第27話 似たもの同士 1

どこか冷たい海風にさらされる。ドオルにフラれたようなやるせなさに悶々としていたら、真打ち登場とばかりに怠さの隠しきれていない足取りでドラーゴンがやってきた。

コイツもお守りを任されたんだろう。ジブンじゃなく船長の機嫌を取って欲しいところだ。


と思ったらドラーゴンはドオルと違って、そばにいるだけで話しかけてすら来ない。なんなんだコイツは?



「明日にはちゃんと旅が始められるのかな」

「さあな。船長に聞いてみたらどうだ?」

「イヤだよ…」



考えてもわからない不安ほど心に残る。あしらわなかったから、ドラーゴンにとっても気になる話題ではあるらしい。


皆、気にしていることだろう。いつもは太陽の光を浴びるだけの時間を満足そうに過ごしている船員も、今日ばかりは過ごしづらそうだ。

思っていることは同じだと思うと安心する。そんなジブンたちのリーダーのせいでこうなっているんだと思うと怖くなるけれど。


全くもう。船員がいなくなることを予想していなかったにしろ、船長はショック受けすぎじゃないだろうか?

ジブンだって予想はしてなかったけど…船長という立場からしたら、打撃が大きいんだろうか?


それだけじゃない気がする。

ジブンが風邪引いたこの前までは協力をしていたし、その際に船員から過去をほじくり返されたようだし、船長は島から陸へ進路を変更したという重大な決断をしてすぐ、これだ。船長は元々心が揺れ動いていて不安定だったんだろう。昨日の夜だってそんな様子だった。


本当になんなんだアイツは?船長としてあるまじきことをしている。

アイツのことなんて考えてもどうしようもないし、ドラーゴンとテキトーな話でもしていよう。



「モンスターって見た目と声以外は全部同じじゃない?なんで?」

「は?いや…え?オマエ…」



何の気なしに聞いてみたら、物凄くうろたえられた。



「もっと別の言い方ないのか?ああ、できないのか」

「君こそ…」

「ミナライよか酷くねえよ。っていうか今更じゃないか?オマエ、1、2を争う古株だろ」



だからといって気になることはある。人間の目では見分けがつきづらいことは狼男に教わったけど、とはいえそもそもどうしてそんな設計になっているのかが気になるのだ。



「そうだけど。アレだよ、アレ」

「若い奴があれあれ言うなよ…」

「違うって!」



言いにくいんだってわかってよ…!



「今までは、あの…新しい環境ってやつ?に慣れるのにいっぱいいっぱいだったんだよ。だから不思議に思うのにもラグが生まれたってわけ」

「ラグってなんだ?」

「ラグはラグでしょ」

「雑な辺りは若いな」

「だから違うって!」



こうやってすぐケンカになる…というかこっちばかりがムカついてることが多いのも、モンスターの性格が似たり寄ったりな証拠だと思う。



「ま、モンスターってのは生活環境が似てるからな。例外的に人間のそばで育ったりしない限り、どの種族でも性格の齟齬は生じないだろ」

「どういうこと?」

「例えば数匹が同じように育てられたとしたら、それぞれが離れたところで生きてても関係なしに同じような性格になるってことだよ」

「そうかな?ちょっとは違うんじゃない?」


「だったら俺たちだってちったあ違うとこがあるだろ?」

「いや、ないよ」

「冷てえ奴だな…。俺からしたらニンゲンの方似たり寄ったりだぞ」

「どこがよ!?」



思わず食ってかかる。



「初対面の奴によそよそしくするところだよ。同じ種族なのになんでああなるのかが全然わからん」

「そう?そんなことないでしょ」


「お前は子どもだからわからないだけだろ。大人が他人にはよそ行きの話し方してたりしなかったか?」

「してなかったよ。よそ行きがどうとかの話、ドオルにもしたんだけど聞いてないの?」

「聞いてねえよ。いつの話だ?」

「10分くらい前」


「おい舐めんなよ…俺らも駄弁ってばかりじゃない。話題になるにも時間がかかるんだよ。派閥があるし、そもそも馬が合うとは限らない」

「めんどくさ…」

「滅多なこと言うなよ。お前だって村の中で仲良くない奴くらいいただろ?」

「いるけど…」

「そんなもんだ。一緒に過ごしてるからって仲が良い訳じゃない。あんま斜に構えて見るもんじゃねえぞ」



モンスターに説教された。ムカつく…。



「ったく、話が逸れたな。要は俺たちからしてもニンゲンはみんな同じようなもんなんだよ。モンスターばっか変だと思うな」

「でも変だよ。同じところで生活してないし、種族も違うのになんでいっしょなの?」

「だから一緒じゃ……あ。魔王様から生まれたせいかもな」


「モンスターはみんな魔王から生まれたんだっけ?」

「そうだ。全員が魔王様の忠臣となるべくして生まれたから、ある程度似通うのは必然なのかもな」

「ある程度っていうかほぼ同じじゃない?」

「いちいちうるせえな…育ち方も違うのに似通ってるニンゲンの方がよっぽど可笑しいっつうの」

「だからぜんぜん似てないってば!」



…なんだかさっきから話が進んでいない。



「さっきの話さ、モンスターこそ初めて会うヤツに心を全オープンの状態で話ができる方が可笑しいでしょ!」

「いいや、ニンゲン社会じゃ殺し合いもしないくせにあんなに過敏に取り繕う方が可笑しい」

「こっちは色々あるの!」

「色々って?具体的に何だよ?」

「えっと…お母さんに聞いて」

「ここにいないだろ」

「そうやってうるさいところがみんなそっくりなの!」



船板を何度か踏み付けながら言い返せば、近くにいた船員がイヤそうな目でこっちを見てきた。

対して、ドラーゴンはもっと意地悪な顔つきになった。



「じゃあオマエだけに限った話をしてやろう。それなら他のニンゲンのことまで引っくるめて悪く言うよかマシだろ?」

「うーん、そうかな…」

「よし、言ったな」



言ってないけど。



「オマエの一人称、変わってるよな。「ジブン」なんて」



あっ…こいつ、一番話に出されたくないことを…。



「どうなんだ?え?」

「けったくそ悪い…」

「何だって?」

「ちょっと黙って!」



こっちがイライラし出すと、向こうはわかりやすく楽しげにニヤニヤし始める。これもよくあるパターンだ。ほんとうにたちが悪い。


話そうか、隠すか?とっさに決められなくて誤魔化したけど、今もまだ、ドラーゴンからのねちっこい目線を感じる。


さっきは「げっ、逃げろ!」と思ったけど踏みとどまった。今は皆上の空で、船長も誰もかくまってくれやしない。

皆が疑問に思っていたことだろうに、今までの船旅の間、よく隠し通せたものだ。

ジブンが今よりも意地っ張りだったのもあるけど、船員の数が多かったのも理由の1つだろう。


「そんなことどうでも良いでしょ。仕事しなよ」なんて言っておけば煙に巻けたし、なんなら「船長!」と大声を出せば大抵はビビってどこかへ逃げていっていた。


ジブンが上手くかわしていたというより、船員も船員でそこまで本気で突き止めようとしていなかったんだろう。「大陸に着けば船とはおさらばだし別に良いか」と思っていた可能性がある。


今は船長が使い物にならないことは周知の事実だし、船員もしっかりと意思のあるヤツしか残ってない。

もう煙に巻ける雰囲気じゃない。観念するしかなさそうだ。



「ジブンは、村では自分のことは名前で呼んでたの。だからいきなり自分のこと別の言い方するってなっても思い付かなくて」

「「わたし」とか「ぼく」とか色々あるだろ?」

「そういうのはまだ違う感じがしてヤだったの。だから、自分の名前以外っていってもわかんなくて…じゃあそのまんま、自分のこと「ジブン」って言えばいいやって」

「へえ、よく思い付いたな。ガキにしちゃあ難しい発想な気がするが」



目をしかめてしまう。モンスターってイヤな言い方しかできないのか…?



「自分のことを『ジブン』って呼んでる子を本で見たことあるの。だからマネしただけ」

「『だけ』ってなあ…モンスターの俺からしても可笑しいくらいだぞ?ニンゲンから見たら相当変なんじゃねえか?」

「まねっこくらい誰でもやるでしょ」

「それが長く続いたらいくら何でも可笑しいだろって話だよ。わかるか?」

「ああもう、うるさい!」



自分からイヤなこと言ってきたくせに、こっちが言い返せば面倒くさそうな顔をする。

ジブンも「うるさい」としか言い返せなくて悔しいけど、カッとなったらそれしか出てこなくなる。



「へっ、拾ってくれたのが船長で良かったな?変わった者同士__」

「人に拾われてたらちゃんと自分の名前使ったもん!」



よしよし、言い返せてる…!



「おいおい、これまで一緒に暮らしておいてそんな扱いはないだろ。船長の奴、傷つくぜ?」

「知らないよ。『ジブン』って言ってるのは船長のせいだし」

「船長からなんか言われてんのか?」

「ミナライであり続ける以上は『ジブン』って言わなくちゃいけないもん。この船に居続ける限りは絶対に」

「ま、相手が船長ならそうなるだろうな」



そりゃそうだ。ジブンを見つけたのがあんなヤツじゃなければ、もしかしたらモンスター相手でも本当の名前を使っていたかもしれないくらいだ。さすがにそれは言い過ぎだけど。


それくらい船長が変わってるということだ。

船長がいなくなったらみんな、こんな船からは出て行く。船長がいるから、あいつを船長たらしめる変な旅が続いてるだけだ。


誰よりもこの船から出て行きたいのはジブンだ。誰よりも辛いのだってジブンに違いない。でも、船長がいなきゃジブンは村を探せない。



「逆に考えてみれば、ミナライが居るからあいつは船長でいられるんじゃないか?オマエさえ自立すりゃあいい話なんじゃねえの?」

「あ…いやいや、そんなこと言ったって…!」

「ちょっと納得しかけてんじゃねえか?」



呆れたように言われて、イライラが一気にこみ上げる。



「わかってればできるかって言ったらそうじゃないよ。だとしたらこんな船、とっとと出て行ってるもん」

「そうかよ。ニンゲンの考えることはよくわからん。初対面のモンスターに着いていったくせして本名は教えられないとことか、特にな」



こっちの考えをいちいちおちょくるんじゃないっての…!



「そっちこそ、『知らないヤツには着いて行っちゃダメ』なのはわかるくせに『名前を教えちゃダメ』ってのはわからないんだ?変なの!」

「そりゃどうも。故郷が消えるような不幸に見舞われたことがないんでな。ちっともわからん」



…ああ、ムカつく!



「ふん、もう良いよ!わかんないんなら教えてあげる。しょうがないな」

「そう拗ねるなよ。こっちだってマジで知りたいんだから」

「じゃあもっとこう…、じゃなくて…」



ここで言い返したらまた話が続かなくなるから、堪えなくちゃ…もう、まるでジブンの方が大人みたいじゃないか。



「それで、何が聞きたいわけ?」

「『ジブン』なんて一人称にしようってのはどういう理由で決めたんだ?」

「ああ、それね」



教えてあげる、なんて言った矢先なのに言葉につまる。

「ジブン」なんて呼び方をしているのは、性別がバレないようにしてるためでもあるからだ。


村の大人が都会行ったらどんな情報でも簡単に明かしちゃいけないって言っていたんだ。「変な人に狙われやすくなるよ」って…。


村を売り込みに行くのに自分のことを隠すなんてちんぷんかんぷんだったけど、都会どころかモンスターの船に乗る羽目になっちゃったし、早くもその教えが役に立つ時が来てしまったんだ。


だからその知識を生かしてみたんだけど、コイツらにはそもそも人間の性別がどうとか理解できるんだろうか?



「人間の性別の違いってわかってる?」

「そりゃあな。卵作る方が女で精子作る方が男だろ?」

「…なにそれ?」

「いずれ習うんじゃねえか?」

「そういうのじゃなくて、見た目で判別できるの?って話」

「微妙だな。髪長いと女の場合が多い。短かったら大体は男だな」

「顔つきとか体つきでわからないの?」

「顔…?」



ドラーゴンは首を傾げた。まるで表情に違いがあるのを初めて知ったみたいに。



「わからないの?」

「殺す相手の顔なんかまじまじ見るか?俺なら見ねえな」



ああ、そういう…。人間のことを判別すべき対象だとはそもそも思っていないらしい。ドラーゴンは船員の中でもだいぶ人間を下に見ているようだ。イヤなヤツだ。

世界中のモンスターからしたらこれが正しい感覚なのかもしれないけど。



「体つきは見ないの?」

「別に。自分と渡り合える奴かどうかだろ。見て確かめる必要はない」



ダメだ。ドラーゴンは完全に戦闘重視のモンスターのようだ。こいつに聞くべき話題じゃなかったかもしれない。性別の話は切り上げよう。



「他に聞きたいことは?」

「何で名前を教えたらいけないのかって話だ。さっきから言ってるだろ」

「わかったわかった。なんでダメかってと言うと、色んなことが相手にバレるからなんだって」

「なんだそりゃ?」

「ほら、誰の家族かとか…そこから家の場所がバレるかもしれないんだってさ」

「はあ?名前だけじゃ住所までは割れないだろ?」

「わかることもあるんだって」

「へえ。でもバレたところで何って話にならないか?」


「ジブンの家だけじゃなくて、他の家まで危ないことになるかもしれないの。さらわれたり、物をとられたり。そんなことになったら、村から追い出されるかもしれない」

「船長にそんなことできるかあ?」

「わかんないけど…できたとしたらマズいでしょ?だから言わないの」



村に帰れたところで、モンスターを引き連れてきたら「村にわざわいを運んで来た」なんて村を追い出されたら元も子もない。「村にいられなくなるかもしれない」なんて、村にいない今考えてもとてつもなく怖いことだ。


もしさっき言ったようなことになったら、あのジジババどもなら絶対にジブンのせいにしてくる。あいつらはこっちの話をぜんぜん聞かないもの。


それに、モンスターを連れてくるだけじゃなくて、船員が遊び半分でどこかの家を壊したりでもしたらみんなモンスターを怖がって散り散りになって…村そのものが無くなるかもしれない。


そんな心配がなくたって、村に帰ればジジババどもがいるから最悪なのに変わりない。そんなのわかってても、村には帰りたい。お父さんとお母さん、それに友だちに会いたいって気持ちの方が強いもの。


それに、自分のただ一つの居場所であり道しるべでもある存在…というか「村に帰る」こと自体ができなくなるようなことは言いたくない。



「ふうん。船長に会う前に、そんな感じのマズいことになりかけた時はあんのか?」

「ないよ」

「だろうな」

「どういう意味!?」

「あるんなら初対面の、それもモンスターになんか着いて行かねえだろうからな。がっつり誘拐されてんのが証拠だろ。本名言わないようにしてるのも意味ないんじゃね?」

「そんなことないし!」



冷静にツッコまれるとブチギレて返すしかないのも辛いところだ。もっともらしいことを言われた時ほど、なんでかものすごくムカつく。



「オマエ、けっこう箱入りなんだろ?ちゃんと親から注意受けてたんじゃねえのか?」

「そうだけど…そんなことないって思ってて…」

「動かぬ証拠、ここに有りだな」

「うるさい!」



今、この船に居る時点でお母さんたちとの「知らない人にはついて行っちゃダメ」って約束はまったく守られていないことくらいわかってる。でも、だったらあの時あそこでどうすれば良かったの?


船長と会った時にはもう、お母さんたちはいなかった。今思えば、着いていかなかったところで船長以外のモンスターに出会っていたかもしれない。もしも、そいつが攻撃してきたとしたら?

村に帰れずに、村があったあの場所で死んじゃってたかもしれない。

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