第10話 占星術のお店
露店が連なる、人通りの多いにぎやかな繁華街を通りすぎる。
そういえば、亜人の数──以前と比べると増えた気がするわ。毛耳をつけている人がそれなりにいる。地方の情勢が良くなくって、それが原因で地方に住んでいる亜人たちが増えているんだっけ。
時折握手を求められ、何人かの人たちと握手したり声を聞く。
生活に困ってたり、移り住んできた人たちが集まって何かしているとか。
「わかった。いろいろ調べてみるわ」
ミシェウが笑顔になって言葉を返す。
それから、しばらく道を歩く。
狭くて、アングラな雰囲気の街並みを歩いていく。
バラックでできた、簡素な家屋が不規則に並んでいて、そこら中にゴミが散らばっていたり、ぼろぼろの服をしている、人相が悪そうな亜人とすれ違ったり。こういった現状も、何とかする必要があるわね。
「なんか、怪しげな雰囲気ね。うん、そこまで悪い人はいないけどドキドキしちゃうわ」
とりあえず今の私は2人の研究のことは知っているけど、2人からは私は占星術や2人の研究のことは知らないことになっている。ここで、いろいろ知ったことにして、交流も兼ねていろいろ聞いてみましょう。
「こっち来なさい。すぐにわかるから」
そして手招きをした後店の奥に行ってしまった。
「そうね」
自然と、身を寄せ合う形になる。ミシェウが、私の腕をぎゅっとつかむ。
ちょっと、おっぱいが当たってる……。
怖がっていそうだったので、優しくミシェウの頭をなでる。確かに危なそうな分いいだけど、私は何度か戦場に赴いたことがある。
ミシェウだってあるはずだ。
何度か冒険者と衝突を起こしてわかったのだが、指導者といっても安全なところにいるだけでは部下たちに示しがつかない。
冒険者たちは時に王国を守るため死地へと赴くことがある。それに対して、安全なところから指示を出すだけでは彼らは私たちのことを「金だけもらって安全なところにいる奴ら」と軽視するようになる。だから時には非効率でも危険を冒さなきゃいけないのだ。
そして、少しの間歩いていると、目的地にたどり着いた。
「ここよ」
一見すると、怪しげな小物売りのお店。窓越しに中を見ていると見たことがない変な模様のネックレスや飾り物。
怪しげな紋章をした魔法の杖。大丈夫なのか、不安に思ってしまう。戸惑っていると、ミシェウがにこっと笑って手を差し伸べた。
「ついてきて。本来は、黒魔術の使い手の人なんだけど、占星術についても研究しているらしくてね、協力してもらっているの」
「わかったわ」
ミシェウが一緒なら大丈夫。何が待っているのだろうか──そんなことを考えながらミシェウがドアをノックして中に入る。
店に入って、カウンターにいた女の人に視線が吸い込まれる。
黒いコートを羽織ってフリルのついたピンクの服とスカートを着ている、若い女の子に見える人物。
アルル──私をやり直すチャンスを与えてくれた人だ。といっても、この時点ではまだ顔見知り程度。以前もアルルと本格的に面識を持ったのはここから数か月後。
表情を崩さず、軽く会釈する。
「いらっしゃ──ってミシェウ、シャマシュも?」
「やっほー今日は実験台──もとい協力者を連れてきたよ」
「なんか聞き捨てならないことを聞いたわね」
「まあいいわ。新しいお客さんね、ミシェウと手を組んだの?」
「そんな感じです」
ミシェウらしい出会いだ。こういうアングラでよからぬことを考えてそうな人。そういう人と交流を持っているとは聞いた。
ここで占星術の研究を行っているのだろうか。いつものミシェウの言動や行動を持っていれば特に不思議はない。
ミシェウは宮殿でも占星術の実験と称して色々突拍子もないことを言っていた。この世界は大きな球状のようになっていて、海の向こうに新大陸があってずっと同じ方向に行くとここにたどり着くとか、夜見える星々は実は神様が作ったものではなく私たちの世界と同じ法則で存在しているとか。
他の貴族の人たちは何を言っているのか理解できなかったり、この私たちの世界が丸いなんてありえないといってたり──。ミシェウのことを奇特な目で見ていたり、何かしでかしているのではないかと考え始めたり。
ミシェウがウキウキそうに後についていく。相当楽しそうで待ちわびていたというのがわかる。
「じゃあ行くわよ。怖くないわ」
「はい」
私はアルルのことを知っているから、それほど怖がらずについていき始めた。手狭で、ミステリアスな服や小物類が陳列している店内を進むと、奥へ行く扉へたどり着く。しかし、アルルは扉に目もくれず隣の扉で立ち止まっている。
店の一番奥にある壁。きょろきょろと周囲を見た後、何もないと思いきやアルルは梯子を取って上の時計に手を伸ばす。
そして、時計の刃をいじって12時なるまで回した。
「見られると困るの、だからこうしてる」
壁だった場所ががらりと回転した。そんな構造だったの?真っ暗な、下に続く階段。
「いつも見てるけど、本当にすごいでしょ」
「ほら、見世物じゃないわ。行くわよ」
私が階段に入ると、アルルはそそくさとこっちへ来て扉を回転させて閉めた。そして、手に持ったランプの明かりをともす。
行ったことないけど、よほど知られたら困るものがあるというのがわかる。
2人の後をついて、真っ暗な階段を下って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます