花嫁を呪い殺すと噂の王のもとへ嫁がされましたが、呪い無効化スキルがあるので安心です!

桜月ことは

プロローグ

「それでは誓いの口付けを」


 神父の言葉を合図に、エドワードはそっと花嫁のベールを捲った。

 怯えた表情の花嫁は、恐怖を堪えるようにグッと目を瞑り震えている。

 こんな反応の花嫁へ、誓いのキスなど贈りたくないというのが本音だったが、皆が固唾をのんで見守るなか、エドワードも仕方なくそっと花嫁へ顔を寄せた。


「クッ……あぁっ!?」

「っ!?」


 しかし、口付けを交わすことのないまま、花嫁は突如目を剥きだし、胸を掻き毟るようにもがき苦しみながら吐血した。


 控えていた医師らがすぐさま駆け寄り対処しようとする間もなく、花嫁はピクリとも動かなくなり息絶える。

 騒然とするなか聞こえてきた来賓たちの囁きは「ああ、またか」というものだった。


「これで何人目だ?」

「やはり、陛下は呪われているのだ」

「次の花嫁はどこから連れてこられるのか……選ばれた家は、生け贄を差し出すようなものだな」


(これで四人目……)


 死んだ花嫁を眺めながら、氷のような目をしたエドワードは表情一つ変えず佇んでいた。

 自分は呪われている。そんなことは分かっている。


 一人目の花嫁は、結婚前夜に血を吐いて死んだ。


 二人目の花嫁は、婚約が成立した次の日の朝に、この城の客室のベッドで冷たくなって発見された。


 三人目の花嫁は、式で着る純白のドレスが仕上がったと嬉しそうに報告に来た直後に……


 そして四人目は……呪いを恐れ顔合わせもないまま先ほど初めて会い、誓いの口付けの直前に、エドワードの目の前でやはり血を吐いて死んだ。


 もっと言えば、ここ数年で家族含め、王位継承権を持っていた親族は全て謎の死を遂げた。

 なのにエドワードだけは、無傷で病に伏せることもなく生き残ってしまったのだ。

 十六歳になったばかりの頃、突然国王にならざるを得なくなったエドワードは、この数年で呪われた王の異名まで付けられ今ではすっかり恐れられている。


 身内を全て失い花嫁すら迎えられない。そんな孤独や虚無感。

 それは彼の心を凍らせ閉ざすには十分すぎる境遇だった。

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