第2話 婚約者

「はっ?」


「何か、勘違いしてないですか?」


「そなたが今行っているのは、不祥事を起こして首になった人物が退職届を出してきたようなものです」


「な、何だと?」


 騒然となるこの場。まったく引く気はない。

 引いたら負け、ここはそういう世界。私は策がある。


 私は、くるりとカイセドから背を向け、歩を進める。


「なんだシャマシュ。啖呵を切っておいて逃げるのか?」



「すでに、こちらこそ花婿相手は決まってあります」


「何を強気な──そんな話は聞いてない。強がりもいい加減にしろシャマシュ嬢」


「強がってなどいません。私は──結婚いたします」


 私は、ゆっくりと最愛の女性のもとへと歩を進めていった。壁際で、周囲の貴族たちとワインを片手に談笑していた。


 私が数メートルほどまで近づいて、ようやく気付く。


「シャマシュ、どしたの?」


 きょとんとした表情。それも、とっても素敵。


「お話があります」


 強気な表情でそう言って、ミシェウと向かい合う。強引だけど、これが一番。早く、ミシェウと関係を気付きたい。もっと占星術を研究したい。そう考えたらこれが一番。


 突然の言葉に、周囲の視線が私とミシェウに集まってきた。


 ざわざわと、騒然となるこの場。

 私が、ミシェウの死と皇国の滅亡を止められなかった理由その1。ミシェウとの距離を詰めるのが遅すぎた。


 手を組んだ方が互いの利益になるのはわかっていた。でも、人見知りで感情が理解できなかった私は、中々ミシェウとの距離を縮めることが出来ず──時には口論になったりして、無為な時間を浪費させてしまった。


 だから、考えた。さっさと距離を詰めてしまえばいいと。

 強引だけど、行く。


「私、ヘルムート=シャマシュはミシェウ=クリス=シュレイダーと、結婚することを宣言します」








 ななな、ナニコレ……突然の出来事に、頭がパニック起こしてるんですけどぉぉぉぉ~~。


 いきなりのカイセドからの婚約破棄。それだけでもびっくりだというのに……まさかの、私との婚約宣言。


 カイセド、きょとんとしながらただシャマシュをじっと見つめている。シャマシュは、ふっと笑みを浮かべてこっちを向いた。


 私の両肩を掴んだシャマシュ。

 視線が合って、思わず一歩引いてしまう。水色の瞳──サラサラそうでとても美しいそう。

 美人という言葉を、体現したような容姿に思わず見入ってしまう。


 本当にかわいい……。


 ど、どうしよう。いきなり婚約者だなんて言われても。というか、それ以前の問題がある。


「ミシェウ──突然ですが申し訳ありません。すぐに終わります」


「えっ──」


 私の返答も待たずにシャマシュは目をつぶって私に顔を寄せていく。

 私の肩を掴んで逃げられないようにしてから、やさしくほっぺに口づけをしてきた。



 ふわふわとした、柔らかい唇。いつまでも、触れていいと思えるくらい気持ちいい。

 それだけで、私の意識がいっぱいになってしまった。


 ──ってそんな感傷に浸ってる場合じゃない。人前──それも貴族の人達がいっぱいいる場所だよここ。


 まずいって、まずいって!



 キス自体は一瞬だったのに、永遠にしていたかのように感じられた。


 全身でシャマシュのすべてを感じ取っているようだった。頭がぼーっとしてきて、何も考えられなくなる。


 そして、微笑んで見つめてくるシャマシュ。本当にきれい……心臓がバクバク言ってる。

 別に、女の子をそういう目で見てたわけじゃないのに……いや、ダメってわけじゃないし本当に好きなら悪くないかなぁって思ってはいるけど。


 私がうろたえている間に、シャマシュは私のドレスをぎゅっとつかむ。


「これからはよろしくね、花婿さん」



 そういって微笑を浮かべると、私は表情を固まらせて人差し指を自分に向けた。


「でも、私女の子だよ」


 別に、女の子同士がだめってわけじゃないの。かわいい子は好きだし、かわいい子と抱き合ったりとかいいなって考えたことだってある。でも、いきなりはちょ……ちょっと。

 うわさは聞いていた。シャマシュは変わり者だと。特に、性格。

 王位継承権を持っていた人物とは思えないほどお転婆で、じっとすることが出来ないくらい行動的。


 正義感が強く、地位の低い一般層とも気さくに話したりしていた。


「あなたの領地って保守的なのね。私達の中では──全く構わないわ」


 そう言って、首をから向けてほほ笑む。


「マジかよ。あいつ、そっちのけがあったのかよ」


「でも、変わり者同士お似合いじゃない?」


 周囲の人たちが、ひそひそと私達のことを話す。


 確かに、それは否定しない。私自身、周囲から『どこかおかしい』とか『頭のネジが抜けてる』とか言われてたし、否定するつもりもない。

 シャマシュも、優秀である一方余りに正義感が強いあまり周囲から煙たがれていた。


 根回しや、周囲への感情の理解が薄いことなどから周囲から疎まれやすい傾向があった。


 

 不正を暴かれて逆恨みされたり、集団で問い詰められて周囲から意図的に省かれたり。

 シャマシュはそのたびに憤怒し、何度も王宮の中で内争を繰り返していた。


 いつしか「冷酷」とか「独裁的」などあらぬレッテルがシャマシュに注がれることになった。


 私は何度かシャマシュとあって、彼女がそんな人じゃないって、優しくて国民のことを第一に考えてくれる人だって知ってる。どこかで、シャマシュに力になりたいとは思っていた。


 それを考えたら、いいチャンスかもしれない。考える時間は欲しいけど。




 ☆   ☆   ☆


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