第15話「淡く、儚く……」
その次の日、学校に行くと例の噂話が加速していた。
その噂話に天音が嫌がっていないか天音の姿を探したが、そこに天音の姿はなかった。
どうしたんだろ、今日は珍しく休みかな…?
「今日七海さん来てないのもしかしてその男になんかされたんじゃね」
するとふとクラスの一軍男子が言った言葉が耳に入る。
え…ぼ、僕なんかしちゃったかな…?
急に悪寒が走りスマホで天音の連絡先を探す。
天音…天音…天音……あった!!
僕は天音にすぐメッセージを送る。
『急にごめん、もしかして昨日僕何かしちゃったかな‥何かあったら何でも言って欲しい』
するとすぐに既読がついて返信が来た。
『どうしたの急にー』
『いや、天音休んでてクラスの人達がもしかしたら例の男がなんかしたんじゃないかって言ってて…』
『それで心配になったわけだ笑』
『まぁそゆこと』
少し間が空いてから天音から返信が来る。
『裕涼は何もしてないから安心してー!さては天音のこと好きだな…?』
何とも返信のしづらい内容だった。
正直好きじゃないと言ったら嘘になるし、好きだと馬鹿正直に言ってしまったらどうなるものかわからない。
ここはそれとなく流すか…
『まあ花火と同じくらいは好きだな』
『何だよそれっ!笑笑分かりづらい答え方やめろー!!』
メッセージでも可愛さが滲み出てる天音は一体何者なのだろうか……?
『そもそも天音が答えづらい質問するから』
『え?それってどういう…』
しまった、ミスった。
『あーもう!この話やめやめー!!で?結局ただの風邪なんだね?』
『話の逸らしかた強引すぎ笑笑』
『ナンノコト…??』
『笑笑笑、裕涼面白すぎる笑』
これは仕方ない、答えづらい質問するあっちが悪い。
『ま、天音はただの風邪だから安心してー』
『じゃあ今日お見舞い行くわ』
『いやー!こないでー、天音の部屋いま汚いのー笑』
『気にしない』
『天音が気にするの!』
『そういうもんなのか』
『そういうもんなのー!』
そうか、なら仕方ない。ビデオ通話くらいで我慢してやろう(?)
『早く治してくれよ』
『了解っ!早く裕涼に会いたいしがんばる!』
何て可愛いんだこの生き物は。
『ちなみに天音は花火好き?』
『自分から話戻そうとしてんじゃん笑』
『そーゆーのじゃなくてさ、ただ気になって』
また少し間が空いてから返信が来る。
『うん、好きだよ』
『そっか』
『何が言いたかったのさー?』
『あのさ、』
直接だと気恥ずかしくて言えない言葉も、ここでなら言える。
そう言い聞かせて意を決して送信ボタンを押す。
『来週の夏祭り、一緒に行こうよ』
人生で一番と言っても過言ではないくらいに勇気を振り絞った事だった。
こんな学校の机の下でコソコソ隠れながらメッセージのやり取りをして、人生で一番勇気を振り絞って…僕には今まで経験したことのないような新鮮な毎日だった。
今まで夏祭りなんて誰かと行ったことなんてない。
ずっとずっとじいちゃんの手伝いをさせられていたから。
自分もそれを嫌だとは思っていなかったから素直に従っていた。
今年だって手伝いをしろと母親に言われている。
でも、それでも……たった一度の青春を、この人と、天音と過ごしたい、そう強く感じたから。
だから、だからこそ、この一瞬一秒に全身の細胞がどこか飛び出していってしまいそうなくらい心臓が騒いで収まらない。
でも、
楽しむこと、全力で笑うこと、勇気を振り絞ること、ドキドキすること、大切な人を守りたいと思うこと、天音と一緒に過ごしたたった数日間だけでもいろんなことを学ぶことができた。
教室の隅で変わり映えのない日常を送っていた前までとは僕とは違う今の僕なら!…何でもできる、そんな気がしてた。
でもそんな僕の儚い希望は、次の瞬間には淡く崩れ去っていた。
『ごめん、裕涼とは一緒には行けないかな』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます