人生に難易度が存在するゲーム世界に【最高難易度】で転生したけど、この世界の仕様を知ったので無双余裕でした
にこん
第1話 妹はイージーで俺は
パチリ。
目が開いた。
爽やかな風が吹き抜ける。
太陽が眩しかった。
それから微かに鼻腔をくすぐるのは土のにおいと、草の匂い。
どうやら俺は今芝生で横になっていたらしい。
家の近くにこんなに自然豊かな場所は無い。
ならどこか。
その答えはすぐに分かることとなった。
「づ……」
頭に急に情報が流れ込んできた。
それで理解した。
(ここはゲームの世界か)
理解した。
ここはアクションRGPのゲーム世界。
「ステータスオープン」
名前:エース
レベル:1
攻撃力:3
防御力:3
体力:30
そこまで確認して俺は息を吐き出した。
確認作業はこれで終わった訳では無い。
一番重要な確認項目が残っている。
それは、難易度。
(イージーかノーマルだろ)
ハードなんてあるわけが無い。
(そもそもこうやって生身の体を動かせる世界で難易度なんてあるわけがない。ゲームじゃないんだから。ないよな?)
そう思ってスクロールしたら。
見たくないものが見えてしまった。
難易度:【マストダイ】
絶望が待っていた。
「マスト、ダイ、だと」
背筋が凍った。
鳥肌が立つ。
とにかく、やばい。
「……」
呆然と立ちつくした。
難易度マストダイ。
略してマスダイは全ての難易度の頂点に立つ高難易度だった。
(原作通りならやばい……)
セーブ機能無効。
死ねば最初から。
装備はその場に落ちない、後から回収なんてできない
取得経験値効率はノーマルとの比較で1/10
敵の攻撃力44倍(ザコ敵の攻撃でも一発で死ぬ)
一言で言うならクソゲーだ。
しかし二つだけ他の難易度とは違う点があった。
それは小さな方から言うならば、経験値を獲得出来る行動が増える、ということだ。
他の難易度だと経験値にならないような行動でも経験値を稼ぐことができる。
それから2つ目は。
【プレステージ】という概念。
このゲームにはカウンターストップがある。
レベル100で終わりだ。
しかしマスダイだけは違った。
レベル99から100に上がれば1に戻される。
そして【P1】という数字がレベルのあとに着く。これはプレステージが1に上昇したということだ。
そしてプレステージ1の状態でもう一度99まで上げれば、またレベル1となりプレステージが2に進む。
つまり、マスダイに関してはカンストが事実上存在しない。
この仕様が発表されてからファンのやり込み層の間ではプレステージを上げるという遊び方がされていた。
プレステージは名声という意味だったと思う。
そしてプレステージが上がった画像をSNSに投稿すれば名声を得られた。
「すごい」「強い」「うまい」という賞賛を得られたのだが、数々の理不尽仕様のせいで心が折れる人間が後を絶たなかった。
実際にこのゲームをやり込んでいないとプレステージどころかレベル1上げるのすら無理だった。
「やばいなこれ……」
割とマジめにやばい。
どうするよこれ。
そのとき、
「兄さーん」
元気な声が聞こえた。
そちらを見てみると女の子が手を振ってこっちに向かってきていた。
俺の記憶が誰かを教えてくれていた。
妹のミーシャだった。
「はぁ、はぁ」
息を荒くして俺の近くまで走ってきていた。
俺はそんな息を荒くした妹に聞いた。
「どうしたの?」
「あ、いや。その、兄さん、今日は誕生日だったよね、って」
記憶を探ってみるとどうやら今日は俺の誕生日らしかった。
「12歳の誕生日なら人生の難易度が分かるよね?なんだったの?あ、ちなみに私はイージーだったよ」
ぴょんってうれしそうに跳ねる妹。
記憶を掘り返すと俺とこの子は双子らしい。
だから誕生日が同じらしい。
「普通ノーマルかイージー、それからカジュアルらしいけど、兄さんはどう?」
顔が引きつった。
(普通、その三種類なのか?俺は普通じゃなかったのか)
そう思いながら俺は口を開いた。
ゴクリ。
唾を飲み込んでから
「マスダイ」
「えっ……?」
ミーシャは口をポカーンと開けていた。
「ま、マスダイ?鯛の名前?」
「マストダイ」
ミーシャはこう聞いてきた。
「な、なんですか?その難易度は」
どうやらマスダイを知らないらしい。
「最高難易度だよ」
そう答えるとミーシャも絶望したような顔で家の方へ走っていった。
それからミーシャは俺の両親を連れて帰ってきた。
父さんが口を開いた。
「難易度がマストダイって本当なのか?エース」
頷いた。
「なんてことだ」
その場に崩れ落ちる父さん。
そんな父さんを母さんが慰めていた。
「父さん、エースならきっと大丈夫」
そう言っていたが父さんは悲痛な声で絞り出すように呟いた。
「マストダイだそ?マストダイ……歴代でもマストダイの難易度を授けられたものは全員不運な死に方をしたのだぞ?」
「で、でもエースだけは違うかもしれない」
「あ、あぁ……すまない。そうだな。でも、あの人が一つ下の難易度【ナイトメア】であんな姿になってしまったのが忘れられないんだ。エースはどうなるんだ?」
父さんはそう言って俺の両肩に手を置いてこう言った。
「エース。強く生きてくれ。私たちは応援しているからな」
両親は悲痛な顔でそのまま家の方へ帰って行った。
残されたのは俺とミーシャ。
ミーシャが口を開いた。
「に、兄さん。わ、私もいるから」
そう言って俺の横に座り込んできた。
それから俺を励ますように言ってきた。
「ね、ねぇ。今からモンスター倒しに行かない?」
「も、モンスター?」
「うん!何事も挑戦してみないと!」
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