第24話 船長との出会い 2
これ以上は聞き出せないかな?
あんまり聞いてばかりでも怪しんでるのがバレちゃいそうだ。聞かないなら聞かないで、このモンスターの悪いところを知らないまま仲間になってしまうかも。
それでも、ジブンは海での生活の仕方を知ってる。
お腹が空いたとき、のどが渇いたとき。迷ってしまったときも、どうすればいいのか知っている。波が変わったときだって、上手に泳げるはず。村の大人にたくさん教えてもらったもの。
だから、危なくなったらこのモンスターの船から飛び降りて逃げたら良い。一人になったら、人がいそうなところに行って助けてもらえって教えられた。でも、陸から離れたところに船を出されたとしたらどうしようもないな。
「その旅って、人がいるところにも行くの?」
「俺としてはニンゲンに近づきたくはないが…オマエはその方が良いのか?」
「うん、行きたい」
「そうか…なら、俺がモンスターだとバレない限りは町に連れて行ってもいいぞ。変身魔法でも使うとするか…」
思ったより、こっちのことを考えてくれるみたいだ。どうしよう。このモンスターに着いていった方が良いことがあるかもしれない。
頼れるのがこいつか港町かのどっちかしかないからやむなくって感じだけど、決めるのに勇気が必要だ。
港町に住んだとしたら、村を探しに何回も外に出て行くと怪しまれるだろう。
住まわせて貰うからには色々と手伝わなきゃいけなくて、村探しどころじゃなくなる。手伝いができない理由として「村が急に消えた」なんて、やっぱり信じる訳が無い。
言ってみても良いけど、「ほんとうなのか見に行ってみよう」なんて言われて…連れていってみて本当に村が無くなってるのを見たら、それはそれで気味悪がられる気がする。
さっきも思った通り、「じゃあなんでこの子だけ残ってるんだ?」って。もしかしたらジブンが悪者だと思われるかもしれない。このモンスターといっしょくたにされたらたまったものじゃない。
そうか、コイツの誘いを断ったとしてもお互いに行く先は港町じゃないか。コイツ、港町で船を直してるって言ってたもの。
だったら何度も話しかけられるかもしれない。コイツと知り合いってことを隠そうとしたって、いつかは無理が来るだろう。バレないように、って気をつかいながら生活するのは疲れそうだ。
旅の中でもモンスターといるところを人に見られたら、ジブンは悪者だと思われるだろう。だったらバレないようにコソコソする方法を思いつけば大丈夫だ。コイツも人にバレないようにするの、協力してくれるって言ってたし。
寝床にも困らないみたいだから、一人で生きていくよりかはずっと楽だ。このモンスターが何を食べるのか知らないけど、ジブンはサカナを釣るのが得意だしどうにかなる。
サカナばっかり食べることにはなっちゃうけど、もともとサカナ多めのメニューだったし慣れっこだ。こればっかりは港町で何か分けてもらいたくなっちゃうけど、それはもう仕方ない。サカナだけでも、何も食べられないよりかは良い。
コイツに着いていったら船でふたりだけの生活になる。大勢のために動かなくていいなら、そんなに疲れないだろう。
話しかけられないように離れてたら怖くないだろうし、別の大陸に行くために練り歩かなくても良いし、モンスターなら魔法で風を起こしてどんな時でも船を出せる。
船があるなら、離れたところにも行ける。どこまででも村を探しに行ける。
無理やり引っ張っていったらわがままなヤツだと思われて嫌われるかもしれないけど、このモンスターも世界中を旅したいみたいだし、村探しに付き合わせるのにちょうどいい。
村がここに帰ってくるのを待つんじゃなくて、探しに行った方が見つかりやすい気がする。港町にいたままじゃ、それはできない。
そもそも、村がまだこの世界にあるのかどうか怪しいけれど。いいや、無くなるはずがない。どこかに行っただけだ。ほんとうに村が消えたなんて、さすがに有り得ない。人間にも魔法を使える人はいるけど、そんなことする意味がない。強いモンスターも、伝説の時代に消えちゃったらしいし。
そんなことできるヤツなんてこの世にいないんだから、あんなにきれいさっぱり消し去ることなんかできっこない。たまたま、どこかに飛んでいっちゃっただけに違いない。絶対、今も世界のどこかにあるんだ。
どこかじゃなくて、村がここに戻ってきたとしてもいい。世界一周の旅をするんならいつかはここに戻ってくるんだから、その時に帰ればいい。
それだけ長い旅にはなるけど…このモンスター、ヨロイだし剣を持ってるしで、強そうだ。悪いヤツがいたって怖くて近寄らないだろう。世界をすみずみまで見て回るには、コイツといた方が良い。
そうだ、もしかしたら伝説の旅っぽいこともできるかもしれない。今まではずっと、サカナを釣ったり物を運ぶばかりであまり船に乗せてもらえなかったから楽しいかも。やっぱり、悪いことはあまり起こらなさそうだ。
それでも、モンスターと一緒にいるところを港町の人に見られたら、まわりまわって村の人に伝わっちゃうかもしれない。それはダメだ。港にある船が何隻か出たら、こっちもすぐに海に出なきゃ。
「わかった。連れてって」
「嬉しいぞ。そうだニンゲン、名はなんという?」
「ああ、えっと____」
名前を言いかけて、あわててやめる。モンスターに名前を呼ばれるのは嫌だし、知らないヤツに名前を教えちゃいけない。
「好きな名前で呼んでいいよ」
「いいのか?ニンゲンはみんな、それぞれ名前があるのだろう?」
「でも今は、新しい名前になっても大丈夫だよ」
「本当か?故郷に帰ってから困るのではないか?」
妙に気にかけてくる。本音がバレそうで怖い。
「村に帰ってからはちゃんと元の名前に戻すから大丈夫。旅をしてる時は別の人になりきれば良いってことでしょ?そういうの一回やってみたかったから丁度良かったよ」
「なるほどな…ではオマエは、船のミナライだ」
「ミナライね。…ええと?」
「俺のことは船長と呼んでくれ」
「わかった。よろしく、船長」
「よろしくな。ところで、ミナライはどうしてこんな所に一人でいるんだ?」
ぎくりと体がはねる。ああもう、話がまとまったと思ったのに。
「ここ、ついさっきまで村があったんだけど、どこかに消えちゃったの。ジブンは、外に遊びに走ってたところをなんでか取り残された。お父さんもお母さんも友達もいなくなっちゃって…だからここにいるの」
ほんとうのことをどうにか、かいつまんで話す。船に乗せてもらうことになるとはいえ、すべて話すのは怖かった。
「ふむ?不思議なものだな」
「ジブンもよくわかってない」
「ともかく、ミナライはここにいる。それは変わらないだろう?」
「うん。旅はできるよ」
「よし、俺も晴れて船長となった。ミナライと共に旅に出かけるぞ」
なんとか誤魔化しきれて、安心する。こいつも、ゴテゴテしたヨロイのわりには楽しいモンスターだ。
・ ・ ・
「…それで、そのまま着いていったんだって」
「はあ?それだけか?なんか隠せって言われたんじゃないだろうな?」
「ううん、言われてないよ」
「いや、さすがに何か隠してるだろ…ニンゲンのガキがモンスターと生活するなんて有り得ねえ」
「どうせ船長の野郎が根回ししてんだろ。いつまでたっても埒が明かねえよ。さっさと出ていこうぜ」
「出かけるの?船長に言って来ようか」
「よせよせ。ちょっと風に当たってくるだけだ」
「そう?行ってらっしゃい」
・ ・ ・
船員が部屋から出てくるのが見えた。でも、三匹だけだ。四匹くらいの話し声が聞こえてきたはずなのに。
「あ、いた」
「ミナライ?どうしたの?」
「なんでもないよ」
実はさっきから、海を見ているふりをしながら四匹の話を聞いていた。キャノヤーは、あの三匹にジブンと船長が出会った時の話を聞き出すよう頼まれたみたいだった。
今朝、キャノヤーから「話を聞いてこいって言われた」なんて聞いてしまったからには、後ろにああいうヤツらがいるんじゃないかと疑うしかなかった。そのカンは当たってたらしい。
でも、あの三匹はジブンの話を信じてないみたいだった。わざわざ回りくどいやり方で聞き出しておいてまで知りたかったはずなのに、なんで信じないんだろう。
キャノヤーにジブンから話を聞き出すよう頼んだのだって、「自分たちが聞いても話さないから、こいつに任せた方がほんとうの話を引き出せる」って思ったからそうしたはずなのに。
それでもって「さっさと出ていこうぜ」というのは、この船から出ていくということだろうか?
きっとそうだろう。前にもこういうことがあったけど、止めても誰も聞いてくれなかった。どうしてか知らないけど皆、出て行ってしまう。
船長はジブンに隠れて、船員に何かしてるんだろうか。そうじゃないと、船員がこんなに出ていきたがる訳がない。
でも、何かってなんだ?仲間にするために無理やり引きずり込んだとか?
それは無いか。人間のジブンを仲間にするより、同じモンスターを仲間にする方が簡単に決まってるもの。
船長の最初の仲間がジブンなんだし、トントン拍子で増えていくと思っていたんけれど…船員を引き込むところまでは上手くいっていたようだけど、最近はなんだか変だ。
「さっきの船員たち、出て行くのかな」
「どうだろうね」
アイツらがいなくなるのかどうか、まだ確かではない。今回は引き止めない方がいいのかな。うん、やめておこう。止めても聞いてくれないだろうから。
それに、船長を悪く言われたら少しはイヤな気分になる。
船長を名乗る、あのモンスターのことはずっと怖い。でも、ジブンをまだここに置いてくれてるんだから優しいんじゃないだろうか。
モンスターにそんなこと思うのは良くないとわかっているけど、船長がいなかったら今のジブンはいない。
その船長のためなら、船員を引き留めた方が恩返しになるのかな?だけど、あの船員たちに口答えしたらジブンのことまで悪く言ってくるだろうし、やめておくのがいいや。
この船は嫌なことばかりで面倒くさい。早く家に帰りたいな。
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