07 エルフ、レガリアを語る
「おはダンジョンー。今日は俺のレガリアについてざっくり解説していこうと思うよ」
ベースキャンプのかまどの近くに折りたたみ式の椅子を置いている。俺はそこに座って正面でこちらを画面に納めている自動操縦付きのスマホを見つめている。
『ざっくりレイムだぜ』
『ざっくりクレスメントだぜ』
『今日は召喚術についてざっくり説明していくぜ』
『旧時代の遺物じゃん』
「なんの話なんだ……?」
『旧時代のゲームのネタだよ』
「う、うん……。じゃあレガリアについて説明するね」
『スキルの階級みたいなものだっけ』
「そうそう。スキルには階級が五つあって一番上である
上から二番目の
レガリアは王の力とも呼ばれているほどに能力の範囲や出力などが広く高い。
以前、俺は〈錬金術〉というスキルを習得していたが、それは最初から最後まできちんと自分の手でつくり遂げなければならないものだった。それでいて品質にはばらつきがあるし、良いものを使っても必ずいいものになるとは限らないものだ。作り方はわかるものの実際に手を動かしてつくるので、手腕が拙劣であれば拙いものしか出来上がらなかった。
『レガリアの他のスキルはどのくらいのレアリティなの?』
「大体が五つあるうちの下から二番目の
スキルのランクが探索者の才能だとするならば俺は才能がない方だ。運や適性がなければ高ランクのスキルもままならないところは未だに格差がある。
実家暮らしの頃は自分のスキルの格の低さに嘆いたものだが、上京してからはそこも吹っ切れた。今の俺が言ってしまうと嫌味になってしまうが、結局のところどうやって配られた手札で乗り切るか、乗り切ったあとはより良い手札を手に入れるかだ。だからそういった面ではレガリアスキルをくれた女神に感謝はしている。
まあ勝手に女にしたから殴るけどな。
女になって解消された悩みもあるが男から変わってできた悩みもある。
しかし悩みは別として女神は殴る。
『このランク帯でそのスキルだとソロしか選択肢はないねえ』
『そのソロって未帰還前提の単独行じゃない?』
『このくらいだと厳しいんだよ。いくら基礎能力が高くてもスキルによる持久力・瞬発力が見込めないのならどうしても渋ってしまう』
『やっぱ命を懸ける業界は厳しいなー』
「そこに関しては仕方がない。スキルだけで評価は下せないけれどね。ただ実際、俺の能力だと後方勤務が向いてるし」
物作りは好きだがダンジョンに潜るのも好きなのだ。向いている向いていないの問題ではなく俺が行きたいから行っているだけ。そこに付き合える人間は滅多にいない、それだけだ。
「まあなんやかんやあってソロで活動しているうちに女神と遭遇、そしてレガリア発現ってわけ」
そろそろ話を戻さないと脱線したまま戻らないだろうからな。試験勉強をしに友達の家に行った時くらいに修正が効かなくなる。
「レガリアは与えた神格に関係せず、本人の資質によるものとされている。これは神々の証言とレガリアを所持している探索者たちの能力を以前以後で比較して裏付けを取っている」
『らしい』
『推定なの!?』
『昨日のレガリアの話が出たあたりからネットで検索したんだけど、あくまでそういう噂らしい』
まあなかなかそういう情報はネットに出回らないからねー。探索者の間ではこういう話で持ちきりになってしまうが。
他人の能力は詮索禁止というマナーはあるけれど『ここだけの話』はあちこちに飛び回っている。
ただまあ今回の論には俺という生き証人がいることを忘れないで欲しいね!
「ところがどっこい、俺のも以前の能力の派生系になっているんだ。詳しい内容は三回くらいにわけて説明するよ」
『どうして?』
「俺のレガリアは三つ……正確には三つでひとつの能力だから。その名も〈トリニティ〉。〈クラフト〉、〈ストレージ〉、〈エンハンス〉の三つをひとつにまとめたものなんだ」
『なーるほど。一つずつ腑分けするってことね』
『俺馬鹿だからわかんねえけどよ……ソロにぴったりの能力っぽくねえか?』
『強くない? ……てか強くない?』
『なんで二回言った?』
『元の能力は?』
「元は〈錬金術〉、〈収納〉、〈強化〉の三つだった。どれも
〈錬金術〉は全ての工程を手作業でやる必要がある。
〈収納〉は入れられるものは少なく、また取り出しが煩雑で維持に結構な魔力が必要とされる。
〈強化〉は一時的な付与だけですぐ解除されるし、上昇の上限が低い。
総じて使いづらく、パーティを組む際に申告をするとやんわりと断られてばかりだった。
地元にいた頃はそれが結構なコンプレックスだったのだが、上京して師匠に鍛えられるとそこそこ戦えるようになったものだ。
〈錬金術〉は腕さえ磨けば基本的にどんな状況にも対応しうる準備ができる。
〈収納〉は少量の投擲武器のみを収納しておけばいざという時に虚空から手札を出すことだってできる。
〈強化〉は己を過信せずここぞというときを狙う必殺の武器になった。
『それはたしかにAランク以上だと断られるし、Bでも厳しい』
『レガリアなしでランクA++、しかも過少申告ってどれだけ頑張ればそうなれるんだ?』
「ひとえに師匠が鬼畜、悪鬼、悪魔のマンチキン野郎だったからだね。一人で戦えるようになったのはその人のおかげです」
会えなかったら今ごろ探索者は辞めていたか、あるいは迷宮のゴミになっていただろう。
「そうそう、俺もレガリアが目覚めて三日くらいなんだ。だから実を言うと〈トリニティ〉がどこまで出来るのかはこっちも正確には把握できていないのさ」
やれることは多くなったがどこまでできるかは分かっていない。
その状態でやるべきことは持っている武器のスペック確認……なんだけど。
「ただ俺も生活しないといけないから、性能の検証についてはこの配信内で少しずつやっていけたらと思っています」
……日も昇ってきたし、そろそろ探索に行くかー。
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