ちんちゃん

@skrkmkm

第1話 サクラ

初めまして。私の名前は桜子と言います。


なんだか古臭い名前ですよね。私もそう思います。

同級生の子はみんな、ユカだとかマイカだとかリュウセイなんて、比較的新しい感じの響きの名前です。


以前はあまりこの名前が好きではありませんでした。

でも、私がこれから語る一連のお話を聞いてもらえたら、私がこの名前を好きになれた理由がわかってもらえると思います。



私には、お姉ちゃんがいました。

と言っても、人間の姉ではなくて、祖父母の家で飼われていた犬なんですけど。

私が産まれたのと同じくらいの時期に祖母が飼い始めた、黒い雌の犬でした。犬種はたしか、北海道犬と柴犬の雑種だったと思います。幼い頃からずっと一緒に育ってきた彼女は、お姉ちゃんと呼んで差し支えないと思います。

名前を、サクラといいます。


私と同じ、桜です。


祖母の家の裏庭には、小さな桜の木があります。

毎年、桜が満開になる頃には家族でお花見をしていました。

ただ、普通のお花見のあとには必ず、その桜の木に「ありがとう」を言うのが我が家の決まりでした。


きっとその桜にちなんで名付けられたのでしょうね。


私の誕生日、12月なんですけど。

まぁ、それは別にいいんです。


幼い頃の私は、サクラと遊ぶのがだいすきでした。

散歩にも必ずついていきました。

サクラはいつもはおとなしくて優しい犬でしたが、散歩の時だけはとても元気で、ぐいぐい私たちを引っ張っていきました。本当は二人きりで散歩をしたかったのですが、首輪とリードがボロボロだったので、私がリードを握っているとすぐに手のひらが傷だらけになってしまうので、散歩にいくのは祖父も一緒でした。


大好きなサクラとの関係は、ずっと続くと信じていました。けれど、ある事件をきっかけにその関係は崩れてしまいました。




小学5年生になる年のことでした。


元日、祖父母の家に家族で遊びに行き、おせちを食べて、その後サクラの散歩に行きました。

何故かこの日はいつも以上にサクラが元気で、普段は通らない道や、同じ所を何度も往復したりしました。

祖父はとても大変そうでしたが、私はサクラと散歩する時間が増えて、うきうきしていました。


夜、夕飯を食べていると祖父がいきなり

「はーーーい」

と言って、部屋を出ていきました。


(お客さんかな。でも、チャイムの音なんてしなかったような…テレビの音で私には聞こえなかったのかな)


次の瞬間、玄関のほうから今まで聞いたこともないサクラの唸り声が聞こえてきました。そして

「ギャンギャンギャンギャン!!!!」

「うわあああああっ!!!!」


慌てて家族みんなが部屋を出ると、そこには腕を噛まれて血を流し倒れている祖父と、ぐるる、と唸るサクラの姿がありました。


祖父は、そんなサクラを叱るわけでもなく、ただ抱き締めて、なにか小さな声で言っていました。


その後のことは、良く覚えていません。

けれど、私は急におかしくなってしまったサクラのことが怖くなって、しばらく祖父母の家に行くことが出来なくなってしまいました。


その年は、桜の木にありがとうを言うことができませんでした。


それからでした。私の夢に


ちんちゃんが現れるようになったのは。



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