お嬢様、俺のお嫁さんになるって本気ですか?え。しかも一緒に冒険者になりたい……正気かあんた?

結城ナツメ

お嬢様から衝撃のプロポーズを受けた日①

 今日は非常にめでたき日だ。


 俺が執事として働いているフォンバーグ家の長女、セーニャ様が学院を無事にご卒業されたからだ。


 彼女は母親譲りの美しい金髪に碧の瞳。そして典型的なお嬢様口調が特徴的で、周りから一目置かれるほどに整った綺麗な顔立ちをしている。

 小さい頃から見てきた俺でも、思わず見惚れるくらいに。


「おめでとうセーニャ。五年間、本当にお疲れ様」

「名門校であるフィアリス学院を歴代最年少で、しかも首席で卒業するとは父として鼻が高いよ」

「お母様、お父様。ありがとうございます。私、これからも精進致しますわ!」


 式を終え、帰宅したセーニャ様を祝いの言葉と共に出迎える旦那様と奥様。

 セーニャ様は自身の美しい金髪の渦巻き状のツインテールを揺らし、頭を下げる。


 ……いつ見てもヘンテコな頭だなー、と思う。もちろん口には出さんけど。

 と、いかんいかん。セーニャ様の荷物を持たねば。


「セーニャ様。お荷物をお持ちします」

「ッ!? え、ええ。ありがとうございます、セシル。先に部屋に運んでおいてください」

「かしこまりました」


 セーニャ様は真っ白で綺麗な頬を赤く染めて、顔を逸らしながら押し付けるように荷物を渡して来る。

 お嬢様にしてはやや粗暴だが、俺に対してだけいつもこうなので特に気にしていない。


 ―――彼女はどうやら俺を嫌っている……とまでは行かないかもしれないが、苦手としている節がある。


 俺と話す時はいつも目を逸らすし、突然怒りだしたりする。確か10歳の頃、学院に通い始めて一ヶ月経った時くらいからだ。

 小さい時からお世話をしている身としてはそれが悲しくもあり、思春期という一種の成長過程を見ているようで嬉しい気持ちもあって……なんだか少し複雑だ。


 セーニャ様は家に帰ると、すぐお風呂に入られる。なのでいつも通り彼女の部屋へ荷物を運ぼうと背を向けると……


「セ、セシル!卒業したら、貴方に伝えようと思っていたことがありますの」

「はい?なんでございましょうか?」

「その……二人きりの時にお話したいので、後で時間を頂けないかしら?」

「? かしこまりました」


 なんの話かはわからないが、セーニャ様からそのように仰せつかっては首を縦に振るしかない。それが従者である。


「で、では。お夕飯の後、私の部屋へ来てくださいまし。その時にお伝え致します。……し、失礼致しますわ!」


 顔を真っ赤にして早歩きで去っていくセーニャお嬢様。

 一応伯爵家の人間なんだから、いくら苦手な相手の前から早く去りたいからってそんな露骨な態度を示さんでも…。


「あらあら。あの子ったら…。どうしますアナタ?セーニャは貴方の言いつけをしっかり守り通しましたよ。例の件、呑んであげるべきでは?」

「そうだな…。可愛い子にはなんとやら、と言うからな」


「なんの話でございますか?旦那様、奥様」

「セシルはまだ気にしなくていいことよ。それより私からもお願いがあるのだけれど、いいかしら?」

「はい。なんでございましょうか」


 奥様は俺の目を真っ直ぐに見つめて来て、改まった感じで言う。


「あの子がこれから貴方に言うこと……しっかりと受け止めて、真剣に考えて欲しいの。どれだけ悩んでも構わないわ。なんなら一年くらいは時間をあげる」

「私はお嬢様から一体どんな無理難題を突き付けられるのですか?」


 思わず寒気がして身震いする。


 今でこそセーニャ様は落ち着いた綺麗な女性だが、昔はかなりのお転婆で我儘お嬢様だった。心根ではそれは変わっていないだろう。

 あの頃のセーニャ様は『オークキングのお肉を取ってきて欲しい』だの『ドラゴンの角を取ってきて欲しい』だの、面倒臭いお願いばかりしてきた。


 今度はどんな我儘を言うことやら……ただ学院に入学して以来そういったことは皆無だったからな。


 久しぶりの無茶振りということでユニコーンをテイムして来いだなんて言うかもしれない。

 さすがにそれは無理だ。俺は男だし。


「大丈夫よ。あの子はもう昔みたいな我儘を言ったりしないわ。ねぇ、アナタ」

「ああ。セーニャはもう15歳の立派なレディだ。そうそう無茶なお願いはして来ないだろうさ」


「前科があまりにもデカすぎて、いくらお二人のお言葉でも信用ならないのですがそれは…」


 玄関に飾られているを見ながら、思わず苦笑する。

 頼むから常識の範囲内のお願いであってくれ〜…。

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