第25話 翼の感覚

「いいじゃない!」


 先ほど、ミシェウは自分の口で言った──翼を生やして、空を飛びたいと。


 その大きく、時が動いた気がした。

 倒れこんだ時は、びっくりしちゃったくらいだけど。あとで、医者の所に行った方がいいわね。


 空を飛ぶ。以前の世界では、ミシェウに羽が生えたのは最終決戦の直前。


 それまで、ミシェウは力を占星術を生かし切れない戦いが続いていた。

 ようやく羽が生えるようになっても、うまく翼を操る時間も与えられず、不慣れなまま強い敵との連戦。

 結果、無駄に体力を浪費する原因となった。


 そんな高難易度の術式を今ここで。うまくいけば大きく未来を変えられるかもしれない。

「いいんじゃないですか?」


「いいんじゃない? 面白そうね。でもいばらの道よ、教えられることは教えるけど──。できるかどうかはあなたの素質と、努力次第よ」


「何をやるにしたって、試練はある。それなら、やり遂げたらすごいって思えることをしたい」


 強い意志を感じる目。ミシェウはじっとアルルを見て答えた。相当気持ちが入っているのがわかる。アルルはそんなミシェウをじっと見る。真剣な表情、そしてコクリとうなづいていった。


「そこまで本気なら、私も止めないわ──協力するからついてきなさい」


「ありがと!」


 ミシェウはグッと、親指を立てる。









 外に出て、広い庭に出た。周囲に建物がないから、思いっきり空を飛べる。最高の場所ね。

 アルルは、ふっと優しい笑みを浮かべて言う。


「精神の集中、決して目の前の現実から目をそらさない。最後まで気を張り巡らせる。いいわね」


「わかったわ」


「頑張って、私応援してるから──」


「ありがと、力になれるよう私頑張る」


 勇気を出して、一歩一歩踏み出す。大丈夫。もう一人じゃない。シャマシュと、アルルがいる。

 2人の気持ちに絶対に答えなきゃ。



 大きく深呼吸をする。まずは心を落ち着けさせて、精神を集中させた。まずはこれだ、この術式は、とても高い精神力を要求される。雑念を捨てなければ、翼は具現化できないし空をで翼を広げて飛ぶなんて不可能だ。


 やっと、空を飛べるようになる。シャマシュのおかげ。本当にありがとう──。

 絶対に、その思いに応えてみる。



 上着を脱いで下着姿に──2人しかいないとはいえ恥ずかしい、けど服のまま翼を生やしたら破けて使い物にならなくなっちゃうから仕方がない。多分、顔真っ赤。

 恥ずかしさを我慢して、胸を押さえていた手を大きく広げる。



「私に──大空にはばたく力を。シューティングスター・アストロラーベ」


 目をつぶり、胸の奥にある秘めたる地肩を意識して唱えた瞬間、体が一瞬真っ白に光って大きな暖かさに包まれた。

 そのまま目を閉じて背中に意識を集中──心臓のあたりにある自分の、心の中にある自分の小さな炎を少しずつ、大きくしていく感じ。


 あった、心臓の奥辺りにある、風が吹けば吹き飛んでしまうような火。それを風船を膨らませていくように大きく。

 大きく──大きく。


「その調子よ。今度はそれを、翼にしていくイメージ」


「ありがとう」


 両手くらいの大きさになったイメージの中の炎。それをゆっくりと翼に変えていく。真っ白で、ふわりとした柔らかくて私を包み込むような翼。


 バサッ──。

 背中に、何かがくっついた感覚。これかな? ゆっくりと目を開けて、背中の姿に目を置く。


 振り返ってみると、私が求めていたものがそこにあった。


 純白で、触ってみるとふわふわとしていて──そしてやわらかい。私の身長くらいの大きさの羽。やったぁ。



 嬉しくって、思わずぴょんぴょん跳ね上がる。

 アルルとシャマシュも、とても喜んでいた。


「すごいじゃない、まずは第一段階成功ね」


「素晴らしいです。とっても美しくて、素敵です」


「ありがとう」


 3人で、興味津々に翼に触れる。触れ触れ! これを掛布団にして、3人で寝てみたい~~っ!


 これだけでも、十分に嬉しい。でも──私がやりたいことはこの先にある。うかうかなんてしていられない。


 羽が出来てやることっていえば──そりゃもう1つしかないじゃない!


「飛んでみたい。ここなら建物のないし、いいでしょ?」


「そうね。私がいないとこで実験して、怪我でもされたら困るしね」



 ということで、この場で空を飛んでみることになった。翼は──背中あたりの筋肉を動かすとそれに連動して動く形になっている。けど、なかなか要領がつかめなくてどうしても動きが不自然なものになっちゃう。初めてとはいえ、早く鳥みたいにゆらゆらと翼を動かしてみたい。

 そして、私は上空に首を上げる。晴天の空──周囲に遮るものがない。

 大きくジャンプして、羽を動かす。ぎこちないなりに、一生懸命鳥の姿をイメージして。


 バサバサと動く羽、それと同時に──私の身体は鳥のように空へと舞い上がっていった。


「へぇ~~すごい風景」


 羽の動かし方が良くわからないから、感覚がまだよくわからない。取りあえず、何とか羽を上下に動かして地面に落ちないようにする。


 バサバサ──バサバサ──。


 空から見た風景って、こんな絶景なんだ。

 

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