第6話 最後の男
「車はどんな車ですか?」
「どんな車かはわからない、ただ、待ち合わせの場所に居ればいいって」
「どんな男性ですか?政治家?それとも資産家?」
「それもわからない。今度のお客は謎だらけ、だからあなたに頼みたいんだ。今から待ち合わせ場所の地図、メールするから受けてくれる?」
「承知しました」
「真衣華、今までよくがんばってくれた。この仕事終わったら、ゆっくりしてね」
「はい、心ゆくまで」
電話を切ってから、八重子社長がメールを送信してきた。
「バナナチップスか・・」
OKその店はよく知っている。
たくさんの思い出がある懐かしい店だ。
私はクローゼットを開けた。
男がいかにも好きそうな黒い下着をつけて、体のラインが透けて見える衣服を身につけた。
そして、母のかたみである S&W M &P 9シールド小型拳銃を、バッグに忍ばせ、かちりとバッグの口を閉じた。
亡くなった母がなぜ小型拳銃を所有していのか最後まで聞けなかったけれど、
聞かなくてよかったとも思う。
今ならわかる。
誰にだって人には言えない秘密の事情があるものだ。
きっと、穏やかで優しかった母にも、殺したいくらい憎い相手がいたのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・
午後1時。私はバナナチップスの扉をくぐり、店の奥にある丸いテーブルに肘をついて目を閉じて瞑想する。
瞑想は、仕事の前に、いつもするルーテーンだ。
心を閉じて、魂を凍結させる。
私が私を殺す儀式だ。
そうでもしないと、見知らぬ男を受け入れることなど、
恐ろしくてとてもできない。
今から演奏が始まる。
私は、初めてのデートみたいにドキドキしていた。
背中に汗が滲んで、嫌な匂いをさせている。
今日はいつもと違う。胸騒ぎがする。
嫌な気分だ、生まれてから一番嫌な気分かもしれない。
綺麗にクリスマスデコレーションが施された店内で、平和に食事をする裕福そうな人たちをしりめに、私は最後の男を待っていた。
続く
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