三章 山での攻防 後編  4

 その間に、「先に、…行け!!」と、テッドが叫ぶ。近くにいる美女にいったようだ。

 それを受けて、彼女はバンダナの男を伴いながら、ゆっくりとだが歩きだして、遠くへと離れていく。

 テッドも見届けると、遅れながらもノイマンを抱えて移動しだし、

 「ノイマン。…ほら、私達もいくぞ。」

 と絶えず、語りかけている。

 その光景に俺は唖然とした。とても信じられない様子だった。誰かを助ける事について、全く理解できない。あのキールの坑道で働かされている時も、ギルドで喧嘩に巻き込まれた時も、自分以外の誰かが他人を救おうとする事などなかった。今まで皆が見てみぬ振りをするのだ。傷つこうが、死にそうになっていようが、自分だけが助かろうとするのだ。

 「なんでだよ。」

 と続け様に、俺は小さくぼやいて、目の前の光景を理解しようと、思考を巡らせる。だが、頭の中は混乱して上手く正常に働かない。あんな他人を助ける事をするのは今までで知る限り、リキッドやダフネだけである。だが、それでも関係があるという理由がある。同じ様にテッドも良い奴なのだろうとは分かるのだが、ノイマンの様な男を助けようとするのか。

 「お前。…そこまで、…して、何で助けるんだ?」

 ふとノイマンがテッドに聞いていた。助けられる人物に該当しないと、自分でも自覚しているのだろう。

 「なんで、どうして助ける?」

 と、俺も同じように、思わず呟いていた。

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