第11話 クリスマスの夜に喧嘩なんてもいい加減やめてくれ

「はっ!?」


気がつくと、私はテーブルに伏して眠っていた。

一番最初の気になったのは、

いびきをかいていなかったかどうかだ。


気取ってジンなんか頼んだから、眠気が来たのだろうか?

口から涎が垂れている。



それにしても、怖い夢だった。

夢でよかった

本当に夢か?

あんなにリアルだったのに?


私は、隣のテーブルを見た。

相変わらず、ロレックスの男と、グッチの女は、着地点が皆目わからない見つからない不毛な口論を続けている。


私は、この不毛な口論の結末を知っている。

そう・・・グラス。


もうやめてほしい。きっとこの店の全員がそう思ってるよ、きっと。


と・・・・それはそうとして、

さっきの銃撃戦は、単純に夢として片付けて

ホッとして良いものだろうか?

よだれくらいどうでもいい。


眠ると悪夢を見る、あるいはどっか異世界にジャンプする。

どうやらそういうシステムの中にいま私はいるらしい。

だから眠ってはいけない。


もっとも眠るどころか、

まばたきするのさえ怖いよ


私は、ライムがあしらわれたジンのグラスに口をつけた。

飲んだら酔いが回るとわかっているのに、口寂しくてつい飲んでしまう。


やば、ウーロン茶にしとけばよかったかな。


体が猛烈に暑いや。


いつの間にか、店内の照明はさっきより暗くなっている。

どこから使い古した油の、匂いが漂ってきて、

私は猛烈な吐き気に襲われていた。


「そんなの余計な心配よ、私はあなたの悩みも心配も仕事の愚痴もぜんぶ受け止めて上げたいのに」


「もういいわかったよ、僕ら価値観が違うんだ」


「何それ、価値観が違うもの同士が一緒に楽しいこと探すのが恋人でしょ」


「君は僕に安らぎをくれる人だと思ってたけど違うんだ。君といるとイライラしてしまう」


「そんな自分勝手なこといわないで、私こんなに頑張っているのに」


きっとクリスマスのためにいつもより濃いめにお化粧してきたのだろう。

彼女が流したマスカラ色の涙は、女に頬に黒い涙の跡をつくりなが落ちていく。


「私たちもう終わりだよ、あんたなんてたくさん!」


不意に女が男にグラスを投げた。グラスはスローモーションでゆっくり男の顔に直撃して男の髪を濡らし、高そうなスーツを濡らして床に落ちた。

グラスは、奇跡的に割れずに床に転がった。


「がしゃん!」


男はグラスを足で踏みつけた。


“ばしん!”


嫌な音がした。

よりによってワルツフォーデビーの演奏が終わり、

皆が拍手をしているときだった。


”えーん、えーん”

泣いていたのは、女ではなく、私の中の小さな子供の私だった。

続く





















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