冒険者パーティーで役立たずだった私の本当の役目
結城はる
第1話
不快な表現等があります。
予めご了承ください。
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このような展開になることは予想できていた。
パーティーで一番の無能であり邪魔な存在である私を事故に見せかけて始末しようとする。
今、私達の100メートル程先で眠っているのは岩石竜。
討伐ランクでいえばAランクに匹敵する魔物である。
私達の冒険者ランクはBランク。
4人パーティーである私達の実力では、死力を尽くして漸く討伐できるかの魔物だ。
「カグラ、前から思っていたんだが、お前は俺たちのパーティーには必要ないんだよ」
パーティーのリーダーであるルークが私に向かって言い放つ。
前衛として俊敏な動きで敵を翻弄させ、私達の指揮も担っている剣士である。
出会った頃は、真面目で自分の剣の腕を磨くことしか考えていない向上心の塊のような好青年だったが、パーティーメンバーが増えていき冒険者ランクも上がったことで、自分に自信がついたのか傲慢な人間になってしまった。
更には女の身体を知ったことで頻繁に娼館通いになり、パーティーメンバーにすら手を出す始末。
しかし、パーティーメンバーもルークの行いを咎めず積極的に身体を差し出している。
あの雰囲気は間違いなくルークに惚れているのだろう。
こんな男のどこがいいのか私には理解不能だった。
そしてルークは複数の女を抱いているにも関わらず私にも手を出そうとしてきた。
最初は水浴びを覗く程度のものだったが、段々とエスカレートしていき私の部屋に忍び込み寝込みを襲われたこともあった。
初めて男から身体を
そんなルークから遅効性の麻痺薬を飲まされていたようで、この場に私は倒れ込んでいた。
手足が痺れて全く力が入らない。
自力で立ち上がるのも叶わない。
麻痺薬の効果で声を発することもできない。
いつもは私のことなんか侮蔑の眼で見ていたのにも関わらず、今回だけは岩石竜を相手にするからとルークの自費で購入した魔力増幅薬を渡された。
普段の私はパーティーの雑用係を任され、寝る間も惜しんで受注した依頼の下調べや食料の買い出し、回復薬などの調達、その他野営をするために必要な必需品を買い揃えたりしていた。
もちろん消耗品もあるため、無くなりそうだと判断した時はその都度購入をしていた。
更には全ての会計も担当しており、パーティーで稼いだ金銭から経費を差し引いてメンバーへ残額を配当する。
私は依頼を受けても、メンバーの身体強化魔法を使うのみで直接戦闘には参加しない。
そのため私の配当はごく僅かだ。
自分のために使う金銭などあるわけもなく、一泊分の宿代を払えるくらいしか手元には残らない。
このパーティーが結成して以来、メンバーが増えたことで私は徐々に不当な扱いをされるようになっていった。
何度もこのパーティーを抜けたいと思っていた。
でもそれは出来なかった。
そしてその結果がこれだ。
初めてルークから渡され魔力増幅薬が嬉しくて、岩石竜と戦う前に少しだけ飲んだ。
しかしそれは、外観は魔力増幅薬の容器であったが中身をすり替えた麻痺薬だった。
ルークは私をここで殺す気だった。
だからいつもよりも高難易度の岩石竜の討伐を自ら引き受けたんだ。
自ら高難易度の依頼を受けると言ったときは、昔のルークに戻ったような気がして嬉しい気持ちにもなっていたが、どうやら違ったようだ。
全ては私をここで岩石竜に喰わせて依頼失敗による不慮の事故として処理するつもりだろう。
一年くらいの付き合いではあるが、まさかここまで堕ちてしまうなんて人間とはわからないものだ。
「ごめんね〜。あなたって才能がないし、ずっと邪魔だなって思ってたのよね〜」
パーティーの魔法使いであるエレナが私を嘲笑う。
魔法使いとしては才能があるが、性格は最悪だ。
自分より下の人間に対しては、陰で魔法の練習という名目で攻撃魔法を使って痛めつけたりしている。
勿論、私も何度も実験台にされた。
その度に裸にさせられて服で隠れる部位を何度も火魔法で炙られたり、水魔法で窒息寸前まで溺れさせられたりもした。
森の中では土魔法で作った巨大な落とし穴に落とされたりして、両足の骨を折ったこともあった。
エレナはいつも相手の痛みや恐怖を感じている様子を笑いながら見ている。
更には私のことを蹴落とそうと考えたのか、私のありもしない噂を吹聴していた。
男を誑かして宿のベッドによく連れ込んでいる。
隣の部屋からカグラの煌びやかな声が聞こえてきて耳障りだ。
頼んだら簡単に一緒のベッドで熱い夜を過ごせる……など、明らかに私を侮辱する内容の噂を広めた。
自分で言うのも何だが、私は容姿だけは優れていた。
背中まで流れる黄金色の髪に、少し吊り目だが碧眼でスタイルも良かった。
年齢に合わず胸だけは成長して、引っ込むべきところは引っ込んでいた。
街中ですれ違えば、誰もが振り返るほどだった。
しかし、それも含めてエレナにとって私は邪魔な存在だったんだろう。
そのせいで、冒険者の男達から裏道に連れ込まれて無理やり犯されそうになったこともあった。
その時は大声で助けを求めたことで近くにいた騎士に助けられた。
エレナは直接攻撃してきたりすることもあるが、周りに指示をして自分の手を汚さないという計画性の良さから非常に厄介な女だ。
「そうね。カグラがいなくてもわたくし達は強いもの。お荷物な女はここで死んだ方がマシよ」
パーティーの回復役であるマリアが続けて言い放つ。
マリアは教会の聖職者でもあり、希少である聖魔法を扱いどんなに重傷であっても死んでさえいなければ回復させることができる。
とはいっても、重傷を負った人間を回復させるための聖魔法は大量の魔力を消費するため頻繁には使えない。
そのため、万が一のことを考えて普段は聖魔法の行使はせずに魔力を温存している。
聖職者であるはずのマリアも私に対して暴漢に襲わせる計画を立てられたことがある。
突然マリアに手伝って欲しいことがあると夜中に呼び出されて、一緒に向かった廃墟に待ち構えていたのは複数の男達。
マリアの指示により一瞬で暴漢達は私に襲いかかってきた。
衣服を破られ手足を抑え込まれた私は身体強化魔法を使って何とか抵抗し続け、一瞬の隙をついて廃墟から逃げ出した。
暫くの間、その男達から逃げ回りボロボロになった姿の私を騎士が発見して保護された。
衣服も破れ疲弊した状態で宿に帰ると既にマリアがいた。
すぐにマリアを問い詰めたが「カグラは男遊びが好きだと聞いたから、厚意で用意したのに気に入らなかったかしら?」と嘲笑いながら言ってきた。
その言葉に怒りが込み上げそのまま身を任せてマリアを殴り掛かりそうになったが、何をしても私の言葉が伝わることがないと察して諦めた。
そんなマリアも私を本格的に始末するために今回の行動に出たというわけだ。
「やっとこの時が来たね。こんな目障りな女なんか早く死んじゃえばいいのに!」
私に指を差しながら言ったのは、パーティーの斥候でもあるフィオナ。
背が小さく、小柄だが透明化することができるスキルを保有しているため、斥候役としては引く手数多な存在だ。
フィオナは積極的に私を害することはなかったが、エレナやマリアの私に対する暴挙を認識していたにも関わらず我関せずを貫き通していた。
私がエレナの魔法攻撃の実験台になっているのを一緒になって嘲笑っていた。
私の男好きという噂もエレナと一緒に積極的に広めていた。
でもある意味では私にとって一番マシな存在である。
何故なら私に直接は干渉してこないため、他の3人に比べたら害がないからだ。
しかし今までと違い、今回の私を始末する計画には積極的に参加したようだ。
フィオナは斥候役として偵察だけでなく、罠を仕掛けたりすることも優れていた。
そして今、私には魔物を足止めするために設置するトラバサミが右足に食い込んでいる。
どうやら事前にこの場に埋め込んでいたようで、それに私がまんまと引っ掛かったわけだ。
私の右足にはトラバサミの刃が食い込んだことでドクドクと血が流れ、更には骨も折れているだろう。
麻痺薬だけでも十分なはずなのに、念の為かトラバサミで身動きができないようにするなんて用意周到なことだ。
「さて、あとは岩石竜を誘き寄せてカグラを食べてもらおうか」
「そうね〜。やっとこの女を始末できて嬉しいわ〜」
「それよりエレナ。
「もちろんよ〜。一回分なら
「ふふ、そうね」
ただの冒険者であるエレナが行使できるだけでも、充分称賛に値するが唯一欠点がある。
それはエレナの魔力では
そのため普段は緊急事態でもない限り、
しかし、今回であればこの場から私を除いた4人を
それだけで何の問題もない。
「ならあとは私が透明化スキルであの岩石竜を刺激してくるだけだね!」
「ああ、頼んだぜフィオナ」
「なら私も
「さっさと終わらせて街に帰りましょう?」
フィオナが透明化スキルによって姿を消した。
そしてエレナが
ルークとマリアは退屈そうに私を見下ろしていた。
「いやー、折角だからカグラを最期に犯しておけばよかったな」
「あら、私達の身体では満足できないのかしら?」
「そんなことねーよ。ただ男ってのはいろんな女を抱きたいって思うだけだ」
「なら、今日から私たちだけで満足するようにしてあげなくちゃね」
最期に聞く会話がこれか。
ルークとマリアは目の前で抱擁しながら口付けをしている。
そんな2人を見ていると、私の背後から地響きがしてきた。
そしてその音は徐々に近づいてくる。
「みんなー! 早く逃げようー!」
「よし! エレナ、準備はいいか!」
「もちろんよ〜。いつでも
「ならすぐに逃げましょう。わたくし達まで巻き添えなんて御免だからね」
フィオナが走って逃げ帰ってくる。
そしてエレナが発動させた
魔法陣の中に4人が入り、最期に私を見下ろしながら各々言葉を発する。
「じゃあなカグラ。お前を犯せなかったのが最後の心残りだぜ」
「こんなことをしてごめんね〜。でもあなたって存在が鬱陶しかったのよね〜。だからこれは仕方がないことなのよ〜」
「カグラのことは聖職者であるわたくし自らが、名誉な死を遂げたと報告しておくから気にしないでね」
「ばいば〜い、カグラちゃん!」
そう言って4人は
この場に残されたのは私1人。
トラバサミで身動きも出来ず、麻痺薬で身体の自由も効かない。
そして迫り来る岩石竜。
このままでは私は岩石竜の餌食となり死ぬだろう。
パーティーメンバーによって計画された事故に見せかけた殺人。
私はあのパーティーではどんな存在だったのだろうか。
容姿だけが良くて、他の女性達から疎まれるだけの存在だったのか。
男達にとっては尻軽女とでも思われていた存在だったのか。
まあ、今更そんなことはどうでもいいか。
これで私の役目は終わりなのだから。
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