一章 十年後の解放 8

 「なんなんだよ…いったい?」と俺は前を振り返りながら、力なく呟いた。

 ふと視界の端に一台の馬車が映りこんできた。此方にやって来ると、ちょうど目の前に停車した。

 さらに御者の青年が台から降りてきて、馬車の扉を開けた。

 すると、中からガッシリした身体をした白髪の老人が現れ、「おぉ……!」と感嘆の声を漏らしながら、此方へとやってくる。

 すると、俺は老人に力一杯に抱きしめられ、胸に顔を埋めた。

 あまりにも突然の出来事だった。

 俺は驚きのあまりに、老人を突き飛ばす。

 「何をしやがる!!」

 対して彼は、よろめくも倒れる寸前で踏み留まって、話しかけてきた。

 「いや、すまない。…君を見たら、つい感極まってね。…私は君に話がある者なんだが…。」

 「はぁ??」

 「実は、…山道の少し先に、小さな宿場街で宿を取ってあるのだ。…二人で話をしないか?」

 「…何で、俺が一緒に話をしないといけないんだ?」

 と、俺は一旦は、嫌々と断る。

 「君に、…凄く関係のある話なんだ。…少しだけでいいから。」

 しかし、老人は切実な表情で、しつこく食い下がってくる。

 俺はイライラしていた。ただ同時に、ハッと気がつくと問いかけた。

 「あんた、まさか。…俺の借金を肩代わりした奴か?」

 「あぁ、そうだよ、…私だ。」

 と老人は、力強く頷いていた。

 俺は少し考えこんだ。だが最後には押しきられ、「…わかった。」と了承した。

 すぐに老人は隣へと並ぶと、此方の背を押して馬車へと促す。

 ようやくして、二人でワゴンに乗り込んだら、緩やかに馬車は走り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る