人食い

消毒マンドリル

本文

老齢で安定した上手く体を動かせなかったツァボの人食いライオン。

牙がほぼ全て欠けてしまって獲物を狩れずにいたチャンパーワットの人食いトラ。


このような「人食いの動物」というのは、大概「老齢や怪我で人間のような捕まえやすい獲物しか食べられなくなっている」事が多い。

子供の頃に読んだホラー雑誌にそう載っていたのをふと思い返す。


研究員である僕は、先程全世界の軍が一時的に団結しても撃退できなかった「ヤツら」__あの緑色のタコとヒルを足して2で割ったような全長100m前後の不気味なバケモノども。そのうち奇跡的に仕留められた1頭の死体の解剖図を観察していた。

突如宇宙より大挙して現れ地球に現れた「ヤツら」は、ぶよぶよとしたおぞましい形状の触手で大量の人間や家屋を絡めとって喰らい人類を絶滅寸前まで追いやり、多くの人々に絶対的な恐怖を植え付けた。

万物の霊長と呼ばれた人類が、どれだけ進んだ科学技術や軍事力を以てしても決定打を与えられず地球を捨てて宇宙船で逃げるまでに追いやられたショックは計り知れない。

そんな「ヤツら」の死体を観察しているうちに分かった事がある。

「ヤツら」は共通して捕食器官である口が損傷していたり、移動に使う脚の欠損、老齢の生物に見られる体細胞の劣化といった特徴が見られた。


これは、まさか。

次に送られてきた画像資料に写る他の「ヤツら」も「人食いの動物」と同じように肉体を損傷している個体、老齢となっていた個体がほとんどだった。

という事は、「ヤツら」が地球を襲ったのは「人類」が「捕まえやすい獲物」だったのではないか。

「ヤツら」が本来の力を出せずにいた弱い個体に過ぎなかった事。

「ヤツら」ですら狩れない「獲物」が、地球に来た「ヤツら」より強靭で完全な個体の「ヤツら」がこの宇宙のどこかにまだいる事。

僕はこれらの仮説を一瞬受け入れることを躊躇してしまった。

人類は所詮この宇宙では弱くちっぽけな存在でしかない。

まさか、漫画や小説で聞くようなフレーズが事実だったなどと身に染みさせられるなどと誰が良そうできよう。

そんなバカな話があるか。僕はそう心の中で悪態をつきながら、残る緑まで食い尽くされ赤茶色になった大地より飛び立つ「ヤツら」がこの宇宙船へと向かってくる様子をただぼんやりと眺めるしかできなかった。

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