チート少女の異世界妹探し RE.
あるまん
第一章
その1 目を開けると……
赤茶けた土色、青臭い草の匂い。瞬きをして目を開けると、私は地面に横たわっている様だ。
ゆっくりと身体を起こし頭を振って覚醒を促す。ぼやけていた視界が段々クリアになってくる。
「……ん……此処は……」
辺りを見回す。薄暗いが沢山の樹木が見える……どうやらどこかの森の様だ。はっきりしない思考。突如冷たい風が吹いた。寒さに震え胸元を見る……
「……!! ちょっ!! なっ……何でえええええええええ?????」
私は胸を反射的に手で隠す。全裸だった。一気に頭に血が上り、パニック状態になる。
「な、何で裸っ……ま、まさか誰かに犯さ……」頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「お、落ち着け……落ち着くのよ……」自分の心に言い聞かせるように呟き、すー、はーとゆっくり深呼吸をする。それでも心臓の鼓動は中々収まらない。数分繰り返し、やっと何とか鼓動が収まってきた。最後に大きく息を吐き、冷静さを保つ為改めて周りを見渡す。
「何これ…こんな樹、見た事ないわ……」といっても木の名前すら碌に出てこない程度の知識だが、松や杉、欅、桜、銀杏……どれとも当てはまらない。
どこかの外国? とも考えたが、それも違う……海外旅行などした事はないのに確信出来た。
まだとても冷静とは言えないが、何があったのかを考えてみるが上手く思い出せない。
……とりあえず恐る恐る、土で汚れた下腹部を触ってみる……手足に擦り傷はあったが、心配していた「された後」ではないようだ……とりあえず、ホッとする。
右肩にちょっと大き目、5~10cm程の見覚えのない十字状の赤い痣がある。どこかでぶつけたのだろうか? 気味が悪いが痛みもないのでとりあえず放っておく事にした。
「……よくわからないけど、とりあえず……」
私は此処がどこかはっきりしないまま、充てもなくこの森からの脱出を目指しゆっくりと動き出した。
……
倒れていた所は落ち葉が覆い被さった、人が通らず数年経過していると思われる道。少なくとも獣道という感じではなかった。森は深く、10~20m程の鬱蒼とした木々が不規則に生え揃っていた。薄暗いが日は差している。
「どちらに行けば……とりあえず太陽の方へ……」ゆっくりと上空を見てみる。
「……まさかね」ありえない。もう一度頭を振り、改めて太陽を見る。
眩しい太陽だ。暖かい。ただし、2つある。
「……本当に、訳わからない……」
……
信じられないが、どうやら私の住んでいた世界とは違う世界のようだ。頬を思いっきり抓ってみるがちゃんと痛い。パニックになりそうなのを抑え、裸足の足が木の枝を踏み抜かぬよう注意しつつ、現状を把握する為まず自身の事を思い出してみる。
「……まず、私は……あい、アイ……そうだ、藍だ……名字は……」
頭を振ってみるが名字だけ靄がかったように思い出せない。確かにあった筈なのに……。
「年は……駄目か。性別は女。家族は……妹が二人。舞と、御衣……」絶対忘れる事のない、可愛い顔を思い出す。
「……そうだ、ここに来る前は……夏休み、前日のバイト疲れで遅く起きて……家に舞が友達を連れてきてて……」
上の妹の幻聴が聞こえる……も~う、あいちゃん、いくらなつやすみだからって、おそすぎですぅ~……
「御衣もとってもはしゃいでて」
下の妹の声が聞こえる……あいねえちゃん、みてみて~! みんながおやつ、くれたんだよ~♪……
「そっか……私はそのまま目覚まし代わりにシャワーを浴びようとしてた……」
目が覚めた時裸だった事に一応の説明がついた。一度思い出すのを止め、改めて現状を把握してみる。
「……ここが異世界として……そういえば、舞から幾つかそういう世界の小説を薦められたわね。面白いんですよぉ~とか、必死になって薦めて来たけど……時間がなくて、結局どれも最後までは読めなかったわね」
独特の間延びした感じで話す彼女の説明だと「らいとのべる」という物らしい。可愛らしい女の子が微笑んだイラストの表紙で漫画かと思った。
「……導入部にいくつかのパターンがあって、主人公が一度死んで転生したり……私もそうなのかしら? 風呂場で石鹸で滑って頭を打ったとか……それはちょっとしまらないわね」
他のパターンも考える。
「魔法で王様に召喚されたり……でも周りに誰も居なかったわね。そういうパターンもあるらしいけど、私みたいな特に才能のない女をわざわざ召喚すると思えない……一応、努力はしてたつもりだけど」
私はそっと胸を触ってみる。ほとんど膨らみがない。いや、胸だけじゃなく、鏡を見た訳じゃないがこの世界に来る前と目線の高さはほとんど変わらない……変わらず、まるで小学生のような身長、体型のままだ。
大きな病気をした訳じゃない。栄養の足りない食事だった訳じゃない。でも何故か身長体重、BWHも正確には10歳の時から変わらない。小人症を疑われ検査もしたが脳下垂体の異常等も見つからず……無論完全に止まっていた訳じゃなく髪の毛は普通に伸び、生理も来ていた。でもそれが逆に辛かった。
「どうせ異世界に来たのなら、少しは伸びていてくれても良かったのだけどね」
最初に神様に出会うと色々な種族や身体付きに変化も出来るらしいが残念ながらそのパターンではなかった。ふっ、と自虐的に微笑み、また歩き出す。
身長で苛められてた訳じゃないが、やはりどこか回りの大人も同級生も気を使ってくれていた様に感じる。
背の低さをハンデにしたくないと身体を鍛えた。「師匠」に付いて幾つかの武道も嗜み、学校では薙刀部の副主将にまでなった。今も慣れない森の道を一時間ほど歩いてるが、お陰で体力はまだまだ有り余ってる気はする。
「……それでも、お腹は空いてきたわね」元の世界でも起きてから食事を摂ってない事に気付いた。一向に森の出口は見えない……随分と広い森のようだ。出るまでに食事や水分補給は元より、どこかで一夜を過ごす事も必要になるかもしれない。
「これ、食べられるのかしら?」
歩きながら幾つか林檎大の実のようなものは見つけた。樹木の形は変わっていても実の形は覚えのある果実と対して変わらないようには見える。振ってみるとそれなりに水分も含んでるようなものもあるが問題は「毒」だ。
何かしら動物が食べているのなら見分けもつくだろうが、幸か不幸か一時間の間に栗鼠や野兎のような小動物にも遭遇しなかった。
実の外皮はそこそこ硬かったが落ちていた石を使ってとりあえず割ってみる。振った時に予測していたが中身は水分を大量に含んだ果肉だった。
「異世界ものの作品で最初に食べた食事に毒があって、そのまま死んじゃったりしたら……あまりにつまらないストーリーね」
覚悟を決めて、一気に齧ってみる。
「……うっ……甘苦っ!」幸い毒ではないようだが若干の渋みがあり美味しいものではない。だが思っていた以上に腹が減っていた様で、林檎大の実を2つ、一気に食べてしまった。
「……ふぅ、とりあえずは、水分と食事の心配はなさそうね」
同じ実が生っている樹を見つけ、熟れた実をいくつか拾っておく。
「何か鞄の代わりになるものがあればいいけど……」鞄もそうだが、いつまでも全裸の侭では流石に落ち着かない。足も裸足の侭では、いくら気をつけていてもいつか尖った枝や石で怪我をするかもしれない。
とりあえず辺りを見回し、椰子の葉のような大きな葉を見つける。軽く引っ張ってみるとそこそこ丈夫なようだ。同じ様に細い蔓草のようなのを見つけ、石を使い切り裂いて縫い合わせどうにか下着のように整える……これではサラシと褌か。足も試行錯誤し、どうにか簡易スリッパの様にしてみた。
「これでやっと文明人ね」仕上げに葉を襷の様に身体に巻き、先程の実をいくつかと、石をいくつか持つ。
「……武器も必要かしら……」大きな動物の気配がしている訳ではないが、備えあれば憂いなし。自身の背丈ほどの枝の先を石を使い斜めに削ぎ、簡易の槍にしてみた。薙刀があれば一番だが、無い物を思っても仕方がない。とりあえずの準備が完了したので森からの脱出を再開した。
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