第 6話 セリセリは 意外に

 昨日はよく寝れた。こんなにぐっすり眠れたのはちょっと久しぶりで、何だか嬉しい。このモフモフの抱き枕のおかげだな。可愛い寝顔だ、もう一回ワフワフしてやろ♪

私のいた村では、こういう生き物は直ぐに食べられちゃってたからな。私もそうしてたし。あ、オイデは食べないぞ、安心してくれ。ふふ、長(オサ)が見たら怒るんだろうな。

「すぐに喰え!」とか「連れは命取りだ!」とか・・・きっと、もう帰れないと思うけど、内緒にしておこう。


「ん~~!っと!」


軽く伸びをしてベットから出た。オイデは・・やっぱりまだ、よだれ垂らして寝てるな。


「オイデは寝坊助さんだな。もう日が昇るぞ?・・・っていけない、寝かしといてあげよ」



 ”オイラだって起きてるんだナァ・・・ふナァー・・・一晩中、おっぱいに挟まれてて寝付けなかったナァ。逃げようとしたら、余計ギュっときて諦めたナァ。ドキドキしすぎてオイラの心臓、口から出るかと思ったけど気づいたら寝てたナ・・そんでよぉ、、寝起きは、ちょっと・・いろいろあって、動けないんだナァ”


片目だけうっすら開け、チラっと女の方に目をむけた。


仁王立ちで朝日を眺めてっけど、お尻の方だけ紐になってる下着一枚で他は着てないんだナァ。ナァ!、また、元気が

・・・余計に起きれなくなっちまったんだナァ!

落ち着け、落ち着くんだ、オイラ!おちつ・・おち・・・ぐぅ・・・・・・。


 ・・・スンスン ・・くぅ~ん・・なんだか、とってもいい匂いがするナァ。外からパチパチと炭の爆ぜる音と、時折「ジュッ」と油の垂れる音、ほんのりと燻られるような煙に乗って肉の焼ける匂いが・・・

 止まれ、オイラのよだれ!!

…止まるわけねえナァ。ナァ~にを焼いているのかナァ、美味そうだナァ♪

にしても、チョッと音が大きい気がするナァ。煙はこっちには向いてねぇみてえだけど、これはいったい??何事ナァ?



 外に出てみると三メートル位の大きさの後ろ足のない、巨大な肉を女が丸焼きにしているところであった。

 流石に外ではちゃんと着ているみたいだ。ゴム質の魔獣の素材で出来ているピッチりとしたつなぎに、大河タイガーの毛皮のマントを羽織っている。実用第一、といったところか。 



「あぁ!オイデ、おっはよう!!もうちょっとで焼けっからねー。そこの井戸で顔洗ってまってて」


 やっと起きて来たな。オイデもきっと、久しぶりにぐっすり寝れたんだろうな。外で熟睡しちゃうと魔獣の餌になっちゃうもんな。私は優しい飼い主だ。うん。

おっと、それはそうと、ロースがそろそろ食べごろなじゃいか?


 右手の武器をナイフ代わりに背中の肉を切り裂く。


「ドッ、ジュアアアッ」


 肉汁と溶けた背油が焚火に落ちていい匂いが立ち昇る。


 んん~、良いね、丁度いい。この村にたどり着く前に拾った塩の石がきっと合うぞ。味は私が決める。文句は聞かねーもんね!

 背中のお肉がこれだけ脂がのってるならバラとネックはきっと、すごいことになってるな♪

コイツ、きっと子供産む前の雌だな?大当たりだね、ふふ。後ろ足と臓物を買い取っていった肉屋、今頃ウハウハしてんだろうな。


「お~い、オイデおいでー!美っ味そうなのやけたよー!君はリヴとヒレ下とどっちが好きかな?好きな方を食べていいよ」


 オイデにはちょっと大きかったみたいで「くぅ~ん」としばらくグルグルと周って、やがて、リヴに嚙みついた。あぁ!実は私も脂のかんでる方が好きなのに・・

 うん、でも飼い主だからな、我慢するよ・・・。後でちょっと交換こしよ。


「いっただきます♪あ、ちょっと、オイデ、さっき、いただきます言った?ちゃんと 言わなきゃだめだぞ?」

「・・・オイラ、キツネなんだナァ。いったときねぇんだナァ」

「キツネでも喋れるんだから、言わなきゃな。うん、今決めた!これからはちゃんと言うこと!おはよう、おやすみ。頂きます、ご馳走様でした。ね?あと、男の子になった時もだぞ?」

「・・・喋ると今のオイラに戻っちまうって・・・」

「うん?あー、そうだったっけ。

!!!うっ!めえな!この肉!脂と肉の間んとこ、筋切りしてねぇーのにかみ切れる程柔らけぇな!うん、美味い♪」


 丸かじりにでもするのかと思いきや、以外にも小分けにして、皿に盛り付けて食べている。とても尻丸出しで仁王立ちしていた女とは思えない。

 只、食べるスピードが半端ではないのを除けば。


「・・・んナァ、昨日も思ったんだけどナァ・・もしかすっと、天然なのかナァ?それか馬・・・・」

「ふふ。天然に決まってるだろ?飼われてるやつじゃないんだぞ?私が昨日狩ったのを寝かせておいたんだ。もしかして、美味しくない?」

「・・いんや、とっても美味しいですナァ。もごもご”おまけに話も聞かないんだナァ。”」


あぁ、よかった!美味しいって言ってる。うん、やっぱりご飯は美味しいのが一番だ。あとは、ちょっとリヴロースと交換してもらってっと。腕とスペアリヴはお昼用にして、バラは吊るして燻しておこう。

 残りの半身は宿のみんなに分けてあげるかな。


 そう思い、残りの肉を平らげると、宿の方を眺めながら肉汁滴る塊を取り分け、というより解体に取り掛かった。

 

 ここの宿は、ホントに素敵だ。壁があって、一つ一つの部屋になってるんだぜ?自分の部屋があるんだ。ベットっていうすげー柔らかい寝床があるんだけど、最初は落ち着けなくって窓の傍に座って寝てた。

 でも、ちょっと、横になってみようかなあ~、ってベットに入ったら

「なんじゃこりゃ~!」

 だよ。もうベット無しじゃ寝られない、持って歩きたいくらいだ。

そんで足が出ちゃうって言ったら、私よかでっかい奴持ってきてくれたし。

 頼めばご飯だって作ってくれる。ほかの宿に泊まったことはないけど、きっと、ここはすごい宿なんだろうな!


 何より素敵なのは、目の前に広がる景色!朝は左の、夕方は右の岩山が赤く染まるんだ。

 その麓に、大戦でできた穴に水が溜まってできた、っていう湖があるんだけど、そこはどっちの時間もキラキラになる。

 はじめて見たときは、自然に涙が出てたよ。あんなに沢山の水がキラキラになるんだぞ?私の村では水は貴重だったからね。

 それを眺めながらご飯が食べれるように広い庭があって、私は大抵ここで、ご飯を自分で作って食べてる。宿のご飯美味しいけど、私、いっぱい食べるから、悪いなーって。

 ああ、あと、部屋で寝られるのにわざわざ此処にテント張って寝泊まりしてる奴らがいる。部屋で寝られるのに変わった連中だな。部族のおきて的な何かかな?

 よし!出来た。手があぶらでべとべとだ。オイデは・・食べ終わってるな?ふふ、爪をなめてる姿、可っ愛いいなぁ~。


「ふ~~。ご馳走様。うまかった~!!オイデ、食べ終わったら風呂入って、チョッと出かけるよ。この村で待っているものが、今日あたり届くんじゃないかと思うんだ。この骨の山を素材屋に引き取ってもらわなきゃだしさ」

「んナァ?待ってるもの?この村に住んでるってわけじゃあなかったんだナァ?なんか、馴染んでっからてっきりオイラ・・・」

「そうだよ、ここに来て丁度一か月、ってとこだな。ほら、オイデ、食べ終わったら?」

「んナ?・・・ごちそう・さまでした・・」

「うん。よし!よくできました。決め事はまもらないとな!さぁー、先ずは風呂だ!」

「ちょっと、待ってほしいんだナァ・・・。お腹が一杯で、動けないんだナァ」

「あはははは!オイデはキツネってより、タヌキだね!!」

「んナ(怒)」


オイラぁ思ったね。あんたにだけは、あんたにだけは言われたくないんだナァ・・・・

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