第2話 父の終活。

父の遺品整理が終わった。

父は終活で片付け先と物の価値を伝えてくれていた。

流石に生前に手放す勇気はなかったらしく、「手放すことを頼んでいいかな?」と車の中で俺に言っていた。


遺品の中に「形見分け」と分類された、「2度と手に入らないと思われる」と書かれた本があり、父の友人で何度も会ったことのある関谷さんの所にお邪魔をした。


関谷さんは怪我で入院をしていて、父の葬儀には来られなかった。

自宅に持っていきたかったが、関谷さんの奥さんから「主人が会いたがっているから、病院にお願いできる?」と言われてしまい病院になった。


「匠くん!久しぶりだね!」と言ってくれた関谷さんと、談話室で少し話しながら本を渡すと、関谷さんは目に涙を浮かべて「本当にまこっさんは残念だったよ」と言ってくれて、「その本も2人でかき集めた時に、まこっさんが大学を出て社会人になってから手に入れた分なんだ。これはよく2人で先に死んだ方が、残された方に渡すって話してたんだ」と言う。


中身は大昔のアニメやゲームの資料集で、試しにネット検索をかけたらヒットしないものまであって、中にはとんでもない価格がついていたり、ただいま在庫がありませんとなっていた。


「俺はまこっさんとゲーム友達だったからね」


関谷さんが穏やかだったのはそれまでで、「匠くんに言う話ではないが」と言ってから母への不満を漏らし始めた。


父の性格からしたら母は不一致な相手で、晩秋を汚していたと漏らす関谷さん。


「まこっさんはもっと人付き合いの豊かな人だったんだよ。でも奥さんが気難しい人で、まこっさんを1人で遊びに行かせると不機嫌になるし、まこっさんが気を使って同伴しても不機嫌になる。まこっさんはいつもそれを気にしていて、最後はメールやメッセージばかりになったんだ」


最後に関谷さんは「なんで、まこっさんはあの人にしたんだろう…。もっと仲の良い人もいたはずなのに」と漏らしていた。


気まずさから俺が帰ることにすると、関谷さんは「嫌な気分にさせてしまってすまないね。生前まこっさんからは手紙を貰っていたんだ。今度見せるけど、そこにはもし匠くんが年代特有の悩みを持った時に、話だけでも聞いてもらえないかと書いてくれていたんだ。手紙も見せるし話も聞くから、ぜひ連絡をくれよ」と言ってくれた。


まあ確かに30になったら別の悩みが出るのだろう。

父の根回しの良さに俺は笑いながら帰って行った。



俺は帰宅すると父の手紙を開けてみた。

生前に渡された方は亡くなってすぐに読んだが、遺品整理中に父の部屋から出てきた手紙にも「坂上 匠様へ」と書かれていたので、関谷さんに本を渡したことで区切りがついたことにして読む事にした。


中を開けると、更に封筒が入っていた。

そして同封された便箋に[匠へ。きっと葬儀や遺品整理なんかで迷惑をかけたね。迷惑ついでに、この手紙を郵送ではなく届けてほしい。住所は年賀状のリストにある]と書かれていて、相手の名前を見ると女性のもので俺は驚いた。そして手紙の中にその相手のメールアドレスと電話番号とメッセージアプリのIDまであって、俺はメッセージアプリから[はじめまして。坂上匠と申します。父、坂上真が亡くなりました。父の手紙に会ってきてほしいとありました。会えますでしょうか?]とメッセージを送る事にした。



既読がなかなかつかなかったが、3日して既読がつくと[日曜日に来れますか?]と返信があって、俺は日曜日に父の手紙を持って出かける事になった。


だが呼ばれた先は年賀状リストの住所とは少し違っていた。

住所の最寄駅は大宮のそばの大和田駅だったが大宮駅を指定された。


午後一時半。

駅で待つと[シャツ姿の方ですか?]とメッセージが入り、辺りを見渡すと若い女性がこちらに向けて歩いてきていた。


若い女性は、メッセージのやり取りが表示されているスマホの画面を向けてきながら、「坂上匠さんですか?」と聞いてきた。

俺は頷いて「萩生楓さんですか?」と聞き返すと、「私は娘の紅葉です。母に会ってあげてください」と言われて、連れて行かれたのは病院だった。

この前の関谷さんといい、どうも父くらいの人たちは病院にいるイメージになってしまう。

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