一章 十年後の解放 7
対してキールは、此方の様子を気にも止めずに、話を続けている。
「君の借金を、代わりに全額払ってくれた人がいてね。…だから、今日で君は解放されたんだよ。」
「あ、え?…」
と俺は未だに開いた口が塞がらない状態だ。全く思う様に行動が出来ない。
頭の中にも言葉が入らず、相手の理解するのに手こずる。まるで別の国の言語を聞いているみたいだ。
「さぁ、別室で湯浴みして、早く着替えろ。」
しかし、此方の様子にキールは気にも止めないようだ。既に次の指示を出していた。
すると、慌てて監視員の男が動きだした。此方を呼びつけ、さらに腕を強く引っ張って促してくる。
「さぁ、さっさと歩け。」
「あ、あぁ。……」
と俺は渋々と頷きつつ、移動し始めた。まだ頭の中が混乱しており、訳が分からないまま愚直に指示に従っていく。
その去り際に、「さよなら、もう会わない事を祈るよ。」とキールの、別れの言葉が聞こえてきていた。
ただ次の瞬間には、扉が閉まってしまった。
そうして俺は、監視者と共に別の部屋と辿り着くと、さっさと出ていく準備をしていたのだった。
※※※
俺は着替えと湯浴みを済ませた。
それから、一人で建物から外に出てきて、少し先まで歩く。
炭坑の敷地内を五百メートル進めば、見上げる程に高いアーチ状の門がある。
すぐ側には、門番をする二人の男が配置されており、此方の姿を確認するや否や動き出した。
やがて門が解錠され、ゆっくりと開いた。
そのまま俺が通り抜けても、何も言われない。
かつては過去に逃げ出そうとした労働者の誰も彼も、門を通り抜ける前には、直ぐに監視者達に取り押さえられ、牢屋へと戻る。
俺は作業中に噂話で聞いていた。しかし、今は門から出ていき、敷地の先に立っている。
ギギギ、と門が徐々に閉まる音がしてきて、ーー
すぐに俺は後ろを振り返る。炭坑を一瞥すると、同時に大きな音を立てて、再び門が閉まったのが見えた。
あまりにも呆気ない程に拍子抜けである。何度も挑戦しても、一向に到達するのも出来なかった場所に来た実感が持てなかった。
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