破滅の悪魔の成れの果て

@homme

第1話

今から数年前のある日のこと。第二次世界大戦以来で初めてとなる戦争が、日本で勃発ぼっぱつした。

それは、ある島をめぐって起こった戦いであり、今でも現在進行形で戦いは続いている。もちろん立ち入ることも難しいだろう。

その島というのが今、私が立っているこの場所だ。


「ここが広大新都こうだいしんと…」

鮮やかな水色の海を越えた先に見えた、大きな島を見て、私はそう口ずさむ。

白い船から降りると、私はまず、とある建物を目指した。

路地裏をまがった先、目の前に現れたのは大きな学校だった。

「私は今日からここに通うんだ」

別になんともないさ。いくら危険な島だからといって必ずしも危険な状況に遭遇する、なんてことは無いだろう。そう自分に言い聞かせながら、私は無駄に大きな校門をまたいだ。


――広大新都。又の名を「48番目の都市」と人は呼ぶ。

瀬戸内海のど真ん中、突然現れた北海道よりは小さいが、それくらいの大きさであるこの島は、なんの被害も出さずに四国と九州を、本州から引き離した。

その原理は50年たった今でもまだ解明されてなくて、なぜ新しく島が出現したのかは謎に包まれている。

地球の表面積が広がったのではないかとウワサされており、結局のところ分からない。

靴箱はボロボロで、どれだけ多くの学生達が焦っていたのかを物語っているようだ。

総生徒数16人。泊まり込みの寮生活りょうせいかつ

悪くはないが良くもないとも言える。

設備は最悪で、かつては東京よりも栄えていた都市の面影おもかげはなく、周りの建物も廃墟はいきょと化していた。

階段を上がってそこの突き当たりを右に行くと私がこれからお世話になる教室がある。

無駄むだに入り組んでいるこの学校はこの都市唯一の学校で、ほかの学校は、ここよりもっと悪いらしく、今では使われていない。

「おっきたきた!」

背丈の高いスーツを着た男性が、教室の前でたっていた。

「君が寿有栖ことぶきありすちゃんだね?初めまして。僕は君のクラスの担任の本庄誠ほんじょうまことだ。よろしくな」

にこやかに笑うその男性は、どうやら私の担任の先生だったらしい。

そうは見えないほど、なんていうか、はっちゃけてる人だ。

「は、はい。寿有栖です。これから3年間よろしくお願いします」

私は(多分)丁寧にお辞儀をすると本庄先生は「そうかしこまらなくてもいいよ」と言ってくれた。

良本君よしもとくんから君のことは聞いてるよ。悪いね、高校受験に合格したばかりなのに」

頭を下げながらそう言った。

私は高一の春。多分5月の初めの方だったと思う。

その良本よしもとと名乗る人からこの学校にスカウトされた。


「寿さんには才能がある!どうだい?広大新都に行ってみないかい?」

「そ、そんなに急に言われても…」

私はそう答えるしか無かった。

この熱意が籠った《こもった》スカウトも悪くは無い気持ちだし、褒められてなんだかいい感じだ。

だが〝あの〟広大新都と言うならば話は別になってくる。

謎の組織と、人間では無いが人間の形をした未知の存在の侵略。

魔法を使うイカれた集団が徘徊する街など行きたくもなかった。

だが、良本さんはどうやら日本政府の高官だったらしく、権限を使ってまでも、私をあの島に行かせようとしている。

「そこまでいうなら…」と言うしかない。

クラスに馴染めず、まだ友達も作れていないあの退屈たいくつな教室より少しはファンタジー感が溢れるあの島なら、私はいいかなと思えた。

「じゃあ決まりだ!」


そう言って良本さんは私を送り出した。

「じゃあ転校生の紹介をするよ!入ってきて、有栖ちゃん」

突然聞こえてきたゴーサインに私は驚いた。

(どーしよう!まだ何も考えられてないのに!!)

困惑に緊張。色んな感情が交差する中で私は扉を開けた。

「わ、私の名前は寿有栖って言います。これから、よろしくお願いしゅ!あっ…」

緊張のあまり噛んでしまったと恥ずかしがってるとみんなは暖かい拍手をしてくれた。

「ようこそ!」だったり「よろしくね!」とかそんな受け入れてくれるような言葉をかけてくれた。

その拍手の中、1つ別の音が混じった。

「あっ!あなたは…!」

立ち上がったその子は私の前に駆け寄った。

「有栖ちゃん、私だよ!宮運夏紀ぐううんなつき!幼稚園が一緒だった!」

宮運…夏…紀?

いい思い出から嫌な思い出まで記憶の半分を占めている私の忘れない記憶。

その子は私をもう一度楽しくさせてくれる。

「なっちゃんなの!?久しぶり!」

なっちゃん。幼稚園の頃、沢山遊んだ唯一の女友達。

根暗な私をいつも明るい方に導いてくれる太陽が、再び私の目の前に現れてくれた。

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