背広の着ぐるみ

@mohoumono

チャックの鍵は何処に?

アラームが鳴った。手探りでメガネを探し、メガネをかけてからスマホを撮りアラームを止める。スヌーズにならないように。欠伸を噛み締めてゆっくりと立ち上がる。疲れた、何もしていないのに。徹夜をして時と同じような倦怠感がある。昨日は24時には寝たはずなのに。

あぁ、そうだご飯を食べないと、風呂も入らなきゃ。面倒。トイレにも行きたい、口を濯ぎたい、お腹が減った、寝たい、眠たい、疲れた、何もしたくない。人の生きたいと思う全ての生理現象が邪魔で仕方ない。人の全てが邪魔をしてくる。ため息すら面倒になった。排水溝を眺めていたいから風呂を洗った。風呂を入れている間に洗濯機を回して、その間に朝ごはんを作る。背が足りないから、台を持ってきてそれに乗ってバナナを切って牛乳に入れる。ミキサーは洗うのがめんどくさい。そして、食パンを焼いて、マーガリンを塗って食べる。何も考えずに、ぼーっとYouTubeを見て、人が生きるための項目を満たす。そして、食器を洗っても時間が余る。洗濯機の前で座ってそれをただ眺めた。音が鳴った、風呂に入る、少し目が冴える。また一つ項目を満たすことができた。風呂から出て、髪を乾かす。鏡を見る。コイツは誰なんだろうか。少し前から別人が鏡の前に映るようになった。口にチャックがついているコイツは。誰なんだろうか。僕なんだろう。でも僕であって欲しくなかった。死人よりも暗い顔をしているコレが僕の訳がない。でも、昔よりも今の方がずっと楽だ。じゃあ何で笑ってないんだろうか。ああそうか、楽しくないのか。なら、逃げてしまおう。口のチャックの鍵を探しに。背広の着ぐるみを着ている僕を子供だと思うことはないだろうから。

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