4  妊娠

 ソレスの王家では、織女頭おりめがしらが王女の乳母となる。

 だから乳母は女王に先んじて身ごもる必要がある。


「だからといって、勇み足過ぎやしませんか」

 部下でもあり腹心の友でもあるカスタネアは少々、あきれているようだった。

 織女頭おりめがしらであるオリダに、妊娠の兆候があらわれていたからだ。


「そのつもりはなかった」

 あれっきりであれば、身籠りはしなかった。

 あの城壁の仮寝の小屋で、若者が「見張りの交代に行く」と、いなくなったあと、夜明けの光がさしこんですぐ、オリダは帰り道を見出して城内に戻った。

 あれっきりであれば。


 織女おりめたちの決まりごとの中で、思い人を作ることは認められていた。

 ただ一点、身ごもるには、女王の許可と男の種の選別がなされる。血が濃くなることを避けるための、ソレスの知恵として。


「相手は誰か、とは聞きませぬが」

 部下は呆れている。オリダにはわかる。

「オリダさまがに身籠られるとは」

 あぁ。わかっている。夢中になったのは、自身だと。

「王族の過去世かこせの種をいただける立場にありながら」


「呆れているのか。カスタネア」

 オリダは羞恥しゅうちに赤らんだ。


「いえ。しかし、わざわざな原始的な方法で、織女頭おりめがしらの地位にあるオリダさまが身籠られなくても、という考えは他の織女おりめの内にありましょう。ですから、その腹の種のあるじを公言する必要はないかと」


「それは、そうだ」

 余計な詮索と混乱は招きたくない。


「その男は、野心家ではありますまいな」

 部下の声に心配が混じる。


「男は私の立場は知らぬ。蟲女むしめ縫女ぬいめと思わせている」


 蟲女むしめは絹をとるかいこを飼う役。縫女ぬいめは衣を縫う役だ。共に織女おりめより下の位だ。


「それは、お見事。ですが、女王には打ち明けなくてはなりますまい」


 

 許可なく身ごもったことを、女王リウィアが、どのように受け止めるか。



「オリダの選択だ。受け入れよう」

 女王は落ち着いていた。

「ただし」

 やはり、と来た。

「女王の許可なくという部分は見過ごすわけにいかぬ」


 この場にはオリダとカスタネアが呼ばれていた。


「オリダは降格とする。代わってカスタネアを次期織女頭おりめがしらとす」

 腹心の友との座が入れ代わった。異議はない。


身体からだを大切に子を産め。ただし」

 本日、二度目の、ただしだ。

過去世かこせではない種だ。男児が産まれた場合はわかっているな」


「もちろんでございます」

 オリダは目を伏せたまま答えた。


 過去世かこせの種からは男児が産まれてくることは、まれだ。種として管理されているからだ。

 現世の男により身ごもる場合は、男女の産まれる確率は五分五分となる。

 ソレスの女は、皆が過去世かこせの種をいただけるわけではない。下々の女こそ、よそ者の男を思い人とする。男児が生まれた場合は、迷いなく、——いた。

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