アクション

白銀隼斗

南美(White Why) 無双版

 大和仕様の拳銃が二丁。警察仕様のショットガンが一丁。ボタンを外したジャケットのあいだからはホルスターのベルトが見え、黒い銃身が鈍く光った。

 湿気った紙巻タバコを口に咥えたままショットガンを手に歩き出した。その瞬間横から飛び出してくる。然し無駄なく銃口を向けると引き金を引いた。

 散弾が飛び出し吹き飛んでいく。がちゃんっと無機質な音が響き渡った。

 今度は二人飛び出してきた。一人は腹部に撃ち込んだが、もう一人はナイフを取り出し近接戦に切り替えた。素早い振りにさがりながら身を躱す。無駄のない連撃だ。

 だが避けたまま背中側に移動出来る程度の隙はあった。あっと相手が振り向いた時には遅く、がちゃんっと鳴ったショットガンの銃口が向けられていた。

 残り二発。替えは一回分しか持ってきていない。南美は神経を尖らせながら慎重に進んだ。

 刹那、背後から気配を感じた。瞬時に振り向いて銃口を向けようとしたが、自分より大きな相手がナイフを振りかぶっていた。

 銃身から一瞬手を離し、トリガーに指が当たらないように横に持ち替えた。どんっと相手の腕が当たる。顔のギリギリに切っ先があった。

 かなりの力で歯を食いしばると灰が落ちた。「ちっ」と舌打ちをかまし、軽く唸り声をあげながら銃身で殴るようにして横に振った。

 相手の腕が持っていかれる。南美はすぐに持ち替え銃口を向けた。そこからトリガーを引くまでのあいだはない。容赦なく散弾が飛び散った。

「残り一発」

 ショットガンは装填に時間がかかる。タバコの煙を吸い込みながら更に奥へと踏み込んだ。

 階段の横を通り抜けようとする。外からの光が入り込んでいた。だが天井の端を掴んで身軽そうな女が蹴りを放ってきた。膝を折って回避する、丁度頭のあった辺りをブーツがかすった。

 そのままの勢いで手を離して回転し、見事に着地した。上はタンクトップで右腕のタトゥーが目立つ。短い髪に二本の角、体格的にもヱマと似ていた。

「……なんか、嫌やな」

 構える相手に南美はショットガンを手放した。タバコを掴んで白い息を吐く。その様子に女の方から仕掛けた。

 綺麗な回し蹴りだ。上体を逸らして回避した。と同時にタバコを手放し、蹴りを放ち終わった左脚に手を伸ばした。

 女が眼を丸くする。南美は相手の脚を掴むと頭をさげながら足を踏み出しつつ背中を向けた。そのあいだに右手は足首の辺りを、左手は膝の辺りを掴む。気づいた時にはふくらはぎが南美の肩に触れていた。

 一瞬だった。左手で服を引きながら柔道の動きを応用する。女の身体はぐわんっと投げられ、ガラス片などが飛び散る地面に顔面から叩きつけられた。

 力加減をミスったのか少し跳ねてからうつ伏せに倒れた。南美は左足を掴んだまま懐に手を伸ばす。

「残念でしたね」

 相手も呻きながら近くに転がっている拳銃を取った。然し上半身を捻った時には大きな口径が向いていた。サプレッサーのついていない銃声が鳴り響く。大和仕様の大型拳銃なので反動は凄まじい、オーバーに腕全体を動かして衝撃を逃がした。

「私の相棒の方が百倍強いんですよ」

 拳銃をホルスターにしまいなおしショットガンを拾った。そして階段の方に顔を覗かせて上を見た。そのまま銃口を向けて発砲する。すると一つ遅れてごんっと鈍い音が鳴り、上から力の抜けた身体が落ちてきた。

「……アホやな。バレバレやのに」

 軽く溜息を吐いて上に続く階段を登りながら弾を装填する。計五発分、慣れた手つきで詰め込むとがちゃんっと一際大きく響かせた。

 階段には複数人待機していたが、全員ナイフも拳も弾さえも当てられずに負けてしまった。丁度五人だったのでショットガンの役目も終わった。南美はその場に投げ捨て、両腕を交差させて二丁共引き抜いた。

 重たく黒い銃身は手が比較的大きな南美でもギリギリな程だ。それを両手に歩を進める。

 目標がいると言われている扉の前まで来た。数歩下がる。軽く助走をつけてタックルをかますと寂れた蝶番が外れた。

 扉が倒れきる前に足を踏み出して銃口を向けた。ぱたんっと埃が舞い上がった。

 ざっとサブマシンガンや日本刀を持った連中が待ち構えていた。南美は表情を変えず、倒れた扉の上を歩いた。革靴の硬い音が響く。

「いなさそうやな」

 面倒くさそうに呟いた瞬間、まずは正面にいる男に発砲。左腕を反動に合わせて動かしながら身体の向きも変え、右の拳銃でも狙いを定める。そうして反動が収まった瞬間に瞬きをしてすっと視線をやり、重たいトリガーを軽そうに引いた。

 大きな衝撃を逆に利用した二丁による連撃は無駄がなく、また南美の冷静な判断と刑事時代の義神経によって厄介な遠距離から始末されていった。最初の発砲による爆発したかのような音と、被弾した男の顔面が頭蓋骨ごと粉砕した衝撃により、周りは一瞬にしてパニック状態に陥った。

 対して彼は倒れた扉の上で身体の向きを変えるだけだ。ふわりとジャケットの裾が舞い上がり、簪の飾りが揺れる。鋭い目付きには誰がどれだけ興奮状態かが表示されており、それに従って腕を動かした。

 そうして最後の一人になる。右腕は最小限の動きで衝撃を吸収、左の銃口を向けて睨みつけた。

 鼓膜が破れる程の発砲音と火薬の刺激臭に相手は怯え、そのまま壁に当たるとずるずると崩れていった。

「……お前らのボスは」

 かちっとハンマーをおろす。相手はぎこちなく何度もかぶりを振った。

「知らない。本当だ。助けてくれ」

 震えた声と頬を伝う涙に南美は溜息を吐いた。視線を逸らしながら指に力を入れる。

「ちっ、手間かけさせやがって……」

 乾いた銃声と共に弾けた脳みそが壁にぶちまけられる。ややあって身体が横にズレて伸びると、コンクリート製の壁に突き抜けた銃弾がめり込んでいた。

「ヱマさん。こっちにはおりません」

 拳銃を片方ホルスターにしまい、デバイスを耳に当てながら相棒に伝えた。

「ええ。はい。分かりました。弾補充したら行きます」

 通話を切り、裏ポケットにしまう。また溜息を吐く。すると通り過ぎる時に一人死にぞこなった奴が手を伸ばしてきた。

 南美は苛立った様子で一切眼もくれずにトリガーを引いた。まるで煩い蚊を叩き潰すかのような自然な流れで、ややあってずるずると音をたてて最後の生き残りは死んだ。

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