後方のラブコメ、目の前には異能バトル。
渡貫とゐち
前編
「……見つけたわよ、こんなところにいたのね、どろぼう猫……」
「――げっ、見つかった!? ……って、よく見つけられたね、パレードの人混みに紛れて姿を眩ましたのに……。しかもロープウェイで長距離移動だってしたんだけど……? まさか勘を頼りに探して、見つけたってわけじゃないよね?」
「え、勘だけど?」
「……足跡を徹底的に潰してきてるから否定もできない……っ! ほんとに女の勘だけで、この広いテーマパークにいる『あたしたち』の位置をっ、ピンポイントで分かったの!? ……だとしたら化物よね……」
「勘ではあるけど、さすがに選択肢は絞ったわよ……、あなた、ジェットコースターは好きだけど、垂直落下するアトラクションは嫌いでしょう? それに、ゆったりとした動きで高所へ連れていかれるアトラクションも無理……となれば、私からできるだけ遠ざかり、その上で、あなたの苦手なアトラクションを外していけば……いずれ辿り着くわ。思っているよりも見るべきアトラクションの列は少ないのよ。外側から見て姿が見えなければ、屋内に入ったってことだし……列が屋内まで続いているアトラクションこそ、片手の指で数えられるほどしかないわ。ついさっき昼食を食べたばかりというのも良かったのかもしれないわね……あなたからすれば仇になったのかしら。今の満腹度だと、飲食店には寄らないでしょう?」
「う、ぐぐぐ……」
「私を撒こうとしたって無理よ、どこまでも追いかけるわ――ほら、諦めて『三人』で楽しむわよ。独占したいのは私だって同じだけど、今日は妥協して……。こうして三人で遊びにきているのよ? 置いていく方が悪者になるんじゃないかしら」
「それは、そうだけど……――
「え? う、うん、いいんじゃない……? 元々三人でいこうって話だったし――って、ひふぁい!? ほ、頬を引っ張ら――」
「元々? ふざけんなっ! 先に遊園地にいこうって誘ったのはあたしでしょーがっ! その子が後から参加してきたんじゃんっ、あたしは許可してないのに、夜鷹が勝手に『いいよ』、なんて言っちゃうからさーっっ!!」
「で、でもさ……断る理由もなくて……」
「へえ。それともなに? あたしだけじゃ物足りないってわけ……? どっちかを選べないってわけじゃなくて、どっちも抱え込んでおこうって気なの……? 二つの味をいつまでも楽しもうとしているのかこの二股やろーっ!!」
「おぉい!?!? 声がでかいぞ気を付けろっ、周りの人に誤解されるだろうが!!」
「あら、誤解でもないんじゃないの? だって実際、夜鷹くんはこうして二股、してるじゃない。いえ、厳密にはまだどちらとも付き合ってはいないから、二股とは言えないのかしら……。でも、二人から言い寄られて、でも答えは出していない――答えを出さずに二人の女の子を脇に抱えているのは、二股しているよりも罪深いんじゃないかしら……?」
「抱え込むとかさ、そんなつもりは……。確かに、どっちを選ぶのか、って判断にずっと迷っているけど……、そんな簡単にさ、答えが出るわけないじゃないか……ッッ!!」
「――まあ、こちらとしては、二つ返事でフラれたくはないから、今のこの停滞でもいいのだけどね……でも、最後にはちゃんと答えを出してほしいわけよ、決めてほしいのよ……。このキープ状態が、いつまでも続くとは思わないことね?」
「夜鷹、あたしを選ぶよね?」
「いいえ、夜鷹くん、私でしょう? ……なんて、追い詰めても答えは出ないわよね。ひとまず、今日を楽しみましょうよ。無理やり一人を引き剥がして、二人きりになって楽しもうとする『ずるい』女の子を選ぶ夜鷹くんではないことを願うわ――」
「ッ、あんた、その言い方ァ……ッ!」
「事実でしょう?」
――後ろでバチバチしてるなあ……。
最近の高校生(?)の恋愛事情は、まるで一昔前のライトノベルのようでもある。
「先輩……、先輩? 列、進みましたよ、早くいきましょうよ」
「ん? ああ、すまない――」
盗み聞きしていたわけではないが、聞こえてしまったのだ……、聞こえてしまえば、気になる内容であった……、他人の人間関係などには興味がないが、しかし後ろの学生の関係性には、強いフックがあった――。かと言って、このまま聞き続けるのは失礼だ。
こっちにも目的がある、早々に興味を捨てなければな……。
ぽっかりと開いてしまった大きな空間を埋めるように、私と後輩は先へ進む……、列の進みは早いのだろうが、しかし列が長いので、進んでも進んでもゴールには辿り着かない……いや、これから向かうのはスタート位置なのだが。
「先輩、ボケっとしていないで、周りをきちんと観察しておいてくださいね?」
「分かっている。しかしこうも薄暗いとな……さすがに見づらいな」
私は恐る恐る足を踏み出しているのだが、後輩はすいすいと先へ進んでいく。
まるで道順を、この場に似合った雰囲気のある立て看板による指示を見るまでもなく、事前に知っているかのような足取りだ。
「慣れていますからね、何度もきたことがあるアトラクションです……。わたしが学生の頃からあるアトラクションですよ? 逆に先輩は、一度も乗ったことがないんですか?」
「絶叫系は苦手なんだ」
「これ、乗って大丈夫ですか……? まあ、叫ぶほどのアトラクションではないでしょうけど……、鉱山をトロッコで冒険するアトラクションです。速度も、一部を除けばそう出るものでもないですしね……。わたしも友達も、好きなんですよ、このアトラクション――なのでこの長蛇の列が続く、道中の地形も把握済みですよ」
「だからすいすいと前へ進めるのか……世界観に合うように、電球で照らされているとは言えだ、やはり年寄りには見えにくい光量だな……」
「年寄りって……先輩はまだ三十代でしょう?」
「三十代は年寄りさ」
三十代でこんなことを言っていたら四十代、五十代の時に言うべき言葉がなくなる気がしたが……、三十代以降は全て年寄りである、ということにしておこう……。
若者とは、やはり二十代の人間に使う言葉だろう。
そう、たとえば、目の前にいる男たちのようなことを言う――
(大学生くらいか? 後ろの学生よりは大人びているように見えるから……、彼らが大学生なら後ろのラブコメは高校生くらいなのかもしれないな……。それにしても、前の二人の会話も……気になるな。もしかしたら、私たちと同じ、か――?)
私たちはテーマパークには似合わないスーツ姿だが、目の前の若者二人は私服だった……怪しまれないためには私服でくるべきだったが、急ぎだったのだから仕方がない……。
となると、目の前の二人は、会話は不穏だが、それでも連絡にはない増援、ではないということになるな……。聞こえてくるのはゲームの話、であってほしいが……、彼らも彼らで、私たちとは違う『なにか』に巻き込まれているのだろうか……?
「ほんとにここに紛れているのかよ……≪ピークエンド≫は……。こんな人混みに紛れ込まれたら分からねえぞ……。しかも、薄暗いしよお……」
「だけど、奴も見られていることは分かっているはずだろ……、だから『紛れた』はずなんだ。見られていることを分かっているなら、反応するはず……。奴がこっちに気付けば、他人とは違う『ピークエンドにしかできない』反応をするはずなんだ……、だからさ、ちょいと騒ぎを起こすこと――できるか?」
「人前で『能力』を見せるのか? ……いいのかよ」
「屋内で薄暗いんだ、問題ないだろ。もし、異変を感じ取られてもアトラクションの演出だって言い張ればいい……、気になっても詰め寄ってくる客もいないだろ」
「どーだかな……」
「無理なら、このまま奴を逃がすか?」
「……分かったよ、やってみる」
…続
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