第18話 オーマイ弁当

 講堂での授業が終わり教室に戻ってきた私は席に着く。


 小学生が好きそうなかわいい系が好きな人と認識されてしまった。誤解を解こうと必死になればなるほど誤解しちゃって、これはだめだと一旦諦めた。


 それと予想通り後ろの席に座っていた男子も見ていたらしく、ヒソヒソ話をしていたから八つ当たりに男子グループを睨んでやった。


 顔を逸してもこっちはわかってるんだからな!


 しばらくすると美里さん達が当然のように私の机に集まってきて雑談をはじめる。


 誤解とは言え小学生みたいな趣味を持っていると判明したのに、変わらず接してくれて、ホッとした。


 しかし……ほんと女の子はおしゃべりが好きなんだね。



 午前中の授業が終わり、お昼時間になった。


 大和黎明高校には校内に食堂が設けられている。いわゆる学食と言うやつだ。


 学食は生徒や関係者であれば利用できる。扇木さん曰く、けっこう美味しいらしい。いつの間に行ってたんだよあの人。


 しかし私は学食を利用しない考えだ。


 なぜって? 生徒が利用できるってことは他のクラスの人や上級者もいるってとこになるでしょ? そんな人が集まるところにこの姿で行きたくありません! バレる確率が今よりぐっと上がっちゃう。


 そんなわけで、本日はお弁当を持参しています。


 こう見えて私は料理ができる。親父が死んでからは母親の手伝いをしていたからね。それに、母親が入院してからは家事は全部私の仕事だった。そのひとつに料理があったから。


 貧乏生活で限られた材料でいかに美味しく、バリエーション豊かにして小さい弟妹を飽きさせないように工夫しながら料理をしていた。


 その成果が今活かされているのだからありがたい。ちなみに扇木さんは料理しない、と言うより出来ない。


 以前、扇木さんを煽って料理をさせた事がある。出てきた料理を見てびっくりしたよ。だって冷凍食品を解凍して盛り付けしただけだったんだから。


 たしかに冷凍食品は日々進化していて美味しいよ。でもね、これを料理と認めるのはあんまりだ。


 どう? すごいでしょ! って真面目にドヤってる扇木さんを見て、あーこの人、本当にこれが料理だと思ってるんだと確信した。


 私は無言でキッチンに立ち、哀れな扇木さんに本当の料理を見せて食べさせた。


 ……めっちゃ驚いていた。



 クラスの様子を窺っていると、斜め前の席に座っているあいかさんが後ろを振り向いて話かけてきた。


「沙月ちゃん、お昼は学食? お弁当?」


「お弁当ですよ」


「やった〜! じゃあ一緒に食べよ!」


 あいかさんもお弁当持ちだったらしい。かばんをごそごそしながらお弁当を机の上に出すあいかさん。


 ちょっと待ってて。って私に声をかけたと思ったら席を立って他の女子に話しかけはじめた。


 そして、あいかさんを先頭に数名の女子が一緒にやってきた。もちろん皆片手にお弁当を持って。


「じゃあ行こう!」


 ……えっ? どこに? ここで食べるんじゃないの!?


 困惑が顔に出ていたのだろう。すぐにあいかさんが教えてくれる。


「えっとね、少し歩いたところに多目的ホールがあってお昼はそこで食べてるの」


 他のクラスの人達もいるから大丈夫。ってさらっと付け加えた。


 ……全然まったくもって大丈夫じゃない! なるべく他の生徒と関わりたくなくてお弁当持ってきたのに意味ないじゃん!


 しかも後ろにいる人達は誰? クラスメイトでもわかんないから! 一回二回しゃべっただけじゃわかんないから!


 こんな状況と時は美里さんが助けてくれるはず!


 そんな他力本願な気持ちで辺りを見回すと、案の定こちらへ歩いてくる美里さんを発見した。


 さすが美里さん!


「沙月さん、お昼はどうするの……ってあらっ、お弁当なのね、すごく残念だわ。それじゃ、あいかさんに今日はお願いするわ」


 そんな言葉を残し私に背を向けるとスタスタと離れていった。


 ……


 観念した私は立ち上がり、あいかさんと一緒に多目的ホールへと向かった。


 ……美里さんは学食派なんですね。



--------------


いつもお読みいただきありがとうございます。

どこから料理と呼ぶのか、皆様のラインはどこですか?

次話もお読みいただければ!

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