初恋の相手と結婚するリスクについて

@koronakoko26may

第1話

ジャスナが幼なじみのケイトリンと結婚して早、三月みつき


新居は王都の郊外に求めた……かった。


ジャスナの希望である。ただの幼なじみだった時にも、遠距離恋愛中の時にも、もちろん結婚を決めてからも、ケイトリンには事あるごとに話し希望を伝えてきた。

伝えてきた、伝わっていると思っていた。


結果としてケイトリンには伝わっていなかったのだ。なにひとつ。



郊外、郊外、郊外とは?

言葉だけだとふんわりしているイメージなのでジャスナとケイトリンの認識に違いがあったようだ。

調べたてみたら都市部にしている地域とあった。ジャスナの認識の通りだった。

だよ、こことても重要とジャスナは思う。



エークレット王国の王都アイゼラは王宮を囲う城壁と堀の外に広がる城下町。


ここには、所領持ちの貴族の王都での館と、教会や、騎士団の詰所に、王宮で働く人々の為の公用住宅がある。

その外側には薔薇の花弁のように七重に取り巻く城壁があり、城壁と城壁の間にはそれぞれ街があって、外へゆくほど庶民的な活気溢れる街となる。


結婚を機に後宮勤めを辞めたジャスナは外から二番目と三番目の城壁に挟まれた街に仮初めの生活拠点を築いていた。


ジャスナ的にはったらこの七つの城壁の辺りまで。


でもケイトリンには違ったようだ。


七つの城壁を出るとのどかな田園風景が広がる。

ここから三つの濠を越えるまでが王都の胃袋を支える穀倉地帯だ。


その先に王都の八つある衛星都市がある。


東の街リンサ。

この街の閉門時間は午後四時だ。

王都の城下町の開門が午前六時と決まっているから、同時に出立して休息無しで馬車を走らせても間に合わない。

七つの城壁の一番外側の城門からでも、リンサの閉門には間に合わない。


どんだけ譲歩ゆずっても王都郊外っちゃここまでだ──とジャスナは考えていた。

日帰りが可能できてこその郊外。


けれどケイトリンのは違ったのだ。


新居はこのリンサからさえ二百キロほど離れている。小さな町と村の間で、人家はまばらな地域だ。


そんなド田舎を『王都郊外の閑静な住宅』と不動産屋はほざきやがった。


人家どころか砦に向かう主要道路からも外れた雑木林と叢のただ中である。


不動産屋のふざけた世迷い言に、静かで空気が美味しいところですね、とケイトリンは答えたのだ。

笑っていた。


ジャスナは泣きそう、にもならない。

そんな気分は七つの城壁の向こう側に置いてきた。

ショックを通り越し過ぎて、悲しみより怒りが沸き起こる。

噴火する火山にこんなにも共感を持って理解できる経験なんてしたくなかった。


「私どこで間違えたのかしら」


砂埃と害虫を巻き上げた風にほつれた髪をなぶらせてジャスナは虚ろに呟いた。

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