紅水晶ものがたり

猫谷あず季

 その国では、夢を描く人々が不幸になっていきました。


 絵を描くことや、踊りを踊ることや、楽器を奏でることは、そこでは賞賛されることのない行為でした。でも、その国は芸術家で溢れる国でした。かつてその国は、芸術でその名を馳せ、栄えた街だったからです。ある日突然、芸術に慣れ親しんできた人々や、芸術を生活の糧としてきた人々から、その大切な芸術が奪われました。


 街のあちこちにあった芸術学校は一つ一つ閉鎖され、代わりに現代のテクノロジーを学ぶ学校がどんどん造られました。国の外からたくさんの専門家が呼ばれ、教員として雇われました。芸術家を夢見た若者の多くは、コンピューターの前に座らせられ情報技術の専門家として育っていくことを余儀なくされました。


 しかし、たった一つだけ、どういうわけかその荒波をくぐり抜け、生き残った芸術学校がありました。それが私たちの通う学校です。そこで私たちは、かつて多くの若者がそうしたように絵を学び、踊りを学び、音楽を学びます。芸術家になることを推奨されないこの街で、芸術を学ぶことに将来性はあまりありません。それでも私たちは学びます。日々、自分だけの美を、悦びを探しながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る