第2部 ヘイブン村編
第5話 始まり
アルカナス王国の外れ、魔族領デモミニアに最も近いとされる村、ヘイブン村。
とは言えデモミニアまでは10km以上も離れている。
ヘイブン村はその立地からあまり人は多くなく、100人にも満たない。
これと言った特産物もなく、ただ魔族が攻めてくるとしたら最初に狙われるであろう村。
だからこそ、国からの税は最低限までに免除されている。
一見、そんな村簡単に潰れてしまいそうだが…
この背景もあってか、年に数人程度、生活に困窮した都市部の人間が移住してくるので人口は横ばいである。
正直、村人たちも決して裕福ではない、それどころか貧困である。
それでも、そこに住む人々は自らの暮らしに満足し、幸せであった。
そしてこのネムと言う少女もその1人であった。
「パパ!ママ!お野菜、持ってきたよ!!」
貧相な服に反してキラキラと輝く目、肩より少し長いくらいの髪をお下げにしており健康的に少し焼けた肌、まだ幼いその顔も相まって活発な少女というイメージだ。
そして、そのイメージ通りに年齢は10歳と、まだまだ幼い。
そんな彼女の名はネム。
父と母、そして母方の祖父母と共に暮らす彼女は人口の少ないヘイブン村のアイドル的な存在であった。
「あら、随分立派な物を持ってきたわね〜」
「うん!シルドさんがくれたんだ!!」
「ちゃんとお礼は言ったの?」
「うん!ありがとって、ちゃんと言ったよ!!」
「おぉ!ネム、偉いぞ〜」
わしゃわしゃと娘の頭を撫でる。
「えへへ〜、パパはこれからお仕事?」
「あぁ、パパは今から狩りに行ってくるぞ〜ネムは何か食べたいお肉あるか?」
「えっとね〜うーん…パパが捕ってきたやつはみんな好き!!」
「嬉しいことを言ってくれるなぁ〜!!」
一層激しく頭の上に置かれた手を動かす。
「もう〜痛いよ〜」
「すまんすまん…じゃ、行ってくるよ」
「「行ってらっしゃい!!」」
そうしてネムの父、キースは家を後にした。
────
「…陛下から…離れるのは…寂しい…」
そんな独り言を呟くのは、眠たげな目をした真っ白な髪を持つ少女、ステラである。
つい先日、先ずは情報収集をすると言う目標が設定され、即座に各六将が動き始めた。
とは言え異形の多い六将では人間に対する諜報活動では些か問題が生じる。
そこで、人間と近しい者が駆り出される事になったのだが、そこに該当するのはテンペスタ、キリアルヒア、ステラの3名であった。
そして、色々な事を踏まえ、ステラが情報を収集すると言うことになったのだ。
今回ステラが行くこととなったのはヴァルハラ城北部にある森の先─。
前回、交戦することとなった人間の死体の処理とそのもの達がどこから来たかの調査を任された。
では何故ステラが現状最も重要であろうこの任務を任されたのか。
それは他の2人の気性を考えれば妥当な人選だろうとわかる。
テンペスタは六将のまとめ役でありながらかなりの短気であり、現地の住人とあらぬ争いを生む可能性が高い。
キリアルヒアはその見た目から分かる様にプライドが高く、こちらもあらぬ争いを生む可能性が高いのだ。
残るステラの性格は無関心。
勿論、敬愛する主人、アムラに関する事以外は…だが。
因みにこれらはアムラがそういうキャラ設定にしている為であり、
アムラ自身こうなると知っていたらと、ちょっと後悔していた。
まぁ、ともあれ、そう言う訳でステラが情報収集に赴くことになったのだ。
「あっ…あった…」
彼女の目の前には片腕を失い、全身傷だらけの死体がある。
周りには蠅が集っており、身体の一部には動物に喰われたであろう後もある。
「…臭い…早く処理しよ…『ロスト』」
『ロスト』それは、指定した物質を失わせる、ステラの固有スキル。
ゲーム内では地形とか、一定レベルまでのNPCを消す事ができる能力だった。
デメリットとして、アイテムドロップはされない点と、プレイヤーと高位のNPCには効果を発揮しないという点があった。
目の前の死体がどういう扱いかはわからないがその効果が発揮され、その死体は跡形もなく消失していった。
「…あと…1つ」
そう言って彼女は
───
「かなり、深くまできてしまったな…」
「はい…今日は帰れそうにないかもしれません。」
キースは迷っていた、正しくはキース達は迷っていた。
このヘイブン村では狩りに行く際、必ず2人以上で行くこととなっている。
それも、1人以上は指定された魔法を習得している必要がある。
これを満たさないと、村の外にある狩猟エリアへ立ち入る際に監視によって追い返されてしまうのだ。
だから、キースもいつものメンバー、─ベンと共に狩猟エリアへと立ち入った。
狩猟エリアは特別範囲は決まっていないが、人間の居住区からある程度離れていることが条件だ。
これによって何かしらのアクシデントで、村人に危害が及ばないようになっている。
キース達はいつも狩猟エリアでも、そこまで深くない場所で狩りを行っていた。
しかし、今日はどうにも獲物が少なく渋々奥の方までやってきた。
この辺りは魔族領に隣接する大森林に程近く、下手をしたら魔族とエンカウントしてしまう危険もある場所だ。
だがその分、狩りに来る者は少ないので、獲物は充分にある。
それでも、キース達にとって理由もなく行きたい場所ではあるが…
ともあれ今日、キース達はそこで狩りを行い、獲物をたんまり獲った。
…が、行くのにもそこそこ時間がかかる上、狩りに出たのも少し遅かった為、もう日が落ちかかっていた。
帰りは方向が分かるので問題ないのだが、この付近は人も明かりもない為、この時間に動くのはあまりよろしくない。
一方でこの付近は魔族領に隣接している訳で危険であるのも事実。
故に2人は迷っている、魔法で明かりはなんとかなる。
しかし魔力には限りがあり、長時間の使用は難しい。
こう迷っている時間も日は落ちていく。
「よし、ベン。取り敢えず日が落ちる前に戻れるだけ戻るぞ!」
「わかりました。『ストレンクスパワー』!」
普段の1.5倍程に強化された2人は獲物を離さぬ様に持ちながら、全力で走る。
2,3分程経っただろうか。
魔法の効果が切れ、身体にどっと負担がかかる。
「はぁはぁ、まだまだ、森の中だな…」
「はぁはぁ、ですね…でも、もう体力が…」
「仕方ない、ここらで一旦休憩するか。」
2人は獲物を地面に置き、腰を下ろす。
「さて、夕飯はどうする?」
「緊急用の保存食があります。今日はそれでいきましょう。」
「わかった、あとは明かりと寝床か…」
「明かりは魔族に位置をバレるかもなのでやめときましょう。寝床は…そうですね、交代で見張りをしながら、そこで寝ましょう。」
「了解した。明かりは…魔力の消費が激しくなるがナイトビジョンを代用するしかないな。」
「そうですね…ただ、ちょっとさっきのストレンクスパワーで消耗しちゃったので、少し回復させて下さい。」
「あぁ、構わないとも。」
魔力の使用できる量には個人差があり、魔力を消耗すると再び使えるようになるまで時間を要する。
その時間もまた、同じ魔力の回復を待つとしても人によって違う。
ベンの場合はそれが比較的に早い方で、今回の場合は小1時間程度で回復する。
ちなみに平均で考えると今回の場合は1時間半位である。
「では、回復を待つ間に夕食を食べてしまいましょう。」
「そうだな。」
そういうと、ベンは自身の持っている鞄からパンをいくつか取り出す。
それはカサカサに乾燥しており、お世辞にも美味しそうではない。
保存食という名前だが実態としてはただの干したパンであり、現代的な表現をするとフランスパンのような物だろうか。
ただ、味も見た目もあまり良くないという違いがあるが。
「「いただきます。」」
静寂に包まれた森の中にバリッという音が響く。
その味は、なんというべきか、辛うじてパンと認識できるものである。
実際、2人もこのような状況でなければ、あまり食べたくない味だと感じていた。
ただ、安価な上、お腹もかなり満たせるので味まで求めるのは強欲だとも捉えられる。
「「ごちそうさまでした。」」
食事を終えた2人はベンの魔力が回復を待ちつつ周囲の警戒を強めていた。
そして、その様子を何者かが伺っているのであった。
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