警告する…

唐土唐助

第1話 どこにでもある異世界転生ものです

「……うっ、うっ……や、やめ……っ……」


ピリリという不快な電子音。

しかしこの時ばかりは目覚まし時計に感謝した。


「……また……あの夢か……」


夢には僕と、もう1人誰かが……

その誰かは僕に必死に何か言っている。

これは警告?

そして僕の手には……


「うっ!」


続きを思い出そうとした途端、頭がズキリと痛む。


「……学校……準備しなくちゃ……」


その日も僕はいつも通り、学校に向かった。



学校は嫌いだ。

勉強も運動も得意ではないし、何より僕のクラスには林田善吉がいる。

それが最悪だった。


「おい、桐島。今日も放課後」


教室に入った僕を見つけるやいなや、林田はそう耳打ちした。


「う、うん、分かった」


これでもう何度目になるだろう。

校舎裏に呼び出されるのは。


何度目になるだろう。

クラスメイトから脅されて、お金を取られるのは。


授業が終わり、放課後の校舎裏に急いで向かうと、すでにそこにはいつもの3人がいた。


「桐島君いつも悪いね」


桐島銀一郎(キリシマギンイチロウ)僕の名前。


林田を含む不良に3人に囲まれた僕は、渋々財布から千円札2枚を取り出した。

林田はそれをバッっとひったくるように取り上げる。


「はっ、なんだよ!たったこれだけ?」


林田は僕から奪った千円札をピラピラと振って他の2人に見せる。


「そんな事言っても。それ以上は今月お小遣いもなくて……だ、だから殴るのは!」


僕が殴られるのを恐れ震えているのを察してか、カツアゲした不良の内の一人、小栗が、林田をなだめてくれた。


「まぁまぁ、落ち着けよ。銀一郎君も明日は親に頼んでも何でも、もっと持ってくるってよ、な?そうだろ?」


そう言って僕に厭らしく笑いかける。

小栗はずるい奴だ。こう言えば僕がまたお金を持って来るのを分かっている。


金を持ってくるのも嫌だ、殴られるのも嫌だ。

でも断る事は出来ない。

それは僕が弱いからだ。


「うん、明日はもっと持ってこれるよ……」


弱い僕には選択肢が無い。


「だったらまた明日、同じ時間、この場所だぞ」


そう言い残し、奴らはやっと僕の前からいなくなった。


「はぁー」


思わずため息が出る。

あの2000円は今日親が家にいないからと食事代にくれたものなのだ。


……うじうじしていても仕方ない。食事は冷蔵庫にあったハムでもかじっていよう。


「……あそこ、行こうかな……」


弱くても切り替えだけは早い。これが僕の長所だろうな。

ああでも、明日お金、どうしよう。


落ち込みながらも、僕は図書室に足を運んだ。そこは僕のとっておきの場所だった。


うちの学校の古くて汚い図書室は利用者が少ないということで、図書委員すら廃止されてしまい、近々改装工事も決まっている。


誰もいない図書室は、静かを通り越しもはや不気味だ。


学校のすぐ近くに綺麗な市立図書館ができてしまったのも図書室衰退の理由の1つだろう。


僕以外にここを利用しているとすれば、リア充カップルがここで逢引しているのを一度見た事がある。

その時は慌てて帰ったが、それ以降は誰とも出くわしていない。


不気味で誰も寄りつかない図書室も、人に会うのが好きじゃない僕にとっては好都合だ。


何か面白そうなものはないかと思って本棚を探すが、流石の貧弱ラインナップ。目ぼしいものは見当たらない。


それでも暇を持て余した僕は、だらだらと本棚を眺めていたところ、本と本の間に入り込んでいる一冊の大学ノートを見つけた。


「……なんでこんな所にノートが?」


僕はノートを手に取り、何が書いてあるのかパラパラっと流し読みしようと思ったのだがページがのりか何かでくっついているのかそれができない。


「あれっ?」


不思議に思い、今度は最初のページから一枚ずつめくってみると、すんなり開いてくれた。


ノートの1ページをみて、僕は思わずヒッと声をあげてしまった。


「おめでとうございます!!見事ノートを見つけた幸運なお客様!あと最初に説明しとくけどノートは1ページずつしか開けない。“そう魔法でプログラムされてる”」


僕がその文を読むと、文字わじわりと光を帯び、消えてしまった。

白紙になったページを見て一瞬固まってしまう。


僕はもう一度パラパラと流し読みしようと試みるがノートは開いてくれない。


恐る恐る一枚ずつ開いてみると、すんなり開いてしまう。


「疑り深いやつだな!言ってるだろ!開けないって」

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