06 祝宴の夜 其の一
とうとうお披露目の祝宴の日が来た。
忙しくしている女官たちを横目に抜け出し、花繚宮へ向かう。
「さぁさぁお二人共、今日は格別に素敵に仕上げて差し上げますわね」
侍女頭の
嶺依は器用なのでとても化粧を施すのが上手い。そして彼女は意外と雄弁であった。乳母からの付き合いという事もあり月鈴の事は知り尽くしているので、あれは駄目、こんな発言はしない、等と随時駄目出しが逐一入る。
立場上顔には出さないが、このような事になって、陛下とともに深く悲しんでいたのも彼女だ。
「
「そーなんですよー! わたしとそんなに似てるかは別として、とっても可愛いんです、えへへ」
御髪を整えられつつ
次に、隣で姫君になっていく
やはり口は少々悪くても高貴な血筋は顔に出るようで、そこいらの女性よりずっと美しく、つい見惚れてしまう。
やおら鏡越しに目線が交差する。
「何見てんだよ、こっ恥ずかしいだろ」
「いいじゃないですか、綺麗で羨ましいなぁって思ってるんです」
「複雑な気分だぜ…」
◇
そんなこんなで、
十八歳になり正式な婚姻をするまでには、約一年の猶予がある。
故に、今回はただの内輪へのお披露目程度の宴との事だった。大層な規模ではないものの、美しい花々が配置され、緋毛氈が敷き詰められた無駄に広い屋外の東屋で、長々と古楽器の演奏と舞踊を鑑賞しながら出された冷たい宮廷料理を頂く。
この場に二百人程度いるだろうか。公的な会合と同じく東の長卓にはお偉方の文官、西の長卓には武官が座っている。
少なくとも上座に近い所にいる美しい男性たちは、皆陛下の側室なのだそうで、最高位の四夫君、なる四人の方だ。
とりあえず麗孝としては、ひっきりなしに上座に挨拶に来るお偉い官の方々や側室に、愛想を振りまきながら月鈴の横に控えて、笑顔で頷いていればよいのだ。
「この度は大変喜ばしく存じます、麗孝様。公主様の一存でお決めになられたとか、幸運でございますな。お父上もさぞお喜びでしょう」
「ありがとうございます」
皆が皆、一体何故このような低い家柄の者がという疑問で渦巻いているのがビシビシ伝わってくる。香麗は頭をフル回転して把握しようと努めてはいるが、あまりにも慣れない事ばかりで疲労困憊だ。
(もはや誰が誰か解らなくなってきたぞ… 初っ端に挨拶したのが丞相で合ってるよね… えぇと、今のは誰だっけか…)
「麗孝殿、お顔色が優れませんけれども… 大丈夫ですか?」
扇子で顔を隠しながら、隣に座る月鈴が気を遣って小声で囁く。
「ちょっと裏で新鮮な空気を吸ってすぐ戻ります」
「お気をつけて」
さらに色々な香りが充満しているので、鼻が効かない。
少し気分が悪くなった。
香麗が後ろの幕を上げて裏側に行くと、祭礼局の女官たちが控えて各々仕事をしており、その中に、遠くの方でせわしなく動く小鈴らしき姿も見える。
暗がりなのと底上げした
足元に気をつけていると案の定、酒を運んでいた若い女官が目の前でつんのめってしまったので、優しく抱き止め手を取ると、
「大丈夫ですか、気をつけてくださいね。わたくしが運びましょうか?」
「いっ、いえいえいえとんでもございません、恐れ多い事にございますっ!」
(女性にはゆっくり優しく接すべし、なのだ。こんなかんじでいいんだよね、怪しまれてないかドキドキするわ…)
女官は
(はぁ、裏方は大変だなぁ、お手伝いできなくて本当ごめんなさい…)
今のところ、婚約者である
何だか客寄せ
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