【完結】エロゲーの主人公に転生したので、ルートがないのに人気投票で一番人気だったサブヒロインを攻略することにしました

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第1話「エロゲーの主人公としてしたいこと」

 三十歳を迎える誕生日。

 俺――神崎かんざき影之かげゆきはその日、車にかれて死んだはずだった。


 ――そう、そのはずなのだ。

 それなのに、目を覚ましてからというもの――。


「あっ、起きた? 早くしないと、学校に遅れるよ?」


 桃色のボブヘアーをした美少女が、こうして起こしてくれる日々を送っていた。


 彼女の名前は桃花ももかといい、俺の妹だ。

 もちろん、現実世界での実際の妹ではないし、なんなら今の体にとっても義妹だったりする。


 だけど、俺は彼女の名前を元から知っていた。

 なぜなら――俺が死ぬ前に全クリした、エロゲーのメインヒロインの一人だったからだ。


 そう、なぜか俺は、エロゲーの主人公に転生してしまったらしい。

 正直なんでこうなったのかはわからないが――今の俺には、一つ明確な目的ができていた。


 このゲームはエロゲーの中でも、ぞくにいうシナリオゲーと呼ばれているものになり、四人のメインヒロインたちがいる。


 今俺の目の前にいる、目に入れても痛くないほどにかわいい義妹。

 清楚可憐でとても優しい、みんなの憧れの先輩。

 明るくて活発で、日本のトップアイドルにまで上り詰めた同級生。

 素直じゃない上によくドジをやる、小生意気な後輩。


 個性豊かでかわいい彼女たちが、今作のメインヒロインだった。


 ただ、このゲームはファンタジー要素も取り入れており、《ギフト》と呼ばれる特別な力を持つ人間たちが、この世界にはいる設定だ。

 だいたい千人に一人が《ギフト》を持っているらしく、正直一般人からは疎まれている能力でもある。


 主人公は幼い頃に家族を全員殺されたことで、学生ながら政府直属の組織に所属しており、《ギフト》を使って悪さをする奴らを捕まえていた。

 この学校にも調査のために転校してきており、《ギフト》を悪用する犯罪組織を一網打尽にしようとしている。


 そして上の四人も、それぞれ《ギフト》を持っていて、それが原因でトラブルに巻き込まれたりし、主人公と仲を深めていくというゲームだ。


 ――しかし、俺はこの四人の誰ともくっつく気はない。


 実はこのゲーム、ルートがないのにメインヒロインたちを喰ってしまうほどの人気を博した、サブヒロインがいるのだ。

 しかも、人気投票では他のメインヒロインたちを押しのけて、一位になっている。


 おかげでファンたちはルートがないことを嘆き、ファンディスクによってルートが追加されることを祈っているほどだ。

 だけど、ここのブランドはファンディスクを滅多に出さないし、出したところでサブヒロインが追加されることはないので、俺は諦めていた。


 しかし――こうして、ゲームの世界に生まれ変わることができたのだ……!

 だったら俺は、そのサブヒロインだった子と結ばれたい!

 なぜならその子も、共通ルートの終盤では、主人公のことを好きになっているのだから……!


 まぁそのせいで、他ヒロインのルートでは主人公を庇って死んだり、闇落ちしたり、捕まったりするのだけど……。

 このゲームのこれから起きることや、犯罪組織のボスや一員の顔と名前を知っている俺なら、きっとサブヒロインを助けることができると思っている。


「――こら、お兄ちゃん。まだ寝ぼけてるの?」

「いてっ」


 考えごとをしていると、桃花に頬を軽く叩かれてしまった。

 現在二人暮らしをしているせいか、桃花は最近お母さん風を吹かすようになってしまった。

 元々しっかりした子ではあるのだけど、兄としての立場がない。


「考えごとをしていただけだよ」

「お仕事のこと? 私も何か手伝うよ?」


 桃花は俺の仕事を知っているが、組織の一員ではない。

 というのも、この子には争いごとが向かないからだ。


 だけど、俺が任務でこういうふうに引っ越すとついてきてしまうので、こうして二人暮らしをしていた。

 一応、義理の父親が俺たちにはいるのだが、そっちは放置らしい。


「桃花に手伝いをさせたら、俺が叱られる」

「もう、お兄ちゃんもお父さんも、二人して私を子ども扱いしすぎだよ……!」


 不満をアピールするように、桃花は頬を膨らませる。

 そういうとこだぞ、俺たちが桃花を子ども扱いするのは。


「仕事がしたいなら、組織の一員として認められるところからだ」

「知ってるんだよ、お父さんとお兄ちゃんが手を回して、私が合格しないようにしてるってことは……!」


 そう、何度か桃花は組織に入るための試験を受けているが、父さんが手を回して落とさせていた。

 普通にしていれば、桃花が持つ《ギフト》は強力なので、落ちるはずがないのだが――あの人、桃花に対しては過保護だからなぁ。

 俺はこき使うくせに。


「俺は何もしてない。文句は父さんに言ってくれ」

「じゃあ、お兄ちゃんは私のこと推薦してよ……!」

「それはできないなぁ」


 俺だって、桃花に危険な仕事をさせたくないのだから。

 というか、このゲームだと桃花のルートに入るまで、この子は俺たちの組織に入らない。

 俺の知っている状況から外れたら困るため、ゲームのシナリオから外れることなんてできないのだ。


 それからも、粘ってくる桃花をてきとーにやり過ごしながら、朝の支度を終えて家を出ると――。


「やぁやぁ、二人とも元気だね~」


 茶髪を綺麗に後ろで結んだ、ポニーテールヘアーの美少女が笑顔で立っていた。

 今作の大人気サブヒロインである、月樹つきぎけいだ。

 まぁといっても、その名前は偽名なのだけど。


 本名は、花宮はなみや咲姫さきといい、偽名のほうは、誰かに気付いてほしいと願って彼女がつけたものだ。

 この笑顔は仮面であり、その下には涙で濡らしながら苦しんでいる顔があることを、俺だけが知っている。


 今まで彼女は、もう後戻りできなくなる状況になるまで、主人公にすらそのことを気付いてもらえなかった。

 だけど今の主人公である俺は、ちゃんと彼女の想いと境遇を知っている。


 今なら、まだ間に合うはずだ。

 だからこれは、俺が彼女を救うための物語にする。

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