03 エルフ、第二階層の情報を得る

女神ユノに煽られてしばらくして、五十鈴さんがそういえばと思い出したように手を叩く。


「まひろちゃん、こちらに危害を加えるなどしない限り動物の殺生は禁止ね。ここらへん、フェンリルの臣民が管理してるからさ」


 どうやらこの階層……特に世界樹の中におけるフェンリルの力というものは絶大らしい。探索者がこうも気を遣っているとなると、とても正面から挑める相手ではないのだろう。


 俺なら勝てると勝手に突っ込んでいくと確実に迷惑をかけるので、まずはこの場所の情報を頭に入れておきたいな。


「わかりました。……この階層ってフェンリルが支配しているんですか?」


 こちらの質問に五十鈴さんはチラリとメリイさんに目配せをして、彼女は首を横に振って否定する。それでなにかを理解したのか、五十鈴さんはこう述べた。


「この世界樹はフェンリルが管理している。外には巨人がいて、世界樹の中にいる家畜を狙っているんだ。俺たち探索者チームは外に出たいんだが、フェンリルは巨人の侵入を嫌って世界樹の門扉を閉ざしていてね。正直、俺たちの戦力じゃフェンリルと戦って門を開けさせるのは論外だから、交渉でどうにかできないか……って模索しているところなんだ」


 だから突撃しにいって邪魔をしないでね、と言外に含めているように五十鈴さんは説明をする。

 メリイさんは五十鈴さんの説明に補足する。五十鈴さんがメリイさんのお尻に視線をやると、彼女の九つある尻尾のうちひとつがどすんと彼のみぞおちを打つ。うお……痛そう。


「王様だからまひろさんもすぐにお目通りってわけにはいかないの。臣民……ラタトスクというリスたちの仕事を手伝うことで覚えをよくして、そこでようやく謁見もできるわ」


「め、面倒臭い……!」


 迷宮の中だというのにきっちりと社会が形成されているではないか。探索者なんて世捨て人でもなれるから最高だったのに、その長所を取り上げられるだなんて……!


 五十鈴さんはこちらの言葉に理解を示したのか深く頷き、メリイさんは「皆さん同じこと言うんですよねー」とことの重大さをよく分かっていないような物言いである。


 五十鈴さんは改めてこちらを見てこう述懐する。


「柊さんの目算だと今日、君がこっちに来るって話だったからね。フェンリルの機嫌を損ねるようなことをする前に柊さんを迎えに行かせて、グループのリーダーである俺がかるーく説明しておこうって腹づもりだったわけよ」


 なるほど、悪い言い方をすれば釘を刺しに来たというわけか。良い言い方をすれば転ばぬ先の杖を渡しに来たわけか。

 フェンリルが取るに足らない存在であれば俺が倒してしまえば問題ない……と言えるのだけれど、そこはまだなんとも言えないなあ。まあ第一階層の敵より弱いということはない。ダンジョンは深くなればなるほど敵は強くなるものだから。


 俺の考えを読み取ったのか、メリイさんはこう告げた。


「あくまでわたしの戦力比なんだけれど、ここのグループとまひろさんたちが十全に連携を取れたとしても真正面からぶつかればただでは勝てないよ」


「……わかりました。俺にやれることはないですか?」


 第一階層ではっきりと分かったことがある。

 俺はチームでの戦いがビックリするくらい不得意だということだ。いままでの探索者としての活動のほぼ全てをソロにつぎ込んでいたため、正直いってパーティでの戦い方というのが分からない。


 あくまで俺ができるのは自己流のそれであり、探索者協会全体で培ってきたものではないのだ。つまりどういうことかというと組んだ相手が予想もできない動きをしてしまって活動を阻害してしまいかねないということだ。


 メリイさんとは約束をしていたからパーティを組んだけれど、このままではお荷物になってしまうことは間違いない。

 命がかかった活動をしているのだ、素直に教えを請うしかない。それで呆れられたら謝ってパーティを解散するしかないだろう。


 俺がそんなことを考えているなどとはつゆ知らず、メリイさんは手を合わせてよかったとばかりに息をつく。


「ではラタトスクというリスの魔物たちに会いに行きましょう。彼らは世界樹内の唯一の臣民であり、王直属の商人です。フェンリルに繋がる経路は無礼打ちかここだけですよ」


「じゃあ無礼打ちで」


「フェンリルに繋がる経路は無礼打ちかここだけですよ」


「選択肢一択のやつじゃん」


 国民的村焼きRPGかよ。

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