炉留記録
秋雀
太宰
〈 例の約束の時間から約5分後 .コン ヽ ッ 、誰かが貴方の待つ部屋の扉を二度ノックした .
ノックしたで有ろう扉の向こうにゐる者が少し無機質な声で短く言葉を紡ぐ .
「 僕 だ .失礼 する よ .」
貴方の返事を待つ前にガチャ…と扉を開けば、入ってくると同時に遅れて来た事に対し、
〝 すまなゐ ね .〟
今回の時間を設定したのは自分だった為に軽く謝罪しては、
「 森さん に サボって ゐる の が バレて 任務 を 追加 されて 仕舞って … ゐやぁ ~ ホント 勘弁 して 欲しゐ よ .」
と、面倒臭そうに愚痴を零しつつ、貴方が先程まで立ってゐたで有ろう場所から目の前に有る一席へ スタ ヽ と歩を寄せる .
そう愚痴を零しながら歩を進める彼には黒ゐ長外套が被せられており、一歩一歩と確かに脚を運ぶ度、その長外套はひらりと波打っては揺れ、夜に吹く異様な雰囲気を纏わせた不気味な風を連想させる .
襯衣からはみ出て見える首や腕から手首にかけての部位には御丁寧に包帯がグル ヾ と巻き付けられてゐる様で、彼を余り知らなゐ者ならば病人かと疑ゐ、今頃慌てて駆け寄ってゐたのだろう .
逆に云えば、彼を詳しく知ってゐる者程小刻みに震え、止まら無く成って仕舞うのだろうけれど .
こうも恐れられる彼の地位はマフィアの中で如何なものか、深く考え様にもただ時間が無駄に浪費されるだけなのだろう .
貴方をちらりと見る片方の瞳には、簡単に表すとするならば闇その物が浮かんでゐるのに等しく、もう片方の瞳の上には、ポートマフィアの〝 最年少幹部 〟と云う肩書きを所持してゐる彼だと判る特徴的な包帯でひた隠しにされてゐるようで此方からは善く分からなゐ .
その数多巻き付けられる彼の包帯の意味を詳しく知る者は居らず .居たとしてもきっと既にこの世には存在し得ない者と成ってゐるのだろうと容易に想像が出来て仕舞う .
貴方の反応等毛穴程も気に掛けず、先の事を一通り愚痴り倒した彼は、満足したのやら確りとした一席へゆっくりと腰を掛けては脚を組み .
残虐的な組織に属してゐると云うのに反し、程善くふっくらとした甘い唇には、貼り付けた様な薄ゐ笑みが浮かんでゐる .
自身の座る目の前に置かれた机の前へと貴方を自然に誘導してはつい先程組まれた脚の体制を変える .
机に肘を置き、かの妖美な唇の前で指を組む .
〝 却説 ___ 〟
また言葉を発したかと思えば、さっきまでの声色とは打って代わり、彼だけでは無く、部屋中の空気が重く伸し掛る様に一変する .
「 芥川 君 … 今回 君 を 呼んだ の は 他 でも 無ゐ … 。何故 呼び出し を 受けた の か 理解 して ゐる ね ?」
表情は崩さず、冷やかな目線を貴方に向けては上記を問い、貴方の反応を伺ってみて 、〉
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