第7話 運命の人との出会い?

俺は気が付かないうちに女子高生に告白していた。

本来であれば、その後ろにいる大村さんにしたはずなのだが、何の手違いか女子高生と大村さんがすり替わっていたのだ。

女子高生は驚きのあまり固まって、次第に身体は震え上がらせ、真っ赤な顔をして怒っていた。


「何なの、このおっさん! キッショ! 付き合うわけないじゃん!!」


彼女は店中に聞こえるような大きな声で叫んだ。

俺もさすがにこれには恥ずかしくなる。

間違えたとはいえ、全然違う相手に告白していたのだ。

しかも女子高生。

気持ち悪がられても仕方がない。

大村さんは何が起こったのかわからず、俺とその女子高生を交互に見ていた。

俺も目の前の女子高生にどう説明していいのかわからずに戸惑うしかない。


「いや、だから、それは勘違いで――」

「はぁ!? 近づかないでよ! 突然告白とかあんた頭おかしいんじゃないの!?」


彼女は後退って俺を避け始めた。

そんな反応になるのは当然だが、弁解ぐらいさせてほしい。

隣にいる大村さんも「告白?」と言って、当惑していた。

俺はその場で大きなため息をついた。

ひとまず、このをどう落ち着かせたらいいかわからない。


「とりあえず、聞けよ。俺は――」

「あんたみたいな気持ち悪いおっさんと話す事なんてないんで!」


女子高生はそう言いたいだけ言って足早に店を出て行った。

俺はこの混沌とした状況をどう収拾したものかと大村さんの顔を見た。

彼女も今の状況を理解できていないようで、困った顔をする。

これでは告白どころではない。

ひとまず人目も気になるので、俺たちは急いで店を出ることにした。



「今日はすいませんでした」


俺は彼女との別れ際、頭を下げて謝った。

彼女は全然いいですよといって手を振る。

大村さんが理解ある人だったからいいものの、これが気の短い女だったら大変だった。

結局あの告白の件もうやむやになってしまったし、彼女に伝えたいことは何も伝えられなかった。


「それではまた明日」


彼女はそう言って軽くお辞儀をして駅に向かって行った。

俺は再びため息をつき、きっちりしめていたネクタイを緩める。

そして、ポケットから煙草を取り出してその場で吸い始めた。

息子にも後押ししてもらって得た最大のチャンスだったというのに、レストランの予約もうまくいかず、誤って女子高生に告白するなんてとんだ1日だ。

俺のスーツ代と美容院代を返せと天に向かって叫びたい。

けどまあ、大村さんに悪印象を与えたわけでもないし、もう少し時間を空けて再び誘ってみるかと心に決めた。

しかし、俺は壮大に女子高生にふられたものだ。

こっちは告白したつもりはなかったから、傷つきはしないものの、あそこまで「キショイ」と連呼されればさすがに腹が立つ。

確かにあのぐらいの娘は中年のおっさんを一番毛嫌いする時期かもしれないけど、俺にも世間体というものがある。

あんないろんな人が集まるカフェで、勘違いとはいえ大声で人の事を批難するのはどうかと思う。

一旦、このことはすっぱり忘れることにして、俺は気持ちを切り替えようと決めた。

俺の運命の人は大村さんなのだ。

だから、俺は大村さんとの恋愛がうまくいくように頑張ればいい。

この時はそう思っていた。




俺は再びあの夢を見ていた。

相変わらず、身体は宙に浮き、淡い光に包まれている。

俺は女神様の囁く声を聞く前に起き上がり、周りを見渡した。

そして、なんとなく人の声が聞こえる方へ足を進める。

そこには何かのバラエティー番組を寝転がりながら笑って見ている、あの女神様を見つけた。

手元にはポテチまで転がっている。

これは単なるオフなのか、それともサボりなのか判断はつかなかったが、とりあえずここに来てしまったということは何かの啓示が下ったのだろう。

俺は女神様の後ろにそっと座って声をかけた。


「今日は何なんですか?」


女神様は俺の存在にやっと気が付いて慌てて周りの物を片付け始めた。

今更遅いとは思うが、俺はひとまず、女神様が落ち着くのを静かに待った。

不必要なものが全て消えて、残るは女神様の口元に残ったポテチの食べカスだけだったが、彼女はいつものように咳払いをして、話を始めた。


「よく来たな、敏郎」

「まあ、来たくて来たわけじゃないんですけど……」


雰囲気を壊され、顰め面する女神は話しを進める。


「ついに神託が下った。お前も会ったのであろう。運命の相手とやらに」


その話を聞いて真っ先に大村さんの顔を思い出した。

やっぱり運命の人とは大村さんだったのかと一人納得していた。


「はい。まだちゃんと告白は出来ていないですけど、相手も俺の事はいいとは思ってくれているみたいで、このまま上手くいけば付き合えるかと……」


俺の話を聞いた女神様が眉間にしわを寄せ、再び手元にある資料を捲り始めた。

俺も何事かと見つめる。


「……告白してない?」

「はい。まだしてません」


女神様の頭の上には『???』が付いている。

俺もこの状態が理解できない。


「あんた、告白したことになっているわよ。ほら」


資料を捲って、女神様は社外秘とも思えるその内容を俺に見せた。

確かにそこには俺は想いを伝えたことになっていた。

その想いが言葉ではなく態度で理解されたというならわかるが、大村さんにはまだはっきりと気持ちを伝えてはいない。


「しかも、ふられたって書いてあるし」

「ふられた!?」


俺はつい女神様の前で大声を上げた。

女神様は俺の声がうるさかったのか耳を手で塞いでいる。


「なんなの? 騒々しいじゃない!!」


いつの間に俺はフラれたというのだろうか。

やはり、あの女子高生への誤った告白を勘違いして……。

女子高生?

もしかしてと、女神様にもう一度尋ねてみた。


「その運命の人って誰だか判明してるんですか?」

「しているわよ。確か名前は……あった、あった。小野市子おのいちこ

「小野市子?」


俺の聞いたことのない名前だった。

知り合いにそんな女性はいない。

何かの間違えとしか思えなかった。


櫻蘭おうらん学園に通う、高校2年生だって。17歳に手を出すとはあんたもなかなかやるわねぇ」


女神様は資料を見ながらにやにや笑った。

あの女子高生だと俺は真っ青な顔をした。

名前も学校名も知らない。

けど、告白してフラれた女子高生と言えばあのしか思いつかない。

俺は慌てて女神様の袖を掴んで揺らした。

女神様は何事かと慌てている。


「それ、間違えなんですよ! 俺が告白したのは会社の同僚の大村早苗さんで、その女子高生はただ勘違いで、告白したと思われただけで俺は――」

「でも、記録では間違えなく、小野市子になってるわよ」


そんなぁと俺は頭を抱えた。

あと少しで、俺と大村さんの恋は成就するはずだった。

あんなトラブルでよりにもよって女子高生と間違えられるなんて最悪だ。

俺は涙目の状態で再び女神様の肩をゆすった。


「なんとかならないんですか、それ! 俺は女子高生に手を出す気なんてありませんよ。今からでも大村早苗さんに変更はできないんですか!?」

「ちょっと放してよ!!」


俺が何度も女神様を揺らすので、彼女は俺の腕を振り払って離れた。

そして、睨みつけて言い放った。


「もう記録されちゃったんだから無理! それは告白した相手を間違えたあんたが悪いんでしょ。敏郎、往生際が悪いわよ」

「そんな殺生な……」


俺はそのまま肩を落として、座り込んだ。

俺の運命の人は大村さんだと思って頑張ろうとした瞬間、出鼻をくじかれた気分だ。

しかも、女子高生が運命の人だなんて最低だ。

俺はあの日、あの女子高生に怒鳴りつけられた瞬間を思い出した。

あの娘が俺の事を好きになるとは到底思えない。

俺の人生及び、世界の運命終わったとその場で項垂れた。

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