創作小話ー光の子と悪魔の子

@Artficial380

光の子と悪魔の子

 ある三姉妹の一人に、光から生まれた女の子が居ました。

 とはいえ、はじめは真っ白なモヤが漂っているだけのなにかだったものが、何百年と経つにつれて人の形に固まってきて生まれたもの。

 その中に人格形成がされるはずもなく、三姉妹のもう一人が目を覚ますまで下界を力の限り荒らし回っていた。


「あ〜らら 盛大に暴れてくれちゃって……」

 それからまた数百年。すべての旧管理者を下して、一番目の座についたBRは最南端に位置する炎の崖から下界の草原を見下ろしていた。生物が安全に過ごせない地獄のような土埃と所々むき出しになった地面の上から、光は既にこちらに矢を向けていた。


 燃え盛る崖の頂点から見下すあの”闇”はなんだ?


 大鎌を担ぐその目は、戦意で爛々と光を照り返させていた。ふわっと一歩前へ飛んだと見えたその瞬間。

 向けた矢の鼻先でその首を見据える闇が居た。

 斬る、躱す、射抜く。胸の穴はどろりと塞がる。

 その現象に光は一瞬弓を降ろしそうになったが、また弓を引く。

 射抜く、射抜く、射抜く……射抜いても、踏み潰しても、殴っても、目の前に変わらず立っている。

「〜〜〜〜っ!!」

 何もなかった光の中に、怒りという感情が湧き上がった。歯を食いしばりこらえながら構えた……が既に闇は消えていた。

 後ろから首と左手に手が添えられ、瞬きしたあとには弓を落とされ、足が地面からサヨナラしていた。

「やぁ〜っと捕まえた……僕の魂の片割れちゃん」

 ぶはぁ〜とくたびれつつも、大人しくなるまで関節を決め続けた。ジュウゥゥゥゥゥゥ……焼ける音だけが響く。握った掌から焦げる匂いが少しずつ強くなってくる。

「焦げてるの俺の手!?」

 そう、触れた場所から焦げてゆく光の体は、闇の泥で構成されたBRにとっては厄介すぎる天敵である。光が暴れるのを辞める頃には、手がドロドロに溶け続けるのをごまかすために補填した分、短髪になってスッキリしていた。

「あちちちち……薔薇も焦げるところだった頭突しなくてよかった」

 少し散ってしまった頭の青薔薇を整えながら、そっと草原に離した。

「……」

 こちらを睨みながら唸りそうな顔をしている。

「言語すら抜け落ちてるのか しょうがないなぁもう」

 BRはその場で冠と首飾りを創った。太陽のような真っ赤な石をはめ込んだ黄金の飾り。

「ここに仮初の人格を与える」

 受け取った光の瞳に命が芽生えた。まるで地球に大気の守りが出来たように、草原の植物たちはみるみるうちに生え揃い、海のようにたゆたう緑の波を打ち始めた。

「お前は私と一緒に来るんだ もう理由を探さなくていい」

 Skyと名付けられたその少女は闇と共にしばらく空を駆けた。初めての笑顔と、「うれしい」という言葉を沢山溢しながら、世界に安寧の光をもたらした。


 またそこから幾つ経っただろうか、それは彼女たちには些細な問題だ。

 ある夜の国の寂れた教会に逃げ込んできたコウモリの翼をもった男の子が、数人の大人に追い込まれていた。バールやパイプを振りかざすその姿は傍から見れば化け物が小さな生き物を食い殺そうとしているかのようだった。無防備な子は涙を枯らしながら十字架の下で助けを願った。誰も来るはずがないと誰も味方なんて居るはずがないと、どこかで諦めながらも必死に尊きそれに縋った。

「穢れたその体で御神体に触るんじゃねぇ!!」

 振り上げられたそれが恐ろしく大きく見えて、子は目をつむった。

 音が響く。

 が、今まで感じた痛みはない。

 恐る恐る目を開けると、大人はみんな腰を抜かして入り口を見ている。その入り口には弓を携えた誰かが立っていた。逆光で真っ黒なそれはゆっくりと教会に入ってくる。大人たちは口々に

「逃げろ!」「死にたくない!」

 と一目散に光の中へ消えていった。

 子はボロボロの翼を体に包んで、それでも震えていた。光はそっと座り込んで子を見つめた。子にはそれでも顔が見えなかった。かわいた涙と、逆光が眩しいすぎて、目を開けるのが辛かった。

「こんな小さい子を寄って集って 可哀想に」

 縮こまる子の顔にそっと触れようとしたたが、ジュッという音でとっさに引っ込めてしまった。ジクジクとした火傷が少しずつ神経に触れていく。

「ぃっ……」

 子は唇を血が滲むほど噛んで堪えた。先程まで理不尽に漬けられていた彼にはもう本能的な反応することさえ出来なくなっていた。

「ごめんなさい つい可愛くて……ねぇ 私の子にならない?」

 しゃがんだ光はそう問いかけ、子はきょとんとしてしまった。いや、するしか無かった。味方が居ないと思っていた愛されていたことのない宙ぶらりんのその子は今、降りてきてもいいよ、と手を差し伸べられたのだ。

「もしよかったら……うーん、さわれないし……この弓に手を置いて欲しい な」

 と、ゆっくり大きな黄金の弓を差し出した。

 子はゆっくりと震えながら手を伸ばした。手前で引っ込めたが、我慢強く待っていると、そっと弓に触れた。

「決まり! 貴方は私の子!」

 とはいえ、もう歩けないほど疲労困憊の子を抱えることも出来ないので……大人しくBRを呼び、三人仲良く帰りましたとさ。


「……そのときの怪我がそのタトゥー?」

「そっ 火傷が深くてさ 中々消えなくて」

 Erは頬の赤い模様を撫でながら、拾われた場所であるこの教会の十字架を背に、長椅子に座るNmに話していた。

「無事成長はしたし粗方傷も癒えたんだけどね 母さんがずっと気にしてて 傷見るとすぐ泣きそうになるんだよ」

「だからそれと一緒にメッシュも入れたの?」

「いいでしょ〜 おしゃれだし違和感ないでしょ?」

「まぁそれでいいなら いいんじゃない」

「冷た〜い まぁいつもどおりだけどさ〜」

 今日も空は明ける。栄光の七番目が空を翔ける限り、教会に悪魔が住み着いている限り。

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