第46話 エリザベス二世(連合王国:1952.2.6~2022.9.8)
故人ではありますが同時代の方ですので、敬語を用いています。ご了承ください。
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デンマークのマルグレーテ二世陛下を皮切りにスタートしました古今東西女性君主列伝も、いよいよ
お父上のヨーク公は、当時の国王であるジョージ五世(1865~1936)の次男で、本来ならば王位を継ぐことはないはずだったのですが、とある事情により、王位に
その事情というのは、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。いわゆる「王冠を賭けた恋」というやつです。
ジョージ五世の王太子、女王にとっては伯父に当たるエドワード(1894~1972)は、父の崩御を受けて、1936年1月20日にエドワード八世として即位します。
しかし、当時彼には恋人がいたのですが、そのウォリス=シンプソン(1896~1986)という女性は、人妻だったのです。
英国の国教であるイングランド国教会は、元配偶者が存命であるうちに再婚することを認めておらず、それでなくても倫理的、道義的に色々問題があったため、周囲は二人の結婚に大反対。
で、結局エドワード八世は同年12月11日、王位を退きます。
国王の座よりも愛する人との結婚を選んだ彼の選択は、「王冠を賭けた恋」などと呼ばれたりもするのですが……。どうもこの二人、人となりには何かと問題があったようですね。
それはさておき、兄に代わってヨーク公が王位に
当時はまだ、上流階級の女性に教育は不要という考え方が強かったのですが、彼女の祖母でジョージ五世の妃であるメアリー妃(1867~1953)の意向もあって、家庭教師をつけられ教育を受けてこられました。
1939年、英仏両国とドイツとの間で戦端が開かれ、やがて戦火は拡大、第二次世界大戦に発展します。
ナチスドイツの猛威の前に、ロンドンも爆撃に
1945年2月には、18歳のエリザベス王女は英国陸軍の補助地方義勇軍に入隊。
当時、王族の女性が軍務に
これは、一つには当時
このような経験を経て、欧州での連合国軍の勝利が確定した1945年5月8日、いわゆるV-DAYには、妹のマーガレット王女(1930~2002)と共にロンドンの一般市民たちに混ざって、真夜中まで勝利の喜びを分かち合われたということです。
終戦後の1947年には、父王およびご家族とともに、元大英帝国植民地諸国からなる英連邦王国の一つ、南アフリカ連邦――現在の南アフリカ共和国――への外遊に
そして、その年の7月9日、エリザベス王女はギリシャの王子で英国海軍大尉のフィリッポス殿下(1921~2021)と結婚なさいます。
ギリシャ王家のグリクシンブルグ(グリュックスブルク)家は、デンマークおよびノルウェーの王家と同族、という話はマルグレーテ二世の項でも書きましたね。
フィリッポス殿下――英国に帰化し、母方の姓「バッテンベルク」を英語風に改め、「フィリップ=マウントバッテン」と名乗るようになるこの方は、母方を辿ればヴィクトリア女王(1819~1901)の血筋に連なります。フィリップ殿下の母君が、ヴィクトリア女王の曾孫に当たるのです。
つまり、フィリップ殿下はヴィクトリア女王の玄孫に当たり、エリザベス陛下と同世代というわけです。
ついでに言うと、フィリップ殿下の母君の妹が、マルグレーテ二世陛下の祖母に当たる方です。
先ほど「ギリシャの王子」と書きましたが、国王ないし王太子の子というわけではなく(父君はギリシャ国王の四男)、お家騒動などもあって、幼少期から国外での亡命生活を強いられ、ご苦労してこられました。
お二人のご結婚には、エリザベス王妃をはじめ反対する声も大きかったのですが、フィリップ殿下の英国への帰化、イングランド国教会への改宗など、英国に受け入れられるよう努められた甲斐もあってか、無事結婚に漕ぎつけられたのでした。
翌1948年11月14日には、第一子チャールズ王子(後のチャールズ三世)、1950年8月15日には第二子アン王女が誕生しています。
1952年2月6日。父君のジョージ六世が冠動脈血栓症のため崩御します。
ジョージ六世は第二次世界大戦の戦火を経験し、また自身の
ちなみに、ジョージ六世の
かくして、エリザベス王女はエリザベス二世として即位することとなり、以来実に70年間、王冠を被り続けられることとなります。
とはいえ、英国は立憲君主制ですし、「君臨すれども統治せず」という言葉もあるように、国王が直接政治に関わるわけではありません。
しかしながら、王室外交も外交政策上重要な役割を担っています。
女王が即位以来心を砕いて来られたのは、元大英帝国の植民地だった国々――英連邦に属する国々との関係でした。
第二次大戦後、それまで大英帝国の植民地だった国々が次々に独立していきます。
旧植民地国と旧宗主国との関係は、えてして
女王は英連邦の国々を精力的に外遊され、信頼関係の構築に
時には、「君臨すれども統治せず」のラインぎりぎりのところまで踏み込まれることもあったようです。
特に、南アフリカのアパルトヘイト問題を巡っては、経済制裁を渋る当時のサッチャー首相(1925~2013)はじめ英国政府に対し、カナダのマルルーニ―首相(1939~)やオーストラリアのホーク首相(1929~2019)らのアパルトヘイト反対派を通じて、ECによる経済制裁の実施へと舵を切らせようとなさっていた、とも言われています。
反アパルトヘイト運動の中心人物で南アフリカ政府に投獄されていたネルソン=マンデラ氏(1918~2013)は、1990年に釈放され、1994年に彼が同国の大統領に就任すると、英連邦への復帰も果たされました。
エリザベス女王が亡くなられた時、アフリカの旧植民地諸国などから、女王は大英帝国の支配の象徴だ、といった批判の声も上がりました。
しかし、第二次大戦後の英国女王ならびに政府の歩みを見てみると、大英帝国時代の負の遺産を、いかにして円満に清算するか、ということに腐心して来られたことは間違いなく、彼らの言い分も理解はできるものの、ちょっとその言い方は酷なのではないか、と思えます。
もっとも、陛下ご自身は、そのような批判も甘んじて受け止められるかもしれませんが。
また、女王は英国の歴史上最大の政治課題というべきアイルランド問題に関しても、解決に尽力されました。
孫のウィリアム王子(1982~)をアイルランド近衛連隊長に任命し、2011年4月29日のキャサリン妃(1982~)との婚礼の際に連隊の制服を着用させます。アイルランドの人々に親近感を抱かせるためのイメージ戦略ですね。
そして、同年5月17日、アイルランドを訪問。これは1911年にジョージ五世が訪問して以来100年ぶり、アイルランド共和国が独立してからは初めてのことでした。
ここで女王は、アイルランドの象徴であるシャムロック(クローバー)の意匠のドレス、同じく同国の象徴である竪琴のブローチ、さらには祖母の結婚の際に少女たちの募金で献上された「グレート・ブリテンとアイルランドの少女たちのティアラ」を身に着ける徹底ぶりで、両国の融和を演出されました。
さらに、翌年には北アイルランドも訪問、長きに渡りテロ活動を続けてきたIRAとの和解を印象付けました。
さて一方、ご家庭の方に目を向けると、チャールズ王子、アン王女の後、1960年2月19日にはアンドルー王子、1964年3月10日にはエドワード王子と、計4人のお子様に恵まれます。
ただ、お子様、お孫様方を巡っては、しばしばマスコミにスキャンダルが報じられ、お心を痛められることとなります。
その中でも最大のものは、やはりチャールズ王子の元妻であるダイアナ妃(1961~1997)の死に関するものでしょう。
英国民に大変人気のあったダイアナ妃(彼女は離婚後も、「ウェールズ公妃」の称号は保持していました)の交通事故死に際して、女王が沈黙を保たれたことが、冷たいのではないかと激しい非難を浴びました。
これに対して、女王はテレビで哀悼の意を表するメッセージを送ったり、彼女の名誉回復を図るなど、事態の収束に努められました。
女王は晩年に至るまで公務を続けられました。さすがに、90歳を迎えられた頃からは、一部を少しずつ王太子に引き継がれてはいきましたが。
2022年9月20日、女王はスコットランドの離宮バルモラル城において、老衰のため崩御されました。享年96歳。
その死を多くの英国国民、そして世界中の人々が
女王は中々に茶目っ気のあるお人柄で、様々なエピソードが残されていますが、そのうちの一つ、2012年のロンドンオリンピックの際の逸話をご紹介しましょう。
同大会の開会式の演出用に制作された短編映画の中で、ジェームズ=ボンドがバッキンガム宮殿の女王の私室を訪れる場面があり、当初はそっくりさんを使う予定でその旨の許可を求めたところ、女王ご自身が出演したいとおっしゃり、リアル『女王陛下の
このことは、王室メンバーにすら秘匿されており、開会式で目にして皆驚いた、とのことです。
陛下のご冥福をお祈り申し上げます。
というわけで、丸々1年間に渡り連載して来た『女王様はロマンの塊~古今東西女性君主列伝~』も、これにて終了。
次話に『おわりに』を掲載し、完結となります。
お付き合いありがとうございましたm(_ _)m
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