第21話「見知らぬ世界」
教官の葬儀の翌日、アキラが指定されたポイントに向かうと、既に他の二人が待っていた。
「来たか、アキラ」
「遅いっすよアキぴょん先輩! 何してたんすか!」
「まだ集合時間前だと思うんだが……」
「JKは5分前行動が基本っすよ!」
「意識高けーな……」
「移動教室とか早めに移動しとかないと駄目っすからね」
「うわ10年ぶりくらいに聞いたわ移動教室」
詰め寄ってくるレンに対し、そそそと距離をとるアキラ。助け舟を出すようにリタリエが問いかける。
「それで、何か成果はあったか、アキラ」
「んー、一応詳しく聞いてきたけど、成果と言うには微妙かな」
「何を聞いてきたんすか?」
「事件についてギルド長に詳しく聞いてきたんだよ」
場所や遺体の様子、殺されたと思しき時間などについて聞いてきたのだとアキラは話した。
「探偵みたいっすね。それ、なんかの役に立ちます? 今から原因を根元から退治に行こうってのに」
「襲撃犯の特徴が分かれば対策も立てられるかと思ったんだ」
「へえ……どうでした、アキぴょん先輩から見て犯人の評価は?」
「今はまだ語る時ではないかな」
「探偵みたいなこと言うー!」
こほん、と咳払いを一つしてリタリエが場を仕切りなおす。
「では揃ったところで……向かうとするか」
「ああ」
「了解っす!」
教官が発見されたという
「そういえば」
道すがら、アキラが口を開く。
「行く前に聞いときたいんだけど……結局この世界のダンジョンって何?」
魔法文明の遺跡はダンジョンではない、と教官から聞いた時からアキラの中でダンジョンがどういう存在か分からなくなっていた。
あー、とレンも反応する。
「ゲームのダンジョンと似てるんですけど、びみょーに違うんすよね。どう説明したらいいか……」
「私が説明しよう。
「ダンジョンと言うのは……?」
「……何なのか、正直良く分かっていない」
「分かってないの!?」
驚愕であった。なんなんだ、ダンジョン。
順を追って説明しよう、とリタリエは続ける。
「
「異空間……?」
「そうだ」
見た目はそれほど大きくないものの、深淵につながる門のような入り口をくぐると、内部には入り口の大きさとは矛盾する広大な空間が存在している。
「どんな感じなんだ?」
「一番多いのは地下迷宮型だろうか。次いで洞窟型が多い。どちらも入り組んでいて、罠が多いな」
「よくゲームであるようなダンジョンまんまって感じっすねー」
「とはいえ、
「不思議空間ってことか」
そして、
「これもまた様々だが、出没する魔獣は主となるモンスターと似た系統のものが多い傾向にあるな。それと、総じて魔窟外のものより活きがいい」
「強いってことっすよ!」
「逆に法術は効き目が弱くなる。文字通り魔の領域であり、女神の加護は届きづらいのだろうな」
「電波弱いんでしょうねー」
「法術ってそんな感じなんだ?」
法術のことは良く分からない。確かリタリエ曰く、「法典に則り、女神の加護の下奇跡を起こす御業」とかなんとか言ってたのを聞いたくらいで、難しそうなので詳しいことはいいかとなった。
それよりも今は
「今回はその
「普通はないな」
リタリエの返答。
「魔窟の魔獣は外に出ようとはしない。逆に外に出るようなことがあれば
「
アキラが聞こうとしていたことをレンが先回りする。異世界出身の葬送者の先輩として、気になることは大体分かるということだろうか。
リタリエが説明を引き取る。
「十分に成長した
「対処って言うのは」
「主の討伐だ。魔窟には要となる主モンスターが最奥に居て、それを倒せば魔窟は自ずと消失する。中の魔獣ごとな」
「要するにボスを倒してハッピーエンド! ってことっす!」
「分かりやすくて助かる」
尚更教官の仇討ちは早くしないとな、とアキラは呟いた。
魔窟についての解説が終わったところで、一同はタイミング良く現場へと到着した。
そこはアクーナの外に広がる荒野の一画、無味乾燥な岩山が並ぶ一帯である。大小さまざまな岩山に紛れて一つ、異質な物体がある。
話に聞いていた単純な風貌とはまるで違い、その外観からは禍々しいものを感じる。ざらついた側面はまるでサメの皮膚の感触で、所々が刺々しく突き出していた。
異空間へ繋がる入り口には牙と見まごうような白い岩が上下対称に何本も生えている。
それはまるで、口を開いた大型の魔獣のように見えた。入り込めば、二度とは出れぬといった様相。
魔窟を初めて見るアキラさえも異様なものを感じる、そんな場所であった。
「なるほど……これは
「いかにもやばそうな雰囲気っすね……」
魔窟経験者の二人も、その異質な空気に何かを感じ、ごくりと唾を呑み込む。
「だが……異様な空気はともかく、大きさはまだまだ
観察しながら呟くリタリエ。
一方で、アキラは別のものに目を付けていた。
「どうした? アキラ」
「いや……ここで、教官は亡くなってたらしい」
「……そうか」
すぐ近くの、まだ血痕の残る場所を見つめるアキラ。
三人で、しばし手を合わせる。
祈りを捧げ、静かに顔を上げると、アキラの顔には黒々とした怒りが渦巻いていた。
「……よし! それじゃ張り切って魔窟討伐、行くっすよ! 油断せずに!」
「うむ!」
「ああ」
「気合入れるために円陣組みましょ、円陣」
「体育会系だなぁ」
「円陣……?」
とりあえず組んだ。
よく分かってない様子のリタリエも巻き込むあたり、こいつ本当に強引だな……とアキラはレンを見つつ思う。
「さて、じゃあ突入するか。俺とレン……」
「レンぴょん」
「……レンぴょんが前衛、リタが後衛でバフを頼む」
「は? 嫌ですよ何言ってんすか」
「レンぴょん呼び強制させといてなんだその態度! 大人を舐めるなよ小娘!」
「いや自分後衛ですし」
「は?」
アキラが目をやると、レンは弓を手に携えていた。
「自分、
「マジ? 俺はてっきり……まあいいや。じゃあ
「私は剣も扱うから討ち漏らしも任せて欲しい。実質的には後衛よりの中衛だな」
「援護は任せろっすー!!」
こうしてパーティ内の役割分担も決まった。
いよいよ
アキラは背面でカタカタと鳴く血桜村正に手を添えた。
「そう喚くな。散々待たせて悪かったが、そろそろちゃんと血を吸わせてやるから」
俺もそろそろ限界だ。
憂さ晴らしと仇討ちのために、ここの魔獣は根絶やしにしてやろう。
心の中でそう語りかけ、アキラは地獄のように黒々とした闇の中へ一歩踏み出した。
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