私の初恋は下界のクズモブでした〜最強すぎるので影ならがら推すことにします〜

ahootaa

第1話 私、女神辞めます

「女神たちよ、聞きなさい。この世界はもう滅びます。しかし、私たちが育ててきた大切な大地です。最後まであきらめずに見守っていきましょう」


 この言葉を受け、天界の女神たちは右へ左への大忙し。

 有能な人材を見つけては異世界へ転生させるの繰り返し。

 大量に転生させることで、地球の文明を異世界へ転移させようとの作戦だ。


 でも、私の視線は一人の青年を追いかけていた。

 最高高志さいこうたかしさん、これが彼の名前だ。

 彼は非常に憶病な人間で、人間関係に常に悩まされていた。

 今日も一人寂しく便所メシ。

 そんな彼だが、私にはわかっている。

 実はピュアで素敵な心の持ち主であることが。

 

 なんたって私は女神。

 下界の人間の考えることなんてお見通し。

 ……の、はずだった。

 高志さんに出会うまでは。

 彼は臆病な人間なので、周囲に心を閉ざしている。

 それが女神に通用するほどに。

 

 だから、気になって毎日、彼の生活を覗いてしまう。

 顔は悪くない。

 良くもないが悪くもない。

 身長は170cm、体型はやせ型。

 良くも悪くも目立たない。

 

 奇しくも私の身長も170cmでやせ型。

 顔は女神なので良いと思っている。

 こんな共通点を見つけてニヤニヤしていた。


「あー、またアステリアはサボってるでしょ!」


 女神友達のリーゼロッテだ。


「いいえ、私は彼に無限の可能性を感じています。だからこれはサボりではなく、仕事です。それに、あなたの倍は仕事をしているので、サボりとは言われたくありません」


 リーゼロッテは自分の仕事を放り出して私にかまってくる女神だ。


「えー、でも、一人の下界の人間を観察するのは良くないよー。転生させるならさっさとトラックにぶつけちゃえばいいじゃない」

「こら、なんでもトラックにぶつけて解決してるような誤解を招く表現はだめですよ!」


「うーん、アステリアは真面目だからなぁ」

「そんなことはありません。当たり前のことです。それに彼も転生の候補であることは間違いありません。ただ、今はまだその時ではないので、見守っているだけです」


「そお? タイミングは女神に一任されてるけど、そんなに有望なら早く転生させた方がいいんじゃないの?」

「そうですね。もう少し待てば、もう一皮むけそうなので、機が熟すのを待っています」


「お! なんか楽しそうなことやってんじゃん? 話に混ぜてよ!」


 彼女は優秀だけど、好奇心が旺盛すぎる女神フレイザ、私は少し苦手です。


「フレっち! おひさ! 聞いてよぉ。アステリアがサボってるんだよぉ」

「フレイザ、違います。それはリーゼロッテの勘違いです」

「そんなことないじゃん、理由はつけてるけど、推しの人間を観察してただけでしょ?」

「うぅ」

 反論が難しいですね。

 リーゼロッテもこんな時だけ頭がよく回る。


「え? 真面目なアステリアに推し活とかあんの? ウケるんですけど? どいつよ?」

「アイツだよぉ。あの冴えない男。見た目はフツーって感じかな?」

「え? アイツかー。あんなのがいいの? え? だって、これだよ? よく見てよ。アイツ便所でメシ食ってんぜ? ギャハハ」


 ああ、最悪だ。

 すべてが明るみに出てしまった。

 私の「高志ピュア計画」が……。

 恥ずかしくて顔を上げられない。


「ギャハハ、アイツの名前『最高高志さいこうたかし』だってよー。ウケるぅ」

「そうなの? アハハ、おもしろ~い。アステリアはあれが好きなんだぁ」

「す、す、好きだなんて一度も言ってません!」


「ギャハハ、怒ってるとこかわいいね!」

「うんうん。かわいい~。もう、やっぱり早く転生させなよ」

「からかわないでください。彼はもう少し寝かしておくのです」


「えー! アステリアがしないなら私がしてあげるよ! おっ、このトラックが帰り道で使えそうだな。このトラックにぶつけよう!」

 フレイザがいつものノリで話を進めようとする。

「ちょっと、勝手なことはやめて下さい。それなら私が今から転生させます!」

 勢いで言い切ってしまった。


 これを二人が見逃してくれるわけでもなく……。

 転生させてしまった。

 しかも、便所メシの最中に……。

 不自然極まりないタイミングで、私の仕事に対する美学に反するやり方だった。

 スキルもパッと思い浮かばなかったので、『ピュア』という私の願望だけがこめられたスキルしか渡していない。


「いっちゃったねー」

「ギャハハ、トイレで光ってたー!」

 二人は全く反省していない様子だった。


 私はしばらく何も考えられなかった。

 ここ数年見守ってきて、もう一皮むけたところで運命を変えるつもりだったのに。

 これまでの見守りが水の泡だ。

 さらには、厳しい環境に謎スキル一つだけ渡されて……。

 高志さんが不憫すぎる。

 

 あ、こっちの世界ではアーサーさんでしたね。

 せめて王族に生まれたのが救いです。

 その後も見守ったが、やはり、一皮むけず、心を閉ざしたままだった。

 彼が地球人のまま、もう少ししていれば、私好みの男の子に育ったはずなのに……。


 ……っは! つい、本音が!

 いや、本音ではありません。

 煩悩退散。煩悩退散!


 しかし、このままでは私の高志さんはアーサーさんとしてもダラダラ生きてしまう。

 よし、私が直接なんとかしよう!

 アーサーさんに会って、話してみよう!

 ただの推し活をリアルなものにしてみよう!

 

「あの、みなさん、すいません」


 ざわざわしている。


「急で申し訳ないのですが、私、女神やめます」

 

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