔はもっとガツガツ食ってたんだけどな?

俺が一緒に食う時受け付けねェから治させた」


マナーダイジと言うのはクロウだ。


「ボクも箸の持ち方、ココで治されたんだー」


今じゃナイフフォークもカンペキだよ☆と、本当に綺麗な所作で食べるソラ。


「箸の持ち方、食い方1つでバカにされるもんだ」


だから矯正出来るならしとくべき!と主張するクロウの食べ方に上流階級を感じたのはシヅキだけではないだろう。

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