第11話
「自分をどう売り込むか?」
「そうです」とエルザは身を乗り出した。
ジャスナは気押されて目を泳がせる。
「ん……と、そう後宮に十年勤めていました」
「それが?」
「え、だから行儀作法とか言葉遣いとかは一通り……エルザ、目が怖いんだけれど」
ジャスナの抗議にエルザはため息と「失礼」と言葉を吐き出した。
「残念ですがジャスナ、それでは売り込みになりません」
「そんなあ」
「確かジャスナは最初後宮の下働きから始めたんでしたよね」
「そう」ジャスナは首を縦に振った。
「エルザは違うの?」
尋ねながら記憶の糸を手繰る。
「エルザは、そうね違った。私や同じようにあちこちの村から集められた子達は挨拶を何回も練習させられたわ。掃除や洗濯、調理場への食材運びに野菜の下ごしらえの手伝いやなんかの合間に何度も。その中にエルザはいなかったわね」
今思い出したと言うとエルザは肩をすくめて微笑んだ。
「わたしの育った孤児院は院長が貴族出身でして、行儀作法に言葉遣いと姿勢は本当に厳しくしつけられたのです。ですが貴族やいわゆる名家と呼ばれる家ならば皆同じようにしつけられていますから」
「売り込みにならないってことね」
ジャスナが肩を落とす。
「他には?」
「他と言われても」
後宮時代のジャスナの仕事は、王の側室候補の身の回りの世話だった。
爵位の有る無しの貴族令嬢に豪商、富農の息女達。
目を見張るほど善良な者も居れば逆の者も居た。
残念なことに王は亡き王妃の他に女性を迎える意思がなく、皆失意を抱えて後宮を去って行った。
確かに彼女達に自分が教えられることがあったかといわれれば──何かあったかな?
ジャスナの沈黙をどうとらえたか。
「たいへん厳しい言い方ですけれど、ジャスナが家庭教師の職を得るのは難しいと思いますよ」
「でも他に売り込みできそうなところといわれても」
「そこでご提案なのですが」
エルザはぐい、と身を乗り出す。
さっきより近くなったエルザの顔に押されるようにジャスナは仰け反った。
「わたしのところへ来ませんか。わたしを手伝ってください」
「ええ?」
ジャスナは目を見開いた。
「エルザのとこっていうと、孤児院」
「そうです」
エルザは大きく頷く。
「城壁の外ですが富裕層の別邸も多く、騎士団の詰所も近い。治安が良い
エルザのプレゼンにジャスナは若干引きながら
「でも、私結婚してるし」
「別居婚でしょう?」
そう言われてジャスナは言葉に詰まってしまった。
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